『ドクター・ストレンジ』は『アントマン』映像世界の進化系?科学と魔法をつなぐ「マーベルの美学」とは
「なんでもありな世界観」の魅力
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)には科学の力に支えられたヒーローたちが数多く登場する。アイアンマンはもちろんキャプテン・アメリカも最新技術を駆使して戦うし、ブラック・ウィドウやホークアイ、ヴィジョンですらその例外ではない。
その中でも『アントマン』のハンク・ピム博士は、おそらくトニー・スタークより高い科学技術を持っている人物だろう。なにしろアントマンはレギュレーターを操作することで小さくなり、ついには量子の世界(Quantum Realm)にすら入ってしまうのだ。
一方、MCUでは科学で説明できない出来事も山ほど起こる。『マイティ・ソー』は神々の物語だし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は喋るアライグマや木たちが出てくるスペース・オペラだ。『ドクター・ストレンジ』に至っては世界最強の魔術師が登場するわけで、もはや科学もへったくれもない。

https://www.comicbookmovie.com/guardians_of_the_galaxy/kevin-feige-says-that-guardians-of-the-galaxy-3-is-a137452
乱暴にいえば「なんでもあり」、少し丁寧にいえば「科学」も「魔法」も包み込んでしまう懐の深さがMCUの魅力である。しかしその裏側には、世界観を崩壊させないための不断の努力があった。
「科学」と「魔法」が美学でつながる
マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、科学や魔法のルールや法則を作ることへの苦悩を率直に明かした。
「(ルールや法則を作るのは)本当に難しいよ。ユニバースを平凡なものにも不思議な絵空事にもしたくないからね。実際に僕たちはそういうルールを作っていない」
もっとも「ルールを作っていない」と述べながらも、ファイギ社長は科学や魔法を描く上での「マーベルの美学」を語っている。そのヒントは“科学代表”『アントマン』にあった。
「『アントマン』に出てきた量子の世界は特別にデザインされたものだよ。映画のため、未知のレベルまで小さくなれる男のために作ったものさ。『アントマン』を作った時は科学を勉強して、アドバイザーの科学者と話したりした。午後の時間をいつも一緒に過ごしてくれて、驚くべき出来事について話してくれる人たちがいたんだ」

http://marvelcinematicuniverse.wikia.com/wiki/File:Quantum_Realm.png
しかし『アントマン』での作業は思わぬ形で実を結ぶことになる。“魔術代表”ともいうべき『ドクター・ストレンジ』で、量子の世界を生み出した経験が活かされたというのだ。
「つまり量子の世界とは異次元だろう。『ドクター・ストレンジ』の製作に入った頃、量子の世界の上っ面からもっと深く潜ることを決めたのさ」
最強の魔術師であるドクター・ストレンジは異次元へ潜る能力を有しているとみられている。そういえば以前、『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソン監督は同作が「マーベル・シネマティック・マルチバースの始まりになる」と話していた。
映画として魅力的なビジュアルを
ファイギ社長の発言通り、『ドクター・ストレンジ』では実際に科学的考証が行われ、既存の学説を取り入れることにも成功したという。しかしその一方で、ファイギ社長や製作チームは非常にシンプルな結論にたどり着いていた。
「どれだけクールで面白いのか、観たことのない映像になっているか? 『ドクター・ストレンジ』は、僕たちが映画にしたいと思っていたコミックやスティーヴ・ディッコのアートに描かれていない部分を作るのが特に難しかったんだ。視覚効果監修のステファン・セレッティはスゴい引き出しを持ってて、すべてが僕たちの観たい映像に近づいてるよ。でもエキサイティングな場所に連れてってくれるような、まさに僕たちが観たい映像はまだ出来ていない」
たとえ魔術を描く時にも科学的な考証を行い、最後には映画としての魅力を重要視すること。これが「マーベルの美学」であり、魔法と科学をひとつの世界観に結びつける秘密なのだろうか。
ちなみに『ドクター・ストレンジ』の視覚効果チームは現在も作業中で、ファイギ社長は「完成したビジュアルは劇場で観てもらえる」と断言している。MCU作品としては『アントマン』以来となる異次元の表現、そこには魔法も科学も超越した映画としての快楽があるのかもしれない。
source: http://comicbook.com/2016/09/27/how-ant-man-thor-doctor-strange-set-the-rules-of-magic-and-scien/