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【ネタバレ】『アナと雪の女王2』クリストフの「恋の迷い子」シーン、こうして生まれた ─ 声優も困惑、制作中に「やりすぎだ」と修正も

アナと雪の女王2
(C)2020 Disney.

「恋の迷い子(Lost in the Woods)」

『アナと雪の女王2』で、アナとエルサの姉妹は、エルサの力のルーツと過去に秘められた真実を求めて冒険に出る。そんな中、アナの恋人であるクリストフは、どうやってアナにプロポーズすればいいかで頭がいっぱいだ。ところが、2人の置かれた状況の違い、それからクリストフの口下手さとアナの思い込みの強さもあいまって、クリストフのプロポーズはことごとくうまくいかない。ある朝、プロポーズのサプライズを準備するために姿を消していたクリストフを置いて、アナたちは次の目的地へと出発してしまう。

一人取り残されたクリストフは、気丈に振る舞おうとするが、相棒のトナカイであるスヴェンに「感じたままでいいんだ、その気持ちは本物だよ」と(空想の中で)語りかけられ、アナへの気持ちを歌い上げる。「恋の迷い子(Lost in the Woods)」だ。アナ役のクリステン・ベルが「この映画でベスト3に入る」と言い、オラフ役のジョシュ・ギャッドが「ディズニー・アニメーション史上もっとも笑える曲」と絶賛する場面である。

いきなり鳴り響くギター、甘く切ないメロディ、歌い上げるクリストフ、80年代のミュージックビデオを思わせるアニメーション。『アナ雪』らしからぬテイストで観客を困惑させ、しかし(主に大人を)爆笑させるこのシーンは、早くも“クリストフのMV”と呼ばれて愛されている。

シカゴ(Chicago)やクイーン(Queen)など、さまざまな元ネタが挙げられている「恋の迷い子」だが、そもそもどうしてこういうテイストの曲になったのか。劇中曲を担当したロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペスは、監督のクリス・バック&ジェニファー・リーとの共同作業を進める中で生まれたものなので、「正確に誰のアイデアは分からない」という。けれども、いくつかアイデアの候補の中で、“80年代風ロックバラード”というアイデアは「圧勝だった」そうだ。

このシーンについて、ロバートは「クリストフは自分の思いに気づき、彼女への思いを歌うことができます。だけど、そうするのは簡単なことではないのです」語る。自分の脆い内面を、クリストフという男にどうやって歌わせればいいのか。そこでヒントになったのが“80年代”だったのだ。クリステンは「男性がああいう感情を歌い上げられた時代」だと分析する。「ボン・ジョヴィやシカゴ、リチャード・マークスの歌うパワーバラードが、そういう思いを歌うことを許していたんです」。ちなみにクリステン自身も当時、ボーイフレンドと別れた時にはブライアン・アダムスを何度も聴いていたそう。「みなさんにもそういう気持ちを味わってほしいですね」。

こちらはシカゴの代表曲「Hard to Say I’m Sorry」「Get Away」。

クリストフ役ジョナサン・グロフ、困惑

原語版でクリストフを演じている、ミュージカル界でも確かな実績を持つ俳優ジョナサン・グロフ。Netflixドラマ「マインドハンター」(2017-)の主演でも知名度を伸ばしている。もっとも、そんなジョナサンでさえ「正直、こんな曲が来るなんて予想していなかった」と当初の困惑を明かしている。そもそも、前作にはクリストフのソロ楽曲がなかったのだ。

「続編で僕が歌うことになると聞いた時、どうなるのか想像できませんでした。この曲の面白いところは、クリストフがスヴェンの変な声で自分の気持ちを表現するというクセを活かしている点。ペットを飼ってる人たちが、変な声でペットを喋らせるのと同じです。前作にあったそういう面が、今回は80年代風のソフトロックになっています。それがクリストフなりの、アナに対する深い思いの表し方なんですよね。」

とはいえジョナサンは、この曲について「最終的には絶対カットされるだろうな」と考えていたそう。しかし、すでに映画を3回観たというジョナサンは、今では「映画に残ったことに感激しています」と語る。「これは大人たちの“お楽しみ”でもあります。客席の大人には、80年代の元ネタや曲の出来栄えが分かりますから。子どもたちも笑ってくれますけど、大人にこそ本当に分かるジョークです」。

ちなみにジョナサンは、この曲でクリストフのボーカルだけでなく、スヴェンによるコーラスも担当。クリストフとスヴェンによるボーカルとコーラス、すべて合わせて18種類の歌をレコーディングしたという。

アニメーターが暴走した“クリストフのMV”

もちろん、楽曲を手がけたロバート&クリステンには、80年代風の音楽を採用することで「子どもたちを置いてけぼりにしてしまう」との懸念も忘れていなかった。「だからこそ楽しいシーンにしなければいけなかったんです」。また作劇上でも、アナやエルサが厳しい事実を知り、アースジャイアントが登場した直後だからこそ、楽しい場面が必要だった。「同時にリアルな感情や、森での変貌が持つリアルな問題も失いたくなかった。だから全ての歌と同じく、歌って楽しいものにするのが一番だと思いました」。

監督のクリス・バックは、「クリストフのMV」と呼ばれる衝撃のアニメーションを作るにあたって「80年代当時のミュージックビデオをたくさん研究しました」と明かしている。また脚本・監督のジェニファー・リーは、「素晴らしいストーリーボード(絵コンテ)のチームが全体を組み立て、アイデアを提供してくれました」と振り返る。いわく、ストーリーボードのアーティストたちはノリノリで作業にあたっていたようだ。

(アーティストが)時々やりすぎることがあったんですよ。クリストフが側転していたり、シャツを破いたりしていて。だからちょっとだけ、あくまでちょっとだけ引き戻しました。だけどそれが素晴らしい刺激になって、(このシーンは)アニメーションでさらに膨らんでいったんです。」

アニメーターのジャスティン・スクラーも、「最終的にはクレイジーに仕上がりましたが、最初ほどクレイジーではないですね」と同意する。そして、「本当に大変なシーンだった」とも語った

「難しかったのは、いくら他の場面からかけ離れたシーンであるにせよ、クリストフ自身は真面目でなければならないということ。クリストフは本気じゃなきゃいけないし、歌のあいだ、観客にウインクすることはできない。クリストフのキャラクターを壊さないまま、クレイジーで笑えるものにする、そのバランスを取る作業に長い時間を費やしました。」

またクリストフ役のジョナサンも、レコーディングの際には「どこまで真面目にやるのか、どこまでふざけていいのか」という話し合いを重ねたと明かしている。

「曲のジョークを伝えつつ、きちんと誠実にやらなくちゃ。80年代風の曲ではありますが、ジョークを作ってるわけではありませんから。この曲が面白いのは、すごく当時らしいからですよね。だけど今、当時のミュージックビデオを見ると、すごく純粋なんですよ。そこに忠実だから笑えるんですが、その純粋さは実際にクリストフが感じていることでもあります。だからこそ、真面目と不真面目のバランスが楽しかったんですよね。」

一方で、楽曲を手がけたクリステンは、今この曲を歌うことには、ただのジョークにとどまらない意義があるのではないかとも推察している。女性に力を与える作品だと言われることも多い『アナと雪の女王』だが、この曲は、少年の観客にも力を与えることにもなるのではないかと。

「空想のスヴェンが“感じたままでいいんだ、その気持ちは本物だよ”と言いますが、そのメッセージが少年たちに伝われば、多かれ少なかれ、彼らも自分の気持ちに自信が持てるんじゃないかと思います。80年代風のパワーバラードでそう伝えられたなら、有害な男らしさとも少しは戦えたのではないかって。」

ジョナサンもこれに同意し、「クリストフはディズニーの主人公で、男だけれども、傷つきやすいところがあります。この歌はまさにそのことや、彼の深い感情を歌っているんです」と語る。「エンターテイメントでは時々、男性が冒険に出かけて、家にいる少女が自分の気持ちを歌うところを見ますよね。だけど『アナと雪の女王』ではそれが逆になっていて、アナが壮大な冒険に出発し、クリストフが自分の気持ちやアナへの愛を歌うんですよ」。

映画『アナと雪の女王2』は2019年11月22日(金)より全国公開中

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Sources: Collider, Digital Spy, Entertainment Weekly, Lamp Light Review, GMA

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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