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アリ・アスター新作『エディントン』コロナ禍の陰謀論やマスク論争、エコーチェンバー描く風刺劇 ─ 『ジョーカー』ホアキン・フェニックスVS『ファンタスティック4』ペドロ・パスカル

A24

(カナダ・トロントから現地レポート)『ヘレディタリー/継承』(2018)や『ミッドサマー』(2019)など、“じめっとした”後味の恐怖を映画ファンに届けてきたアリ・アスター監督。2023年には『ジョーカー』のホアキン・フェニックスとタッグを組み、ブラックユーモアと風刺満載で3時間にもおよぶ『ボーはおそれている』を発表した。そして、ホアキンと再びタッグを組んだのがA24の新作『エディントン(原題:Eddington)』だ。

北米で現地時間7月18日に公開を迎えた本作は、新型コロナウイルスの流行が進む2020年を描くの物語。パンデミック以降のアメリカ社会を極端なまでに風刺した作品だ。ホアキンを支えるのは、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(2025)でも大活躍のペドロ・パスカル、『哀れなるものたち』(2023)のエマ・ストーン、『エルヴィス』(2022)のオースティン・バトラーという豪華キャストだ。

舞台は2020年5月、ニューメキシコ州エディントンという小さな架空の町。市長のテッド・ガルシア(ペドロ・パスカル)は、マスク着用義務の継続や、大規模データセンター建設の支援を提唱。一方、喘息持ちの保安官ジョー・クロス(ホアキン・フェニックス)はスーパーでマスク着用を拒み、規制にも抗議する。ジョーは「マスクをすると呼吸ができない」と訴える住民に食料を買い与え感謝され、市長選への出馬を決意するのだった。

ジョーは夜な夜なソーシャルメディアをチェックし、パンデミックに関する陰謀論を次々と吸収。同居する義母ドーンも根拠のない陰謀論を即座に信じるタイプで、ジョーの妻で引きこもり気味のルイーズ(エマ・ストーン)は、母からの陰謀論の影響も強く受けている。ルイーズはテッドとの子どもを欲しがらないため、ジョーは夫婦関係への不安を抱えていた。さらに、ルイーズがかつてテッドと交際していたことに未だに恨みを抱えている。

ジョーはパトカーをキャンペーンカーとして飾り直し、市内を走り回って選挙活動。しかし、ジョージ・フロイド事件を受けてBlack Lives Matterの抗議デモがエディントンでも始まる。ジョーがデモを制止しようとしていた時、テッドの息子から挑発され、テッドへの憎しみがさらに加速していく。一方ルイーズは、過激思想を持つカルト指導者ヴァーノン・ジェファーソン・ピーク(オースティン・バトラー)にのめり込んでいき……。

Letterboxdのインタビューでアリ・アスター監督は、西部劇を作りたいという願望をずっと前から抱いていたと語る。「『ヘレディタリー/継承』より前から、最初にやりたかったのはリビジョニスト・ウエスタンだった。でもその頃はまだ準備ができていなかった」と、西部劇という伝統的ジャンルを再解釈し、従来の英雄像や歴史観を問い直す“リビジョニスト・ウエスタン”に強い興味があったという。

さらに、本作で大きなテーマとして描かれているのが、同じ意見や価値観を持つ人同士でしか情報が行き交わない“エコーチェンバー現象”だ。「登場人物たちは自分の小さな世界でしか真実を見ようとしない。『確信の小部屋』の外にある現実を信じない」とし、「そのエコーチェンバー同士がぶつかり合うのが本作の核だ」と監督は語る。

コロナ禍でのマスク義務、陰謀論、SNSでの誤情報……。パンデミックがもたらした社会の分断を鋭く風刺した『エディントン』は、銃を持つ保安官と市長の対立という典型的な西部劇の構図に、スマホとSNS時代をミックスさせた異色作。登場人物たちの誰もが何かを信じ、歪み、暴走する。そんな物語を通して、私たちは自分たちがまさに経験したあの混乱の時期を、アリ・アスター監督ならではの不穏な映像美とともに振り返るという、なんとも不思議な体験をすることになる。

『エディントン』は週末の米興行収入がわずかに400万ドルを超える控えめなスタートを切った。Rotten Tomatoesでのオーディエンススコアは63%(7月21日時点)。批評家からは「アスター監督は私たちを不快にさせ、それに成功した」「2020年5月の危うい日々を思い出させてくれる」といった声も寄せられている。

映画『エディントン(原題)』の日本公開は現時点では未定だ。

Source:Box Office Mojo

Writer

Ayaka SaitoAyaka Saito

カナダ・トロント在住の映画レポーター/コラムニスト。北米で感じ取れる「ポップカルチャーへの熱」をお届けします。好きなジャンル:ホラー、好きなヒーロー:DCブルービートル。

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