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【低評価アメコミ映画を再考②】脱力系?『フラッシュ・ゴードン』を再評価すべき4つの理由 ─ 現代アメコミ映画との比較の観点から

「低評価アメコミ映画を再考する」は、数あるアメコミ映画の中でも低評価の憂き目にあっている作品をピックアップし、そこにオンリーワンの良さを見出してみようという企画です(なにをもって低評価とするかの基準はまず置いておくとして)。これまで『グリーン・ランタン』と『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』を特集しました。今回は『フラッシュ・ゴードン』に注目します。

1980-flash

『フラッシュ・ゴードン』とは

『フラッシュ・ゴードン』は同名の主人公が宇宙を舞台に活躍するスペースオペラです。スーパーマンと並ぶ古典的アメコミヒーローですが、元は新聞連載のコミックでした。1930年代にはユニヴァーサルが映画化し、大人気シリーズになりました。今回特集するのは同作品を再度映画化したサム・ジョーンズ主演の1980年版『フラッシュ・ゴードン』です。クイーンが楽曲を担当したことで有名で、最近ではトヨタ自動車のCMでも主題歌が使用されています。

Theatrical release poster by Richard Amsel
Theatrical release poster by Richard Amsel

1980年版『フラッシュ・ゴードン』を「低評価アメコミ映画」の枠に収めるべきかというと、すこし微妙なところがあります。なぜなら一部ファンからは熱狂的な支持を集めるカルト映画でもあるからです。先回りして言ってしまえば、陳腐で穴だらけの脱力系ストーリーや原色で毒々しい美術が独特の世界観を織りなし、なんとも言えない魅力になっているのです。下品なテディベアでおなじみのコメディ映画『Ted』(2012)では、本作が猛烈にフィーチャーされていました。ボンクラ親父ふたりがサム・ジョーンズと出会って大喜びしていたあの光景を思い出せば、この映画がどういう立ち位置なのかは、何となく想像がつきますね。

“脱力系”としての評価

しかし、国内の大手映画口コミサイトを覗くと、依然として酷い言われ方をしています。だいたい、以下のような評価を下されていました。

  • ストーリーが陳腐かつ冗長
  • 赤と金を散りばめたセットや衣装がチープ&悪趣味
  • 主人公がデクノボーすぎる&サム・ジョーンズが大根
  • 子ども向けのわりにお色気描写が多い
  • クイーンの曲がなかったらクズ

悪口ばっかりですが、だいたい当たってます。プラスととるかマイナスととるかは人それぞれでしょうが、私もほぼほぼ同じ感想でした。1930年代のコミックの内容を完全移植しているため、いろいろな部分で時代を感じます。脱力感満載のストーリーは主にサム・ジョーンズの大根演技と緊張感皆無なジョークの応酬のせいですが、赤と金を基調とした原色強めの装飾が独特の空気感をさらにディープな方向へ引っ張っています。公開当時はこれを『スター・ウォーズ』に対抗するビッグバジェットのスペースオペラとして売り出したというのですから、結構驚きです。

『フラッシュ・ゴードン』を再考する

とはいえ、この記事の目的は『フラッシュ・ゴードン』をいま見るべき理由を考えることです。ですから、ここからはなるべくポジティブに本作を再評価したいと思います。この際、現在のアメコミ映画との比較という文脈で『フラッシュ・ゴードン』の良さを考えてみることにしましょう。

① 最初から最後まで”凡人”のフラッシュ

フラッシュ・ゴードンの良さは、彼がとくにヒーロー的能力を持たない”凡人”であることです。もちろんアメリカンフットボールのスター選手という設定があるので、肉体的には一流のものを持っているものの、それ以外はいたって平凡です。先ほども触れましたが、彼の凡人っぷりはもはやデクノボーの域に達しています。サム・ジョーンズのヘタクソな演技に加え、バカっぽい金髪とピチピチの白Tシャツ(胸にはFLASHの文字!)という風貌が無能感に拍車をかけています。

ザーコフ博士ともみ合ってたらうっかりロケットの発射ボタンを押しちゃったり、2度も3度も色仕掛けに引っかかったり、呆れるほどしょうもない男ですが、見方を変えればこの”平凡さ”こそ彼の魅力です。地球の危機にひたすら右往左往するばかりで、特殊な能力を発揮することはほとんどない(一度だけアメフトの経験を生かして敵にタックルしまくります)けど、その純粋な心だけは本物です。ミン皇帝の悪巧みを阻止すべく、自分で出来る限りのことはしっかりやります。指輪からビームを出す皇帝や、背中から翼が生えている部族がそこら中にいる宇宙ではフラッシュなど非力な虫けらでしかない。それでも愛と勇気をもって戦い、みんなの心を動かしていく。そうして協力してくれる仲間を増やし、ついには大きなことを成し遂げる。こういうところにフラッシュ・ゴードンの魅力があるし、観客も彼を応援できるのではないでしょうか。フラッシュは人柄と運でミン皇帝に勝ったようなものです。だから「彼は奇跡(主題歌の歌詞)」なんですね。

