Menu
(0)

Search

『ファースト・マン』初めて月に立った男ニール・アームストロングの息子がいま伝えたいこと ─ 「成功とは、備えと機会が出会うところにある」

『ファースト・マン』ニール・アームストロングの息子、マーク・アームストロング
© THE RIVER
『ファースト・マン』
©Universal Pictures

父だってそうでした。彼が9〜10歳のころは、将来は飛行機のデザイナーになりたかったんです。優れた飛行機を作りたかったんですね。それから、飛行機という乗り物を真に理解するためには、まずはその内部を理解しておくべきだということに気付いて、パイロットになったんです。そうすれば構造の原理や空気力学を理解して、速くて機敏な飛行機が作れるだろうと考えたんですね。こうして、ひとつのスキルが次に繋がって、そのスキルがまた別のスキルに繋がって。

X-15に乗っていた当時、彼にとって一番の仕事とは、一番ワクワクする飛行機に乗ること。乗り込んだ機体には実に様々な種類がありました。巨大なジェット機もあれば、1人用の小型ヘリコプターもありました。父は気づけばエンジニアとしての知識も得ていましたが、その道に導いたのは、よりよい飛行機を作りたいという子供時代の情熱だったのです。同時に、そのことが彼を優れたパイロットにしていたのでしょう。その道に対する愛と経験、エンジニアとしての知識が、後に彼が成し遂げる宇宙飛行士としての偉業に繋がっていったのですね。ある時、ある人が『君を宇宙飛行士に採用したい』と声をかけたんです。」

※ドクター・スース:「いじわるグリンチのクリスマス」「キャット イン ザ ハット」など数々の名作絵本で知られるアメリカの作家。

父としてのニール・アームストロング

控えめで、自分のことをほとんど語らない、神秘のヴェールに包まれた人物として知られたニール・アームストロング。家族だから知る、ニールの家庭内での姿はどのようなものだったのだろうか。

「家の冷蔵庫の上に小さなテレビが置いてあって、食事中は常にニュース番組。世の中で何が起こっているのかを追っていました。家族団らんの時間は、たまにカードゲームやパズルで遊ぶこともありましたが、それ以外は毎日ずっと本を読んでいるか書き物をしていました。」

ファースト・マン
©Universal Pictures

ファースト・マン』劇中で描かれたニールの家庭内での姿が印象的だった。アポロ11号で月に旅立つ直前、家族で囲んだ食卓で、マークの兄である幼いリックが「帰ってこれるの?」と尋ねる。父ニールは、まるで大人を相手にしたように「任務に対する確かな自信はある。リスクはあるが、かならず帰還するつもりだ」と答える。決して「心配いらないよ、父さんは帰ってくるって約束するよ」といった類の安らぎの言葉は与えなかった。

「その通りです。彼は生還を約束するような父ではありませんでした。あのシーンは本当にダイニング・ルームであったものです。実際に彼がどう答えたのかハッキリ覚えているわけではないのですが、とにかく自信を持っていたということは覚えています。不安がっている様子は一切ありませんでした。だから私達も心配しませんでした。だって父は本当に努力していましたし、もしも何かが間違っていれば必ず突き止める。全員が努力を重ねていても悲劇は起こるものだと知ったのは、80年代のチャレンジャー号の事故(※)が初めてのことでした。」

※チャレンジャー号爆発事故:1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げ73秒後に空中分解、乗員7員が死亡した。

ファースト・マン
©Universal Pictures

いつか月に立つ君へ

月に向けた決死の旅立ち。未知の宇宙に飛び込むアポロ11号の性能は、現代からすれば決して高くない。その機体は、まるで空跳ぶ棺桶だ。命の保証のない、恐ろしいミッションに感じられたが…。

「父は『危険』だとは思っていなかったでしょう。そもそも1955年ごろからテストパイロットをやっていて、航空機の安全性や問題点を報告することが仕事でしたから。危険な状況になっても、必ず予め対策が用意されていました。

出発前の食卓で、月に行ける確率は半々くらいだとは言いましたが、確かな自信はあるとも言いました。父だけでなく全ての宇宙飛行士が訓練を重ねているし、エンジニア達は来る日も来る日も仕事していた。だから安全なんだと考えていました。幸いなことに、実際に上手くいきましたしね。」

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly