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“色”で読み解く!『ラ・ラ・ランド』ライアン・ゴズリング主演映画『ドライヴ』分析

“車の映画” と聞いて思い浮かぶ作品はたくさんある。『ワイルド・スピード』シリーズをはじめ『タクシードライバー』や『ナイトクローラー』でジェイク・ギレンホールが夜道を疾走する姿も印象的だ。映画『ドライヴ』も、最もクールな作品の1つなのではないかと思う。

2012年日本公開、Nicolas Winding Refn(ニコラス・ウィンディング・レフン)監督によるクライム映画『ドライヴ』。主演はRyan Gosling(ライアン・ゴズリング) だ。

ライアン・ゴズリング演じる主人公は昼間は自動車修理工、時にはカースタントマン そして夜にはその巧みな運転技術を活かして犯罪者の逃がせ屋をしている” 裏で生きている”男だ。

カースタントマンという設定、そして犯罪者を乗せて警察をまくカーチェイスなどという場面などはあるものの あまりド派手には描かれていない。車がこんなに登場するにも関わらず、ここまで淡々とした描かれ方をしている作品は珍しいのではないだろうか。

『ドライヴ』はどこを切り取ってもクールな映画だ。そのストーリーやセンス抜群のサウンドトラックはもちろん “色彩”がこの物語をいっそうスタイリッシュに魅せていると思う。
色には様々な意味合いやイメージが含まれている。『ドライヴ』について、今回は映画の色彩から読み解いてみよう。

映画『ドライヴ』の”色”

『ドライヴ』はモノトーン調ではないし、毒々しくサイケデリックな色彩ではない。ただ観ていて特別心に残る色があると思う。それは”青”、そして”オレンジ”だ。

http://www.digitalbrew.com/5-points-from-drive-to-shift-your-view-on-film/
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“青”。冷静でクール、清潔。男性的。信号では”すすめ”。大人っぽく、落ち着いたイメージを持たれることが多いかもしれない。反対に冷たい、孤独、悲しみといった沈んだ印象も受け取ることができる。

食欲を減退させる効果もあると言われていて、いっとき女性の間では ダイエットに効き目があるなんて言われて 青いお米が盛られた画像がちょっぴり流行した。病院では冷たくがらんとしたイメージを与えないために、青色は壁などに使われないそうだ。

http://afistfulofculture.com/2011/11/09/review-drive-is-the-best-film-of-2011/
http://afistfulofculture.com/2011/11/09/review-drive-is-the-best-film-of-2011/

“オレンジ”。エネルギッシュで、あたたかく温もりを感じさせてくれる色。手のひらを太陽にかざしてみると 血潮が透けてオレンジ色にみえる。健康的で若々しく、青と比べると女性的なイメージだ。

この作品ではこの”青”と”オレンジ” が、そのシーンの雰囲気や登場人物たちの思いを表してくれているのだ。

キャラクターの色が表すもの

物語の始まり、ライアン・ゴズリングが夜どのような仕事をしているのか私たちが理解することができるシーン。犯罪者を乗せて警察をまく場面だ。このシーンは、夜の暗闇に映る色はほとんど青しかない。

信号も青、車のメーターのランプも青。彼がかぶるキャップも青、アウターもデニムジャケットだ。黒の中に光るブルーはどことなく都会のネオンも連想させるが、刹那的で孤独な印象だ。そしてこの仕事をこなしている時の主人公の感情には 全く”暖かさ”が無いことが分かる。

彼の部屋も青いものばかりだ。風呂場のタイルの青は、観ていても冷たくひやっとした気分にさせられる。”裏” の仕事をしている自分の生活・・・主人公の素性はほとんど明かされることはないが、彼がどれだけ孤独な人生を送ってきたか、孤独をひしひしと噛み締めているか その青色から察することができる。

そんな主人公が想いを寄せるのが、隣に住む子持ちの女性 Carey Mulligan(キャリー・マリガン)演じるアイリーンだ。

https://www.furiouscinema.com/blu-fury-drive/
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彼女の登場するシーンはどこも”オレンジ色”が多い。エレベーターや廊下のぼわっとした暖色のライト、彼女が着ている服もオレンジ。リップも温かみがあるオレンジ色だ。

このように主人公とヒロインは、”青とオレンジ””寒色と暖色”によって区別され、今まで生きてきた環境も全く違うことが分かる。冷たい世界で生きてきた主人公にとってアイリーンは”オレンジ”、希望の光であり自分を”普通”に引き戻してくれる存在なのだ。

ストーリーが進むにつれて

物語が進み、主人公とアイリーンの関わりも多くなっていくにつれて 彼らを取り巻く色は少しずつ変化し始める。

2人で”昼間の”ドライブに出かけるシーン。今まで主人公の登場シーンに多く見られていた陰鬱で寂しげな青とは変わり、車にも光が差し込み 映像が暖かい色につつまれていく。光にあたってきらめくアイリーンの頬の産毛や、ブロンドの髪・・・主人公の孤独な”ブルー”の気持ちが、だんだんと解きほぐされ 穏やかな心情へと変化していくことが分かる。

アイリーンの幼い息子に語りかけるシーン。主人公の顔がアップになるが、ここで私たちはライアン・ゴズリングの瞳が美しい青色だということに気づく。

ライアン・ゴズリングは何故か”ちょっとどうしようもない感”のある役柄を演じていることが多いような気がする。『ブルーバレンタイン』の夫役や、『きみに読む物語』のノア役。頼りがいある屈強な男!という役ではなく、少しどうしようもない切なげな役が似合うし その憂いのある雰囲気が女性たちの心をわしづかみにする。その秘密は彼のこの青い瞳にあるのかもしれない。

http://www.digitalbrew.com/5-points-from-drive-to-shift-your-view-on-film/
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『ドライヴ』の孤独な主人公、裏社会に手を染めつつも あたりを暗い青色に覆われつつも それでも彼の持っている瞳は澄み切った青色。彼の心の奥底は純真で優しく、そして本当は穏やかな” 真っ当な”生活を送りたい・・・そんなキャラクターを、これもまた”色” から読み解くことができるのだ。

”静寂”だからこそ浮き彫りになるもの

『ドライヴ』は本当に”静か”な映画だ。殺人シーンなどはなかなかグロッキーに描かれているし、メリハリはあるものの 凄まじいアクションが繰り広げたりマシンガンをぶっ放し!なんてことはない。

クライム映画なのに落ち着き払っていて、静寂。多くを語られることはないものの、”色”やカメラワークで私たちは 登場人物たちの心情の動きを掴みとることができる。

シンプルに、静かに作られているからこそ、主人公の切なくもひたむきな愛や物語の底に見え隠れする狂気がじわじわと浮き彫りになっている…。これから『ドライヴ』 を観ようと思っている方はぜひ映像の”色”に注目してみてほしい。観終わった時にはこんなことも思うはずだ。

「自分を取り巻いているのは、いったいどんな色なのだろう?」

Eyecatch Image:http://www.digitalbrew.com/5-points-from-drive-to-shift-your-view-on-film/
© 2011 – FilmDistrict

Writer

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)