『フォールガイ』アクション手がけた浅谷康「こういうの、やっぱカッコいいっすよね」が通じる現場 ─ 映画の中の「スタントマンあるある」

それはありましたね、映画自体がスタントマンをメインに扱った劇中劇なので、スタントマンにスポットライトがどんどん当たってくる。僕らとしてもプレッシャーは感じましたけど、デヴィットはスタントマンの気持ちとか、僕らのやり方を分かってくれていました。
待遇面で言うと、リハーサルに僕らスタントマン用の大きなスタジオが用意されていました。あとは、僕たちの意見も割と通してくれる感じ。大きな会社の作品では、スタントマンとしてはこういう絵にすれば絶対にかっこいいと思っていても、プロデューサーの意見が優先されてしまうことも“あるある”です。
でも『フォールガイ』では、スタントマン出身の監督と僕たちの感覚が似ていました。「こういうのやっぱカッコいいっすよね」って言うと、「そうそう、こういう感じ」ということがよくありました。すごくやりやすかったですね。

──最近では、スタントマンがいかに危険で勇敢なことをやっているのか、ということが注目されるようになっていて、チャド・スタエルスキがアカデミー賞にスタント部門を作りたいと掛け合っているという話も聞きます。『フォールガイ』の劇中では、主人公のスタントマンが撮影現場でぞんざいに扱われ、やりづらそうにしているところもありました。劇中の描写はどれくらい“あるある”なのでしょうか(笑)。
結構あるあるですよ!(笑)もちろん、監督の気分次第で何回アクションをやり直すとか、そんなのはないですけど。ちょっと盛っているところもありますが、「あるある!」と思って見ていました。どうせスタントマンなんでしょ?みたいな見られ方をしてしまうことはよくあります。例えば炎天下で撮影している時に、役者さんにはお付きの人とかADさんが日傘を差してくれるけど、スタントマンには別に何もありません。仲間が「水持ってきましょうか」って気を遣ってくれる程度ですね。
──撮影前にスタントの練習はどれくらいされるものなんですか?
作品よってだいぶバラバラですけね。フィジカルでどれぐらい動くのかによります。1~2ヶ月トレーニングに入ることもあります。あとは役者さんのスケジュールにもよりますよね。
『フォールガイ』では、ライアンがスタントダブルという役に入るための役づくりとして、トレーニング以外にもフラっと僕らスタントのリハーサルスタジオに来てくれて、みんなと談笑していましたね。俺もスタントマンの一員として雰囲気を味わいたいということで、よく来てもらっていました。
作品によっては、ぶっつけ本番でスタント撮影ということもあります。でも『フォールガイ』は監督がデヴィッドだったので、僕らがそういうのを嫌がることも、それでは本当のパフォーマンスを引き出せないこともわかってくれていた。だから可能な限りリハーサルの時間を作ってもらって、何日かリハーサルしてから撮影っていうのがメインでした。

──先ほどの「スタントマンには付き人もいない」というところで、スタントマンとしての辛いところをお聞きした気がするんですけど、逆にスタントマンの楽しいところや、やりがい、いいところってなんですか?
どうだろう?(笑)特に最近は注目されてきているから、「スタントマンなんだ!」って言われることも増えました。僕は17~18年前にこの仕事を始めたんですけど、当時はスタントマンの存在なんて、特に日本では確立されてないじゃないですか。「僕の父さんはスタントマンです」なんて言う人いなかったし。だから、本当に好きでやってる人たちが集まってた。今でもまあ、そうなんですけど。なので、仲間意識がすごく強いですね。みんなで体張ってやっている感覚。怪我することもあるし、危険もある仕事だからこそ、ファミリー感があるというか。それはすごくやってて楽しいところです。
──スタントマンのコミュニティがあるということですね。そのコミュニティの中でこの『フォールガイ』はどういうふうに受け止められているんですか?
まず、デヴィッドとケリー・マコーミックが立ち上げたスタント系の制作会社の87ノース・プロダクションズというのが、世界でもかなり大きな組織になっています。それから、今作でコーディネートを手がけたスタント・アンリミテッドというのも、昔からある大きな組織。アメリカのスタントマンはみんな見るだろうなと思います。87ノースがどんな映画を作ったのかなと。

──浅谷さんは、完成した映画をご覧になってズバリいかがでしたか?