「デアデビル」ここがアツいよ名場面5選 ─ マーベル史上最も暴力的でハードな本気ドラマを語りたい

2025年3月5日にディズニープラスで配信されるマーベル・ドラマ「デアデビル:ボーン・アゲイン」に向けて、これまでに登場している「デアデビル」全3シーズンを観ておきたい、あるいは復習しておきたいという方も多いはず。1シーズンあたり13話あり、各話1時間近くあるので、それなりに長い道のりになるだろう。
エピソードやシーズンごとの要点を整理したまとめ記事も役に立つだろうが、「デアデビル」に関しては非常に見応えがある傑作ドラマだから、とにかく普通に観て欲しいという思いもある。そこで今回は、筆者が「デアデビル」全3シーズンの中から独断と偏見で選んだ、絶対にこのシーンはスゴいぞという激推し名場面5つをご紹介する。あなたの鑑賞意欲を掻き立てる特集となっていれば幸いだ。

この記事では、具体的なシーンを紹介するという性質上、物語の内容について言及しております。ネタバレに相当する内容も含まれますので、ご了承ください。
(1)シーズン1 第13話「デアデビル」デアデビル初変身 VS キングピンの死闘
“最終話のタイトルがシリーズタイトルになるとアツい”とは少年漫画やアニメでよく語られるトピック。まさに「デアデビル」はそれである。シーズン1の最終話のタイトルはズバリ「デアデビル」。さらにざっくり言えば、主人公マット・マードックがデアデビルのフルコスチュームに“変身”するのは、この最終話クライマックスが初なのである。アッツ〜!
盲目の弁護士である主人公マット・マードックが執念的に戦ったのは、あらゆる陰謀でニューヨークを裏から支配する実業家ウィルソン・フィスク。自身の野望のために罪なき人々の幸せを容赦なく奪いながら、表では慈善家ヅラしやがる恐ろしい巨漢男だ。
マードックはそれまで、黒シャツに黒バンダナを被った即席の衣装で活動していたが、戦闘が激化する中で防具の必要に迫られる。最終話でこのスーツが完成すると、全13話のシーズンの中でついに着用してお披露目したのは、クラマックスもクライマックスのオーラスバトルだ!

