『ファースト・マン』初めて月に立った男ニール・アームストロングの息子がいま伝えたいこと ─ 「成功とは、備えと機会が出会うところにある」

「最初に気になったのは、原作に忠実であるかどうか、それとも”ハリウッド”的にしたいのかでした。」人類で初めて月に立ったニール・アームストロングの過酷な挑戦を描き出す『ファースト・マン』が映画化されると聞いた時、ニールの次男であるマークが考えたことだった。マーク・アームストロングはTHE RIVERの取材に対し、映画では描かれなかったエピソードや、父親としてのニール像について快く教えてくれた。
デイミアン、ライアンとの出会い
「大切なのは、事実に忠実であること。デイミアン・チャゼル監督らは、この映画で史実を残したいのだと、すぐに分かりましたね。だからこそ、是非お願いしたいと思いました。製作にあたって、私はあらゆる段階で携わらせて頂いています。脚本の原稿は3度ほどチェックして、本編に出演もしていますし、ライアンのアクセント指導もしています。父を再現した話し声を録音してライアンに送ったんです。とにかく自分に出来ることは全てやりました。事実に忠実であるために、必要な情報もすべて提供しています。」

筆者は本作のため、デイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングの2人にもインタビューを行っている。2人とも、まさにニールのように控えめで誠実な印象だった。彼らが父の伝記『ファースト・マン 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生』(河出文庫)を映画化すると聞いてどう思ったのだろうか。
「彼らのことは知らなかったんです。いや、監督と俳優としては知っていましたが、個人としては知りませんでした。私と兄とで、ライアンとデイミアンと4時間の会合がありました。カリフォルニアのサンタモニカでしたね。一緒に夕食を食べて、映画のストーリーについて話し合いました。ライアンからは色々と質問があって、我々もたくさん答えました。そこで感じたのは、なんて愛らしい人たちなんだということ。すごく謙虚でエゴもないし、父や母と一緒だなって。そういう人に作ってもらえるなんて、幸せなことだなと思いました。
『セッション』(2015)は素晴らしいですね。私もミュージシャンなので…。あの映画に登場しているほどすごいミュージシャンというわけではないのですが、ミュージシャンの描き方に感激しました。『セッション』でデイミアンは監督と脚本を両方やっているんですよね。偉大な映画だと思います。」
「自分を信じ続けろ」

「ギターとベースを弾きますが、たいていはボーカルをやります。歌うのが好きなんです」と語るマーク、実はミュージシャンとしての顔も持ち、エンジニアとしてアップル・コンピューターにシステムを提供したほか、シマンテック社やマイクロソフト社のシニア・エンジニア・リーダーを務めた経歴もある。ほかには起業家として、WebTV Networkなど成功したスタートアップにも携わっている多彩な才能の持ち主だ。
「スタンフォード大学では物理学を専攻しました。学生時代はパソコンが登場したばかりの頃でした。Apple ⅡにMacintosh 1984…。私が大学に通っていたのは1981から1985年。スタンフォード大学はシリコンバレーにあったので、ソフトウェアが書ければ簡単にサマー・ジョブにありつけたんですね。そこですっかりコンピューターに魅了されて、ソフトウェア業界でのキャリアを歩み始めるようになったわけです。」
現在は「主に家庭の事情で、シリコンバレーからは引退した」と言うが、ソフトウェア業界のビジネスは「今も好きで、アドバイザーとして企業に携わせて頂いています。」ニールから受け継いだ努力家としての才覚を活かし、ビジネスマンとしても活躍するマークに、仕事を成功させる秘訣を尋ねてみた。
「自分を信じること。良いアイデアを持っているなら、情熱の全てを尽くして追い続けることです。そして、絶対に諦めないこと。たとえばドクター・スース(※)なんて、子どもたちのために絵本を描いても、『こんな絵本は読まれない』って幾度となく出版社から断られているんですよ。でも彼は自分を信じ続け、今や多くの子供達が彼の物語を愛しているというわけです。