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【レビュー】『エゴン・シーレ 死と乙女』から芸術家の素顔を見る

ゴッホやモディリアーニ、フェルメール。過去に実在した画家を主人公にした映画は、これまでにも数多く製作されてきた。“天才”と呼ばれる劇的な彼らの人生を覗き見ることは興味深いものである。そして2016年1月、ある天才画家の人生を描いた新たな映画が公開された。『エゴン・シーレ 死と乙女』だ。

http://www.imdb.com/title/tt4558396/mediaviewer/rm2581861632
http://www.imdb.com/title/tt4558396/mediaviewer/rm2581861632

エゴン・シーレ。日本ではそれほど名は知られていないが、第一次世界大戦前にクリムトと並んで活躍した、象徴派や表現主義を代表するオーストリア人の画家である。女性のヌードを多く描き、スキャンダルが絶えなかった彼は、28歳という若さでこの世を去った伝説の画家なのだ。

【注意】

この記事には、映画『エゴン・シーレ 死と乙女』に関するネタバレが含まれています。

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芸術家の人生とは

この『エゴン・シーレ 死と乙女』では、エゴン・シーレが極めて“変わり者”という風に描かれている。いや、実際にも浮世離れした人物だったのであろう。

端正な顔立ちのエゴンはとにかく女性にモテた。16歳の妹のヌードを描いたり、12・3歳の少女を描いたりと、世間からは白い目で見られるような作品をも残している。さらに愛する女性がいるにも関わらず、裕福な家の女性を妻にとった。第一次世界大戦のさなか、かつて一緒に芸術を語り合った仲間が兵役に行く中で、彼は鉛筆を手に取り続けたのだ。

http://egonschiele-movie.com/about.php
http://egonschiele-movie.com/about.php (C)Novotny & Novotny Filmproduktion GmbH

「絵が描けなければ生きている意味がない」とエゴンは言う。「常に自分は仕事をしている」と。その通り、女性とベッドにいようが、病床に伏せていようが、彼は自分が見ているものを絵に描こうとするのだ。「仕事」というが、エゴンは金など求めていないし、安定も求めてはいないだろう。求めるのは“美”、それだけなのである。

「美しい飛行機を作りたいんだ」、「美しくなければ意味がない」。たとえば宮崎駿監督の作品『風立ちぬ』に登場する堀越二郎も、『ハウルの動く城』の主人公ハウルも、思えばこのような台詞を口にしていた。これらはきっと、登場人物の口を借りた宮崎駿の言葉なのだろう。ただ美しいものを愛し、追い求めているだけ……。芸術家とは、皆が“美”に傾倒し、命を捧げるものなのかもしれない。

画家とミューズ

画家にしても映画監督にしても、彼らの作品に“ミューズ”の存在は欠かせない。ティム・バートン監督にとってのミューズは間違いなくヘレナ・ボナム=カーターであろうし、ラース・ファン・トリアー監督ならばきっとシャルロット・ゲンズブールであろう。

このエゴン・シーレにとってのミューズは、もともとクリムトのモデルだった少女、ヴァリだった。しかしエゴンがヴァリと結婚することはなく、彼は別の女性エディットと結婚してしまう。

http://egonschiele-movie.com/about.php
http://egonschiele-movie.com/about.php (C)Novotny & Novotny Filmproduktion GmbH

20世紀を代表する画家、パブロ・ピカソも多くの女性と浮名を流したことで知られている。ゴッホは生涯、報われない恋に悩まされ続けた。芸術家と波乱に満ちた恋愛はつきものである。

エゴンの妻であるエディットの姉、アデーレは「彼は多くの女性を犠牲にした」という。エゴンを愛してしまった彼女たちは皆、傍から見ると”幸せ”とはいえない人生を送ったのかもしれない。家に恋人がいてもモデルを連れ込んでヌードにし、また自身の中心は何よりも創作活動……。

しかし、エゴンは女性たちを“消費物”として見ていただろうか? ミューズであるヴァリのことは心から愛していたはずである。彼は、ヴァリと過ごした美しい瞬間を、そして愛する女性を、自分の魂の一部である絵に描きだしたのだ。本作の日本版ポスターにも使用されている『死と乙女』もヴァリを描いたものである。

http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/art/great-works/great-works-death-and-the-maiden-1915-16-by-egon-schiele-8456208.html
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/art/great-works/great-works-death-and-the-maiden-1915-16-by-egon-schiele-8456208.html

画家にとって、女性を絵に描くこととは、肉体という枠にとらわれない、精神的な絆を生み出す行為の一部だったのかもしれない。そうであるならば、エゴンがミューズであるヴァリを愛していたことは、愛が何物にも変えられない最高の“美”であることを証明しているのだろう。

『エゴン・シーレ 死と乙女』を観るにあたって

実在した人物、とりわけ歴史に名を残した人物を描いた映画を観る場合、私たちは事前にそのストーリーをだいたい知っている。もちろん人物の性格を思いっきりねじ曲げたり、“ナポレオンが現代に蘇った!”なんてファンタジー作品にしてしまえば話は別だが……。

『エゴン・シーレ 死と乙女』も、ストーリーはエゴンの人生にほぼ忠実に描かれている。様々なモデルとの出会い、少女とのスキャンダル、そして入隊への道。しかし特筆すべきは、この映画がエゴン・シーレという実在の画家の“愛”に重きを置いていることだ。あくまで一人の画家の「真の人生の物語」なのであり、孤独で退廃的なラブストーリーなのである。

http://www.cineplexx.at/film/egon-schiele-tod-und-maedchen/ (C)Novotny & Novotny Filmproduktion GmbH
http://www.cineplexx.at/film/egon-schiele-tod-und-maedchen/ (C)Novotny & Novotny Filmproduktion GmbH

たとえば観客がエゴン・シーレという人物を知らなかったとしても、事前に調べる必要はないだろう。もちろん、この「第一次世界大戦下」という状況や、当時のオーストリアの情勢などについて知識があると、より作品を理解しやすくなるかもしれない。

ドラマチックな芸術家の人生。天才と呼ばれる彼らだからこそ、その苦悩や孤独も人一倍だったに違いない。このエゴン・シーレも同様だったはずである。若き天才画家の人生を知り、そして愛の在り方について考えさせられる映画。それが『エゴン・シーレ 死と乙女』だ。

Eyecatch Image: http://www.kino.de/film/egon-schiele-tod-und-maedchen/
(C)Novotny & Novotny Filmproduktion GmbH

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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