“シン・デアデビル”となったマードックはヒーローのコスチュームでついに宿敵の前に姿を見せる。ズドン、ドン!心臓を拳で叩く激重サウンドと共に、カメラは下から煽り、闇夜のデアデビル仁王立ちを映し出す。「デアデビルが一番カッコよく見える角度はどれか?」という問いを誰がどう会議したとしても、行き着く答えは必ずこれなのだと言わんばかりの堂々たるショットであるので本編で確認して欲しい。
これまでの12話≒12時間は、全てこの一瞬のためにあった。アドレナリンが全身を駆け巡ると、これに呼応するように、宿敵フィスクが丹田で雄叫ぶ。「お前を殺してやる!」戦闘準備がついに整ったヒーローが「やってみろ」と答えると、人間肉弾頭フィスクはリミッター解除で絶叫突進を仕掛ける。
パワー全振りのフィスクVS立体起動アクロバットのデアデビルによる戦闘の激しさは、家族みんなで楽しめるVFX満載の勧善懲悪ヒーロー作品のそれとはまるで違う。素顔の巨漢フィスクは「どあああああ!」「来いよ!来いよオラ!」と叫びっ放しで、覆面のデアデビルは新入手したステッキでバッコンバッコンに相手をタコ殴り。ルールも倫理もかなぐり捨てたこのデスマッチは、そこらの地下格闘技もリングを畳む気迫である。
暗い裏路地で繰り広げられる死闘は、もはやどっちがヒーローでどっちがヴィランなのかわからない。フィスクの方ははっきりと殺人に挑む立ち回りであり、デアデビルの方は狂気と復讐をも孕んだ正義を因縁の相手に力任せに叩きつける。この戦闘はデアデビル誕生の瞬間であり、彼の衝動と血に溢れた戦いの新たな原点でもある。ちなみに、二人の激戦はシーズン3でさらに気が狂ったような領域に脳天から突っ込んでいくから、これで終わりだとは思っていけない。
ところで最終話クラマックスに繋がるフィスクの護送シーン。明らかにクリストファー・ノーランのDC映画『ダークナイト』(2008)のトーンに大きな影響を受けていると思うのは筆者だけではないはず(シリーズ通じてそうなのだが、このシーンは特にだ)。スコアもハンス・ジマー直系の緊迫の曲調で、ヘッドフォンで大音量視聴すれば鼓膜ごとビリビリ揺れる。バチバチにスリリングな銃撃戦はポップでファニーなマーベル作品というよりアントワーン・フークアの映画のようでもある。そういえば当時は、「DCは映画が暗くてドラマが明るく、マーベルは映画が明るくてドラマが暗い」と比較されたものだ。
(2)シーズン3第4話「ブランドサイデッド」伝説の11分ワンカットアクション
「デアデビル」は地に足ついた激しいアクションが見どころだが、中でもシーズン3第4話で繰り広げられる約11分のワンカットアクションシーンは伝説となっている。もしもあなたが「デアデビル」を未視聴で、本記事を読みながら視聴を検討されているのなら、まずは本シーンだけでも再生してもらえれば、このドラマがどれだけ本気でアクションに取り組んでいるか、圧倒されつつ理解できるはずだ。ディズニープラスで再生する場合、22分28秒から33分13秒頃である。
舞台は刑務所。マット・マードックはウィルソン・フィスクを探るために侵入したのだが、全てはフィスクの手中だった。ハメられたマードックは身一つでこの要塞から脱出せねばならない。フィスクとの電話を切ると、不気味なブザーと共に部屋のドアがパタリと開く。廊下に出れば、危険な囚人たちが次々と襲ってくる。直前に謎の薬物を注入されて朦朧とし始めているマードックは、フラつきながらもこの絶対不利状況を生き延びねばならない。
この激しくて複雑なスタントアクションは11分もの間、一度も止まることなく、止まってる暇などなく、通しで展開される。途中でデアデビルを象徴する赤色のアラートが点滅したり、硝煙弾や火炎瓶が投げ込まれたりとギミックもあるほか、アクションだけでなくセリフのやり取りも行われる。「デアデビル」アクション演出のトレードマークでもある「狭い廊下での戦闘」が本領を発揮するシークエンスでもある。映像は極めて直感的だが、その裏では全てが緻密に計算されたタイミングで動いており、スタントパーソン一人一人の動きや配置、動線、カメラワーク、色や煙を使った演出が全て完璧にハマっている。
ちなみにクリス・ヘムズワース主演のアクション映画『タイラー・レイク -命の奪還-2』(2023)でも刑務所で乱闘しながらの脱出をワンカット調で描いている。海外ファンの間でも、この2作の生々しいワンカットシーンの精神的な共通性が語られている。
(3)シーズン3第5話「ザ・パーフェクト・ゲーム」舞台演出風、ポインデクスター劇場
キャラクターの出自を語る追想シーンは話の本筋から気を逸らしてしまうこともあるが、約14分かけてブルズアイ/ベンジャミン・“デックス”・ポインデクスターの生い立ちを描いたシーズン3第5話「ザ・パーフェクト・ゲーム」は、舞台演出を活用し、視聴者を狂気のデックス劇場の一員として巻き込む。
収監されながらもFBIを買収して出所し、自ら軟禁生活の監視状態に身を置いたウィルソン・フィスク。その実態は、FBIのセキュリティ付きで高級ペントハウスに住まうという、贅沢・安全で悠々自適なものだった。
フィスクは護送中の襲撃の混乱から自身を救出したFBI隊員ポインデクスターの類稀なる能力に目をつける。ポインデクスターは冷静沈着でスキルフルだが、特定の女性をストーキングする奇妙な面も見せており、視聴者は彼が何者なのか気になり始める。このエピソードでは、ペントハウス内でフィスクがポインデクスターにまつわる多量の記録書類を取り寄せ、これらに目を通す形で、謎の人物の過去を詳らかにしていく。

単なるフラッシュバックとしてではなく、ポインデクスターの半生の一部始終が、その場を劇場に見立てて映し出される。映像がモノクロに沈み、フィスクがゆっくりと視線を移すと、レンガ壁の一点に野球ボールを正確に当て続ける少年の姿が室内にある。少年のコーチが腰を下ろして語りかけると、同じようにフィスクも腰を下ろして観察する。
少年には忍耐がなく、苛立って衝動的な暴力行為を起こしてしまう。続いて室内ではカウンセリングの様子が再現されると、ポインデクスターは成長するにつれ、女性カウンセラーへの異常な執着を見せるようになる。実はポインデクスターは境界性パーソナリティを抱えており、人間関係を円滑に築くことができないのだ。大人になったポインデクスターは自殺防止センターのオペレーター職に就くが、かかってきた電話に対し自殺を幇助するサイコパスへと成長してしまう。

フィスク役のヴィンセント・ドノフリオはこの場面で、ポインデクスターの過去を単にスキャンしようとするだけでなく、哀れみや同情のニュアンスを込めて追体験を演じた。“ポインデクスター劇場”とでも呼ぶべきこの一連のシークエンスはその舞台的な演出手法によって、彼の哀しきピエロのような側面を巧みに強調した。「デアデビル」が、どれだけクリエイティブな限界に挑んでいるかを象徴する好例の一つに数えるべきエピソードだ。
同時に、ポインデクスターの物語がフィスクの観察下で転がっているようにも感じさせ、大ボスの支配力の強大さも滲ませている。このことは、後のエピソードで語られるカレン・ペイジのバックストーリーと対照的である。
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