【ネタバレ解説】『デッドプール&ウルヴァリン』のDCイジりが容赦なかった

この記事には、『デッドプール&ウルヴァリン』のネタバレが含まれています。

『デッドプール&ウルヴァリン』でのDCユニバースイジりは切れ味抜群だ。まずは冒頭、デッドプールがTVAに連行され、ミスター・パラドックスに使命を与えられ「俺ちゃんがマーベルの神になる」と舞い上がるシーン。ここでデッドプールは「MCUのヒエラルキーが変わる」と発する。

このセリフが何をイジっているかといえば、ドウェイン・ジョンソンの『ブラックアダム』(2022)である。ロック様は長年をかけて『ブラックアダム』の映画化を実現させ、原作コミックにおけるキャラクターの強力なパワー、そして自身の筋肉と共に「DCユニバースのヒエラルキーが変わる」と、事あるごとにあちこちで宣言していたのだ。
ところが、蓋を開けてみれば『ブラックアダム』は興行不振に苛まれたばかりでなく、ワーナー・ブラザースのDCユニバース再編によってその未来すら断ち切られることに。結局、ロック様はDCユニバースのヒエラルキーを支配するどころか、逆に大人の事情によって踏み潰されてしまうという憂い目にあっていたのだ。

デッドプール役のライアン・レイノルズはドウェイン・ジョンソンと仲が良く、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)にカメオ出演したり、『レッド・ノーティス』(2021)で共演したりしている。「MCUのヒエラルキーが変わる」とは、友人であるジョンソンのことを容赦無くイジったセリフだったのだ。
そしてもう一つは、その『ブラックアダム』に全てを捨ててサプライズ登場を果たしたものの、やはり大人の事情という名のクリプトナイトによって復活計画が立ち消えになってしまったスーパーマン役のヘンリー・カヴィル。カヴィルはデッドプールがさまざまな世界のウルヴァリンを探す場面で、筋肉隆々のタンクトップ姿や太い葉巻と共に、別世界のウルヴァリンとして登場した。デッドプールはここでヘンリー・カヴィルの名を叫び、他の映画会社、つまりワーナーよりも良い待遇にすると持ちかけていた。
これまた、DCユニバース再編によってカヴィルの立場がなくなってしまったことに対する皮肉。『デッドプール&ウルヴァリン』は、ディズニーに買収されたことによって消滅した旧20世紀フォックスと、当時の作品群に対する鎮魂歌のような性質を有していたが、旧DCユニバースへのジョークも交えることで、さりげなく彼らへの弔いを笑いと共に行なったとも言える。
今後のMCU作品でデッドプールが再登場することがあれば、その頃にはジェームズ・ガンによる新DCユニバースも始動しているはずだ。新しいDCに向けても、俺ちゃんの切れ味鋭いジョークを期待したい。