等身大のヒーロー像を描くのはサム・ライミ版スパイダーマン以降の流行りですが、等身大どころかほとんど一般人なのがフラッシュ・ゴードンの面白いところではないでしょうか。

② カッコよすぎるオープニング

これは観ていただければわかると思います。冒頭のミン皇帝による地球滅亡の悪巧みからのオープニングシークエンスはアメコミ映画史に残る素晴らしいものです。例のクイーンによる主題歌のイントロをバックにタイトルロゴがドーンと飛び出してきたかと思うと(ここは少しスター・ウォーズの影響を感じさせます)、スタッフクレジットの合間に実写とコミックのイメージが交互に挿入される一連の演出は大変カッコいい!なによりちゃんとコミック風になっているのが最高です。ぜひ、確認してみてください。

③ コミックのイメージを愚直に映像化

いまのアメコミ映画の主流は「コミックの現代風再解釈」でしょう。たとえばMCU作品ならキャプテン・アメリカを”戦争モノ”、マイティ・ソーを”神話モノ”として、原作のエッセンスはそのままに各ジャンルの映画の文法に則った現代風の再解釈をしているのが特徴になっています。DCEU作品はコミックを映画のスクリーン上で動かすことを念頭に置いているイメージで、プロデューサーのザック・スナイダーの洗練された映像センスをここに混ぜ込むことで新しいコミック解釈を提示しています。

一方の『フラッシュ・ゴードン』はアメリカンコミックのイメージを愚直なまでにそのまま映像化しています。あえて映画的な解釈を入れることを回避しているようにすら見えます。結果、赤と金と銀で構成された大変悪趣味な世界観が完成してしまいましたが、ある意味いちど目にしたら忘れられない強烈な個性を放っています。しかも製作費は当時としても大規模なものとなっており、とてもセットとは思えない広大な空間がスクリーン中に広がります。ミン皇帝が登場する広場や、ゴードンが囚われる森のセットはどこまでも奥まで広がっていて、実物にしか出せない迫力を生み出しているのです。特に長回しでカメラが横移動するとその広さがわかります。まるで屋外で撮っているかのような、アナログならではの質量をずっしり感じます。

衣装もなかなか不思議です。主人公はゲイ風のぴったりしたTシャツを着ているし、悪役はつり目でハゲのコスプレをしたおじさんです。学芸会にしか見えませんが、この妙なチープさがコミックの雰囲気をそのまま伝えているように感じませんか?いまこのデザインで映画を作ったら確実に顰蹙を買いますが、1980年という時代だからこそ許容された大ざっぱさが『フラッシュ・ゴードン』を特別な(そしてちょっぴりノスタルジックな)作品にしているのだと思います。

④ ポップミュージック×アメコミ

最近のアメコミ(というよりは大作系のSF/アクション)映画の流行りの一つに「懐メロ」の使用があります。言うまでもなく『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)がこのブームの火付け役ですが、これに続けと言わんばかりに『スーサイド・スクワッド』(2016)ではクイーンのボヘミアン・ラプソディーが大々的に使用されました。『スター・トレック BEYOND』(2016)や『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)でも「懐メロ」が作品の世界観を構築する上で重要な役割を果たしていました。

私はこうしたジャンルの映画におけるポップミュージックの使用(正確にいうと「懐メロ」ではありませんが)の原点を『フラッシュ・ゴードン』に見出したら面白いんじゃないかと考えています。『フラッシュ・ゴードン』では劇中の楽曲を人気ロックバンドのクイーンが担当しています。特に主題歌の「フラッシュのテーマ」は映画そのものより知名度があり、たびたびCM等でも使用されています。最初から作品と音楽がしっかり結び付けられているのです。映画の評価自体、楽曲の完成度の高さによってかなり引き上げられていると言えます。もともとアメコミとポップミュージックの相性はかなり良いとは思うのですが、その実力をはっきり示したのが『フラッシュ・ゴードン』なのではないでしょうか。

以上、『フラッシュ・ゴードン』を

  1. 最初から最後まで”凡人”のフラッシュ
  2. カッコよすぎるオープニング
  3. コミックのイメージを愚直に映像化
  4. ポップミュージック×アメコミ

の4点から再評価してみました。この映画は他にもたくさん見どころがあります。ハイセンスなザーコフ博士の洗脳シーンや、マックス・フォン・シドーやティモシー・ダルトンなどヨーロッパの豪華俳優陣たちの演技(無駄遣い)、それから子どもの視点を無視して好き勝手やってるお色気シーンの数々など、面白いポイントを挙げたらキリがないんじゃないかと思います。

『フラッシュ・ゴードン』は現在Huluでも配信中で、たいへん鑑賞しやすい環境にあります。ぜひ、肩の力を抜いて、この時代にしか作れなかった脱力系アメコミ映画を楽しんでみてください。

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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