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観たぞ!カンヌ受賞の話題作『淵に立つ』

国内外で評価が高まり続ける、深田晃司監督。
第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した最新作『淵に立つ』が、10月8日から公開が始まった。

あらすじ

親から継いだ、小さな金属加工工場を営む鈴岡利雄は、妻の章江、10歳の娘・蛍と平凡な家庭生活を送っていた。
ある日、利雄の旧友で、出所してきたばかりの男・八坂草太郎が現れる。
利雄は章江に相談することなく、八坂に仕事と自宅の空き部屋を与える。
困惑する章江だが、八坂の、敬虔なクリスチャンである章江を手伝う姿や、その礼儀正しさ、娘の蛍のオルガンの練習にも付き合う面倒見の良さなどから、次第に好意を抱いていく。
八坂に対して負い目のある利雄は、鈴岡家における八坂の存在を許容し、次第に近くなっていく妻との距離にも目を瞑るのだった…。

日常の風景

http://fuchi-movie.com/
http://fuchi-movie.com/

規則的に一定のリズムを刻むメトロノーム。少女が弾く鍵盤から生まれる、とぼけたようなオルガンのメロディー。まばゆい朝の陽光。
そんな牧歌的ともとれるが、どことなく冷たい印象の日常の風景から、この”家族モノ”は始まる。
・根底に規則的に刻まれるリズム―日日
・とぼけたようなメロディー―様々な意味での、人の業
・陽光―当たり前にある、存在や感情(むろん、雲が出ればその存在は遮られる)
を暗示しているかのようなオープニングだ。
これらが合わさり、家族の日常として繰り返される。

色による表象

http://www.cinematoday.jp/movie/T0020965/photo/003
http://www.cinematoday.jp/movie/T0020965/photo/003

この、家族の流れる日常に、浅野忠信演じる八坂という男は、陽光のように、すっと入り込む。
光を浴びた彼の姿は、まるで幽霊のように輪郭が曖昧で、それでいて聖者のような神々しさを放っている。
過去の自分を「独善的な人間だった」と自ら評する彼だが、ある種の”清さ”を表象する”白”色を頑なに纏い続ける。夜眠る時でも着ているワイシャツ。仕事時の作業着。
彼の、清くありたい、正しくありたい、という願望が今もうかがえる。
出所後しばらくは、刑務所での癖が抜けず、どこか人間らしさを欠いた彼だが、鈴岡家での関係の中で次第に人間らしさを取り戻していく。彼が人間らしさを取り戻すにつれて、特に目立ち始めるのが、”情熱”、”衝動”、そして”暴力”などのイメージを喚起させる”赤”色である。
河辺に咲く花、娘の蛍が身に纏うドレス、八坂が白い作業着を脱いだ時に露わになる真っ赤なTシャツ、などである。
彼は自らの”清さ”を剥ぎ取り、”情熱”、”衝動”、”暴力”へと向かって行き、姿を消す。

音による表象

http://www.cinematoday.jp/movie/T0020965/photo/001
http://www.cinematoday.jp/movie/T0020965/photo/001

八坂が姿を消し、8年が経つ。
傷を負い、苦しみ続けるこの家族にも、いまだ日常がある。目に見えて決定的に何かが変わってしまっていても、当たり前に日常はあるのだ。
古舘寛治演じる夫・利雄が足の爪を切りながら、筒井真理子演じる妻・章江に対し、過去の過ちを告白する姿に慄然とし、さながら狂ったメトロノームのように響く爪きりの音に、もともといびつだった家族関係が完全に壊れてしまったことを思い知る。日日としてあったリズムは完全に狂ってしまったのだ。

印象的な物語世界内の音。メトロノーム、工場での冷たい金属音や、食卓での食事音、河辺での虫の音や鳥の鳴き声、流れる河の水、人物の息づかい。やはり、音の印象が、観客の想像力にどれだけ影響を与えるかを再認識させられた。
そして特筆すべきは音楽だ。蛍が弾く「紡ぎ歌」、八坂の弾く「美しい牧場の堤」はかなりのインパクトを残すが、物語世界外からつけられた映画音楽が素晴らしい。曖昧で、神々しく、気づけばそこに、在る。八坂のように。陽光のように。

またHARUHIが歌う主題歌「Lullaby」も、観客を本作の余韻に存分に浸らせる魅力がある。
ミュージックビデオは深田監督が担当している。

”家族モノ”の一面だけでない本作。
ぜひとも劇場で。

http://fuchi-movie.com/

Writer

Yushun Orita

『映画と。』『リアルサウンド映画部』などに寄稿。好きな監督はキェシロフスキと、増村保造。

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