魔法ワールド初心者のための『ファンタビ』最新作ポイント解説 ─ 政治スリラー、マッツ・ミケルセン、ユーモア&アクション

『ハリー・ポッター』でおなじみ、「魔法ワールド」の世界が再びスクリーンに帰ってくる。シリーズ最新作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』が、いよいよ2022年4月8日(金)に公開となるのだ。
いまや説明不要、日本でも大ヒットしている『ファンタビ』の新章とあって、早くからファンの熱い視線が注がれている本作だが、この「説明不要」という言葉にいささか寂しさを感じる方はいないだろうか。これまで『ハリー・ポッター』を追ってこなかったがために、いまさら魔法の世界に飛び込むことがためらわれるという方、本当はあまりよくわかっていないという方にとって、本作は観るハードルがかなり高いことも事実だろう。いきなりここから観てしまって大丈夫なものか、と。
そこで今回は、あえて本作を「魔法ワールド」という枠組みから切り離し、独立した一本の映画として、その特徴と見どころをご紹介してみたい。キーワードは「政治/陰謀スリラー」と「2大名優の競演」、そして「ユーモア&アクション」だ。
政治/陰謀スリラーとしての『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』
はじめに触れておきたいのは、そもそも前知識がほとんどない状態で『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』を観ても大丈夫かどうか、ということだ。筆者なりの答えは、「完全には理解できないかもしれないけれど、まずは大丈夫」。もちろんファンに向けたリンクや遊び心はあるし、あまり本編で言及されない複雑な設定もあるが、それらをすべて理解していなくともストーリーはある程度伝わるはずだからだ。
そもそも映画の冒頭には、あくまでも物語の導入という形で、これまでの展開やシリーズの基本設定が登場人物によってざっくりと説明される。「前作までの流れをあんまり覚えていない」という方はここで思い出すことができるだろうし、予習ゼロの方も必要な情報を必要なだけ頭に入れることができるだろう。

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本作の特徴は、ストーリーの独立性がかなり大きいことだ。ざっくりと言えば「恩師のダンブルドアに頼まれ、魔法動物学者のニュート・スキャマンダーら寄せ集めのデコボコチームが任務に挑む」というもので、このプロットは『ミッション:インポッシブル』や『007』といったハイ・コンセプトのスパイアクションにも通じるシンプルさ。細かいことはいったん横に置いておき、一同が任務を達成できるかどうかを追いかければいい。
とりわけ興味深いのは、物語の主軸に「政治」が深く関わっていることである。映画の序盤からはっきり明示されるように、劇中最大のイベントは「国際魔法使い連盟」の次期リーダー選挙。闇の魔法使いであるグリンデルバルドは、今回、本来ならば資格がないはずの選挙に出馬し、権力を真正面から掌握することを狙うことになる。
必然的に、この映画は政治と巨悪との関係を描き出していく。奇しくも同じワーナー・ブラザースが製作を務め、また同時期に劇場公開されている『THE BATMAN―ザ・バットマン―』(2022)と同じく、本作にも政治/陰謀スリラーの気配が(とりわけ前半は)濃厚に香り立っているのだ。もちろん魔法ワールドが舞台であるから、設定こそ“闇の魔法使い”や“魔法省”という形になってはいるものの、これをマフィアと政府、あるいはカルトと政府の関係性に置き換えてみれば、がぜんリアリティのある政治腐敗の物語に見えてくる。

DCの人気ヒーローを主役とする『ザ・バットマン』と、基本的にファミリー・フレンドリーな『ハリー・ポッター』シリーズの流れを汲む『ファンタビ』という2本の大作映画が政治をめぐる陰謀を描くことになったのは、おそらくコロナ禍以前の世界に充満していた、そして現在も残っている政治への不安や不信、人々の暮らしを支える社会の揺らぎを反映したためだろう。原作・脚本のJ.K.ローリングは政治的な発言が多い人物として知られるが、本作ではダイレクトに時代の空気を捉えようとしたことがうかがえる。