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【ネタバレ特集】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』ミステリオ、監督&脚本家が完全解説 ─ ジェイク・ギレンホールはいかに演じたか

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
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この記事には、映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のネタバレが含まれています。すでに作品を鑑賞された方向けの内容となりますのでご注意下さい。なお、このページをSNSにてシェア頂く際は、記事内容に触れないようお願い致します。

『エンドゲーム』後だからこそ描けた物語

それにしても嘘の多い映画である。スパイダーマンは悪党ではないし、ミステリオはヒーローではないし、そもそも彼はマルチバースから来たわけではなかったのだ。しかし、ピーターやフューリーをはじめとする人々は ──あえて言うなら観客を含めて── なぜ、ミステリオの嘘を信じてしまったのか。米IndieWireにて、ワッツ監督は語っている。

「マンダロリアン シーズン3」「アソーカ」解説

ワッツ「ミステリオのウソを人々が信じてしまうことこそ、世界がまともではなくなった証拠。人口の半分が消滅したり、タイムトラベルが可能になったり、『エンドゲーム』では本当にたくさんのことが起こりました。もはや、マルチバースもただのデタラメだとは思えないんですよ。」

すなわち『エンドゲーム』以後を描くこととは、ワッツ監督にとって、不安定な世界を描くことにほかならなかったのだ。監督は「この物語は、すべて、トニーの死がもたらした副産物なんです」とも述べている。「過去に遡って、トニーの人生に関わってきた人々について考えると、“悪人たちはどうやって悲劇や喪失に向き合うのか”という新たな面を見せられるのではないかと思いました」。

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

『シビル・ウォー』の時点でヒーローたちのすぐそばにいたベックは、『アイアンマン』(2008)でオバディア・ステインのかたわらにいた科学者ウィリアム・ギンター・リヴァをチームの一員として迎え入れている。「たくさんの映画を取り入れて、この世界の歴史として扱うのは面白いですよ」と監督は話した。

「この物語が存在する、広い世界について考えるのは大好きです。トニー・スタークと一緒に働いていた人々は、(トニーの死に)どう向き合ったんだろうかと考える。力を持つ人物が死んだり、悲劇が起こった時、人は出来事に対処し、喪失感と折り合いをつけていくものです。だけどそんな時には、そのことに便乗したり、悪用したりする人もいますよね。」

演じるジェイク・ギレンホールが惹かれたのも、まさにその点だったという。ベックは不安定な世界において、“人々にとっての真実”を操ろうとするのだ

ミステリオは「嘘を本当だと信じ込ませる」

Entertainment Weeklyは、ヒーローになりたいベックが、“スーパーヒーローとはかくあるべし”ということを熟知していると指摘する。たとえば真の勝利とは、力で勝つだけでなく、人々の心をもつかむことだ。さらに説得力を持たせるべく、ミステリオにはヒーローらしい要素が詰めこまれている。ソーのごとき強さと飛行能力、ドクター・ストレンジのようなマント、トニー・スタークのような人間味、キャプテン・アメリカのような自己犠牲。すべては自分がヒーローになって、“真実”を操るための努力である。ワッツ監督は、ミステリオのスーツに隠された意図についても別のインタビューで言及している。

「映画のどんでん返しを知ってからデザインを見直すと、スーツに他のマーベル・ヒーローの要素が組み込まれているのがわかると思います。これは、ミステリオが完璧なスーパーヒーローを作り上げようとしているから。だからソーやドクター・ストレンジ、ブラックパンサーから要素を拝借しているんです。細かいところに要素が詰まった、いわばマーベル・スーパーヒーローの融合体ですよ。」

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

むろん裏返していえば、ミステリオたるベックは、自分が作っているものが偽物にすぎないことをきちんと理解しているわけだ。それゆえ、自分の目指す“理想的な虚構”を、いかに優れたものとして人々に信じ込ませるかに心を砕き、失敗の予兆にも敏感になる。こうしたことを踏まえてか、ミステリオ役のジェイクは本作について「映画づくりを描いた映画」とも形容した。

実際のところ、みなさんは映画を観ているわけです。現実じゃない。人は実際には空を飛ばない、とベックも言ってますよね。この映画は“映画づくりについての映画”でもあって、ジョン(・ワッツ監督)はそれを見事に成功させたと思います。この作品で、僕は監督やプロデューサー、製作者、そして特殊効果のスタッフの役を演じました。各部門の代表を演じたわけです。これは、どのようにして映画が作られるのか、そして人々はいかにして映画の中の出来事を信じるのかを描いた作品です。」

ここで思い出しておきたいのは、そもそもコミックのクエンティン・ベックが特殊効果のスペシャリストという設定だということだ。いささか遠回りではあるが、MCU版ベック/ミステリオは、こうした形でコミックに繋がっているようにも思えてくる。そういえば物語の中盤、モーションキャプチャーのスーツに身を包んだベックが登場するシーンなど、ほとんどMCU作品の撮影風景をそのまま捉えているかのようではないか。

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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