Blu-ray化クラウドファンディングも話題!『アメリカン・スリープオーバー』の放つリアルな“青春観”

日本国内では昨年1月に公開され、各国の映画祭で獲得した高い評判なども重なり、その新感覚なホラー描写が大いに話題を呼んだ傑作ホラー『イット・フォローズ』。同作の監督を務めたデヴィッド・ロバート・ミッチェルが今から7年前、2010年に制作した長編デビュー作、『アメリカン・スリープオーバー』が、オンライン映画館『DIGITAL SCREEN』で上映中だ。
本作が日本で初公開されたのは米国公開から4年後、2014年のことだ。東京芸術大学映画専攻と“Gucchi’s Free School(グッチーズ・フリースクール)”共催のイベント『OPEN THEATER vol.3』で初上映され、のちに渋谷アップリンクの『見逃した映画祭2016』など日本各地で何度か上映されている。そして今回、世界中のインディペンデント映画を上映するオンライン上の映画館『DIGITAL SCREEN』において、『アメリカン・スリープオーバー』の上映が始まった。
『アメリカン・スリープオーバー』あらすじ
新学期を目前に控えた夏の終わり、マギーはプールサイドで自分の夏の“物足りなさ”をなげき、「もっと“楽しいなにか”をするべきじゃないか」とぼやいていた。翌日に街で開かれるパレードで、仲間たちとダンスを踊ることになっているマギーは、ダンス仲間からその日夜開かれるスリープオーバー(お泊まり会)に招待される。しかしお泊まり会を子供っぽく思った彼女は、友達の家へ顔を出す前に、知り合いから教わった年上のパーティに乗り込むことに。そこでマギーは、昼間プールで見かけた年上の男と再会する。一方その夜、街では他にもいくつかのスリープオーバーが同時に開かれていた。そのなかで、少年は一目惚れした女性を探し、少女は友達の家で彼氏の浮気を知り、青年は恋した双子の少女に会いに行こうとする。夜が更けるにつれ、それぞれのスリープオーバーが互いに影響しあい、やがて彼らは探していたものに手が届きそうになるのだが……。(『DIGITAL SCREEN』より引用)
『イット・フォローズ』の「原点」を見る
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の長編処女作である本作『アメリカン・スリープオーバー』は、思春期さなかの若者たちをそれぞれの視点で静かに語った、どこかノスタルジックな味わいを持つピュアな青春群像劇だ。デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が長編第2作として放ったホラー映画『イット・フォローズ』は、全米4館からスタートするも、その前衛的な恐ろしさが批評家の間で話題となり、あのQ・タランティーノ監督も絶賛するほど。ネット上の口コミも相乗して最終的には1600館に拡大。日本でも超新感覚のホラー映画と謳って大きな話題を呼んだが、デビュー作『アメリカン・スリープオーバー』は、そんな『イット・フォローズ』の“原点”であると言って差し支えない。
『イット・フォローズ』のジャンルは紛うことなき“ホラー”であるが、実際に同作を観ると、それが単純なホラーではなく純粋無垢な“青春群像劇”であることに気づく。もっとも、正しいジャンル分けが“ホラー”であるのは重々承知しているが、それを以てしても、絶妙なタッチで描かれる青春映画的描写は観る者の心を強く捉えてやまない。
本作『アメリカン・スリープオーバー』は、『イット・フォローズ』から“ホラー要素を排した純粋な青春ストーリー”と書き表せば、分かりやすいだろうか。逆に言えば(公開順からしても)、『アメリカン・スリープオーバー』に流れる純な青春観をホラーというキャンバスの中で敢えて描き出したのが『イット・フォローズ』なのである。そのどちらにも通じているのは、若き10代の男女が織りなすリアルを帯びた青春模様が、監督の手腕と力量によって観客の胸に色濃く記憶され、心の一隅に自然と押し込んでしまっていた、あの学生時代の甘酸っぱさが怒涛の勢いで押し寄せてくる、そんな共通項を見出せる。
『アメリカン・スリープオーバー』で描かれる“儚い青春の1ページ”と、『イット・フォローズ』で暗示される“青少年の性に対する悩み”は、まさに背中合わせの関係性であることは、まず疑いの余地はない。監督の想いえがく“青春観”はきっと本作『アメリカン・スリープオーバー』だけでは完結していない。惜しくも描き切れなかったハイスクールの若者たちの未来は、(登場人物の年齢から察しても)『イット・フォローズ』の青年たちに語るべき余地を託している。
『アメリカン・スリープオーバー』では描かれない更に突っ込んだ性描写を、『イット・フォローズ』では大学生の青年たちが大胆に披露する、といった具合に、精神面でも成熟した“思春期の終わり”を迎える男女を、監督の持ち味で見事に描写する。『アメリカン・スリープオーバー』が“1(One)”であるなら、『イット・フォローズ』は“2(Two)”だ。まさにセットで観るべき“続きモノ”という認識で構わない。むしろこの2作を観なければ、監督が伝えたかった若き頃の記憶と成長のストーリーは、永遠に完結しない。