【インタビュー】『ファースト・マン』ライアン・ゴズリングとデイミアン・チャゼル監督が貫いたアナログ主義 ─ 目指したのは、「60年代に撮られたような感覚」

『ラ・ラ・ランド』(2017)のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングの再タッグ作は、観客を「月面」へ誘う。月面着陸という人類初の偉業を描く映画『ファースト・マン』が、2019年2月8日より公開される。
デイミアンとライアンの間で『ラ・ラ・ランド』より先に企画され、リサーチと構想には膨大な歳月が注ぎ込まれた。彼らは本作で、徹底したアナログ思考を貫いている。デイミアンの技巧と、人類史に残る功績を残したニールの内なる情熱を演じあげたライアンが『ファースト・マン』に捧げた思いやこだわりとは。THE RIVERでは、日本を訪れていたデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングに面会、インタビューを行った。

戦争映画も参考に 『ファースト・マン』つくる幅広い背景
── ライアンさんはニール・アームストロングのご家族にも会ってリサーチと役作りを行ったそうですが、ご家族はこの映画にどう反応されていましたか?
ライアン「ご家族からニールについて教えてもらったポイントは、彼は実際には面白い人だということ(※1)。素晴らしい人で、偉大な物語も聞きました。何でも知っていて、まるで”人間Google”だそうです(笑)。月から戻った後、イタリアの博物館にツアーで訪れた時なんて、ガイドさんが現れなかったから、ニールが自分でガイド役をやったんですって。映画では再現していませんが、役作りにおいてすごく役立ちました。特にニールは、一歩引いたような性格で、人知では知ることができないような方でしたからね。息子さんに認めてもらわなければ、この映画は成功とは言えなかった。すごく安心しました。」
※1:映画『ファースト・マン』にも現れているように、ニール・アームストロングは物静かで何事にも動じない人物としてよく知られる。その通りではあるが、チームメンバーとは冗談を交えてやりとりするなど、ユーモアも溢れる人物であった。
デイミアン「ご家族の皆さんには、製作に対して本当に沢山ご協力頂きました。脚本の確認から、現場に来ていただくまで。ご家族の記憶を元に再現したシーンもあります。事実に忠実になるよう注意しました。映画が仕上がったら真っ先に観ていただきましたよ。幸い気に入って頂いて、本当に安心しました(笑)。」
── 『ファースト・マン』には、まるで戦争映画のような印象を覚えました。この映画の持つ狂気のような印象はどこから来るのでしょう。
デイミアン「確かに、戦争映画もたくさん参考にしています。宇宙船は、宇宙を舞台にした映画でよく見るようなものでなく、戦車や、第二次世界大戦時の潜水艦のように描きたかった。ドキュメンタリー作品も沢山参考にしています。宇宙に関連したものではなく、家族についての作品や、戦争モノ、イングリッド・バーグマンの作品とか…。かなり幅広いです。違ったインスピレーションを得たかったので、宇宙系の映画はあまり観すぎないようにしていました。」

── ニールは物静かな人物として知られますが、そんな彼の人間らしさを表現するのは難しかったですか?
ライアン「やりがいがありました。観客に向けてニールを表現することで彼の印象を損ねてしまいたくなかった。彼の家族や友人に協力いただいたおかげで基本的なディティールは学ぶことができたので、彼の心情は掴むことができました。」
アナログでいこう
── 宇宙飛行のシーンでは、カプセルの窓から見える景色にもグリーンバックを使わなかったそうですね。
デイミアン「ライアンは実物大レプリカのカプセルに入ってもらって(※2)、窓の外側に巨大なLEDスクリーンを設置していました。つまり、窓から見えていた景色はLEDに投影されていたものなんですよ。(合成用の)グリーンスクリーンを使わなかったのは、ライアンがその目で見られるようにしたかったからです。機体が炎上するシーンでも、実際に外側で炎を上げているんです(笑)。出来る限り実物を使うよう努めました。ライアンが乗り込んだカプセルも実際に振動させているから、ライアンの演技にも偽りがない。」