【解説レビュー】『エヴォリューション』モチーフから読み解く恐怖の正体
ルシール・アザリロビック監督の『エヴォリューション』。美しい映像とともに繰り広げられるのは怪奇な光景。緑を基調としたその映像世界は、少年という純粋なフィルターを通しながら得体の知れない何かを感じさせ、観客をまるで悪夢の中にいるような気持ちにさせる。
何がこの作品をホラーとしているのか。何が我々に恐怖を感じさせているのか。
その正体を作品内のいくつかのモチーフから読み解いていきたい。
住民は少年と女性だけの島で、10歳のニコラ(マックス・ブレバン)は、母親と2人で生活している。全ての少年が不可思議な医療を施されていることなど、島での日常に違和感を覚えるようになった彼は夜中に家を出て行く母親の後をつける。海辺に向かった母親が、ほかの女性たちと始めたある行為を目にするニコラ。それを機に、彼は思いも寄らなかったおぞましい事態にのみ込まれ……。 (出典:シネマトゥデイより)
海に囲まれた島
まず考えたいのが、この物語の舞台設定だ。エメラルドグリーンに光る美しい海中のカットから始まり、少年と女性だけしか存在しない島でこの物語は展開されていく。これは現実なのか空想の世界なのか、島の外はどうなっているのか、この世界には何が存在するのか。想像する余白が十分すぎるほどに残されたこの舞台で、観客は何とも言い難い浮遊感を味あわされてしまう。
ヒトデと人間
対する人間は男と女がいなければ繁殖することもできず、腕を潰されては治療しなければ死んでしまう。なんと弱く脆いのだろうか。「ヒトデより人間のほうが優れている」、そう思うかもしれないが、果たしてこの映画の世界ではどうなのだろうか。もしかすると大規模な災害や戦争、環境汚染などがあって、人間は強制的な進化を余儀なくされたのではないか。それはヒトデのような原始的でありながら繁殖に合理的なものへの進化かもしれないし、全く新たな種を追い求めているのかもしれない。
そう、少年を実験台に生み出されようとしていたのは、人間ではなく、種として進化を遂げた“何か”なのだ。
胎児
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