テリー・ギリアム新作『ドン・キホーテを殺した男』に再び暗雲 ― 元プロデューサーが提訴、5月公開が困難に

『未来世紀ブラジル』(1985)や『12モンキーズ』(1996)などの鬼才テリー・ギリアムが、19年に及ぶ歳月を費やした新作映画『ドン・キホーテを殺した男(原題:The Man Who Killed Don Quixote)』に再びトラブルが報じられている。2016年当時のプロデューサーが作品の権利を主張、裁判に発展したことで劇場公開の見通しが立たなくなったのだ。
本作『ドン・キホーテを殺した男』は、2000年の製作開始以来あらゆる製作トラブルで実現してこなかった一本で、2002年にはその舞台裏がドキュメンタリー映画『ロスト・イン・ラ・マンチャ』としてまとめられているほど。長年の悲願をとうとう叶え、ギリアム監督は2017年6月に撮影を終了、同年10月には初号試写を終えたことが報告されていた。
『ドン・キホーテを殺した男』裁判へ発展
このたび発覚した問題の経緯を、フランスのラジオ局France Interは詳細に伝えている。
2016年、ギリアムが『ドン・キホーテを殺した男』の製作に再び挑もうとした際、彼は一人の映画プロデューサーと出会った。問題の人物、パウロ・ブランコ氏であった。資金調達が難航していた当時、ギリアム氏は彼との間に契約を結んでいる。しかしブランコ氏は「カジノで遊ぶかたわら映画に出資する男」という悪評がささやかれる人物で、関係者はブランコ氏の参加に懸念を抱いたそうだ。ギリアム監督は、その関係者に「今年(2016年)映画を撮るならば、パウロと一緒に狂気へ身を投じるしかない」というメールを送っていたという。
契約の内容はシンプルだった。ブランコ氏が『ドン・キホーテを殺した男』製作のために資金を調達し、クリエイティブ面の権限はギリアム監督にすべて一任、そのかわり作品の権利はブランコ氏が保有するというものだ。ブランコ氏は「すべてのリスクは私が背負います」と宣言している。
しかし、結果としてブランコ氏の資金調達は失敗に終わった。約束が果たされることはなく、ギリアム監督は新しいプロデューサーと手を組み、米Amazon Studiosが配給に参加することで現在のプロジェクトチームが完成している。前述の通り、映画は完成に向けて着々と進行し、2018年5月にはフランスでの公開が見込まれていたほか、同月のカンヌ映画祭でお披露目となる可能性もあったのだ。
ところがここにきて、ブランコ氏が再び主張を開始した。2016年当時の契約に基づいて『ドン・キホーテを殺した男』の権利は自分が保有している、自分が認めるまで劇場公開はできない、というのである。ギリアム監督は、ブランコ氏による出資が行われていない以上、当時の契約は法的に無効だと考えているようだ。
この問題は裁判に発展しており、米The Playlistによれば、判決は2018年6月15日まで下されないという。したがって作品の権利や劇場公開については一時保留とせざるをえず、したがって5月の劇場公開、およびカンヌ映画祭でのお披露目はほぼ不可能とみられている。
ようやく完成が見えてきた『ドン・キホーテを殺した男』は、こうして再び難しい状況に置かれている。想定される展開のうち、最も恐ろしいのは、ブランコ氏に作品の権利が認められる事態だろう。ここにきて公開が叶わない可能性も、今のところまったくないとは言い切れないのである……。引き続き、経緯を注視する必要がありそうだ。
Sources: France Inter, The Playlist
Eyecatch Image: Photo by Vegafi Remixed by THE RIVER