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洋画吹替の醍醐味とは ─ レジェンド声優、江原正士&山寺宏一に聞いた『ジェミニマン』妙技

映画『ジェミニマン』江原正士、山寺宏一

日本を代表する声優である江原正士と山寺宏一が、共にウィル・スミスの声を演じる『ジェミニマン』。『メン・イン・ブラック』シリーズや『ハンコック』(2008)の江原が現在のウィル・スミスを、そして『インデペンデンス・デイ』(1996、地上波版)や『アラジン』などの山寺が最新技術で描かれる23歳のクローンであるウィル・スミスを演じる話題作だ。

THE RIVERでは、「ウィル・スミス声優」として初めて演技を共にした山寺と江原のふたりにインタビュー。映画の見どころから、洋画吹き替えの醍醐味、若手声優に向けた想いを聞いた。


ふたりで演じるウィル・スミス

── 『ジェミニマン』では、江原さんと山寺さんのおふたりが一緒にウィル・スミスの声優を務められるというニュースと、おふたりが向かい合ったポスターが話題を呼びました。このニュースが皆さんに喜ばれて、いち洋画ファンとして嬉しく思います。

ジェミニマン
© 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

江原:僕も、吹き替えが話題になるというのは、単純に嬉しいです。

山寺:僕も嬉しいですね。なかなかこういう企画はないので、それがビジュアルで分かりやすくなるというのは良いんですが……、ただ1点。江原さんは二枚目なので良いんですけど、僕は若きウィル・スミスを演じるのに、本家のポスターと見比べられるというのが恥ずかしいなと(笑)。レイアウトを作ってくださる方やカメラマンさんのおかげでうまく仕上がりましたけど、大丈夫かなと思っていました。

江原:僕は二枚目なんかじゃないですよ、おっさんですから(笑)。山寺さんだって、チャーミングとか言われてるくせに、何言ってんだよ(笑)。

── 『ジェミニマン』では、現在のウィル・スミスを江原さんが、23歳の若きウィルを山寺さんが演じています。どちらがどちらを演じるという配役を最初に聞いた時はいかがでしたか?

江原:僕の方がリタイア組なのでね、年齢的には相応しいと思います。でも、もしも僕が23歳の若い方のオファーを受けていたとしても、「やるぞ!」という気持ちで取り組んでいましたよ。ひとりで両方やることもできるはずですが、キャスティングを2人で分けているので、2倍楽しめる。

山寺:僕は、最初にウィル・スミスの『ジェミニマン』の吹き替えをやっていただきます、という話を聞いて、「おっ、嬉しいな。(2人のウィル・スミスを)両方やるのかな、大変だな」なんて思っていたら、「2人でやって頂きます」って。「どういうこと?誰とやるの?」って驚いていたら、「江原さんです」と聞いたので、安心しました。それは素晴らしい企画だなって。江原さんも、ウィル・スミスの声をずっとやられているわけですから。ご一緒できて、すごく嬉しかったですね。

ウィル・スミスは声が太いので、僕もこれまで演じる時は意識してやっていました。今回は若いウィル・スミスだから、声色はあまり意識しなくてもいいかもしれない。でも、23歳のピュアさとか、クローンとして生きてきた感情をリアルに表現できるかな、という不安はありました。そのさじ加減はディレクターと相談しながら、どう表現するかを決めていきました。

江原:同じウィル・スミスなんですけど、別々の役なんですよね。

山寺:そうそう。ちゃんと会話もしているし、別のキャラクターなんです。

ジェミニマン
© 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

── ということは、同じウィル・スミスだからといって、お互いに雰囲気を合わせたりはしていない?

江原:していないですね。山寺さんはクローンの役で、僕は疲れてリタイア希望組。暗殺の仕事を辞めようとしている、傷ついた男ですから。キャラクターの設定が全く違うんですね。それから、収録は別々に行っています。

山寺:もともとはウィル・スミスが演じて、もう1人の23歳のクローンはウィル・スミスの芝居を元にした、CGのキャラクターです。だから2人とも、ウィル・スミスの演技を元に吹き替えを作っているので、自ずと共通点は出ているんじゃないかな。江原さんも僕も、なるべくきめ細かく吹き替えをしようという気持ちです。

声優における役作りとは

── 吹き替え声優として、おふたりがどのように役作りをされるのか、興味があります。

江原:人によってアプローチの仕方は違うと思うんですけど、僕の場合、吹き替える俳優の役によって声は自分とは全く違うと思うんですよ、若干似ていてもね。その若干似ている部分をチューニングしながら、そこから芝居を作っていく。たとえば、こちらが低い声なのに、あちら(役者)が高い声だったら、チューニングしてね。それから、ニュアンスというか、何を言いたいのか、というところをね、声の表現はいっぱいあるので、どれをチョイスするのか、それを選ぶのが、まず大変ですよね。今作も複雑な役なんですが、いくつかポイントを選びながら、声を作っていきます。作品を観て、ある程度の方向性を決めるだけでも、結構時間がかかる時がありますね。

それから、収録した後になってから「あっ、あのセリフはああすればよかった!」って気付くこともあります。だから、僕は完成した作品をすぐ観るのが怖くて、しばらく経ってから観て、「意外と気にならないな」とか、「あぁ、やっぱりじゃん!」って一喜一憂するんです。

山寺:僕も反省が先に立っちゃいますね。でも、客観的に見てくれるディレクターやスタッフがいるわけですから。自分が良いと思うものがベストとは限らない。良いと思いっていたものが、意外とそうでなかったりする(笑)。もう、それは任せるしかない。でも、いつも思いますよ。もっとこうすればよかった、って。(自分の出演作品を観るのは)非常に恐いですけれど、人に勧めるためには観ておかなくてはいけないという葛藤はあります。

役作りについてですが、例えばスナイパーや兵士の役だったら、役者の場合は軍に仮入隊して、銃の扱い方を学ぶ、ということはあると思いますが、声優の場合はそういうことは必要じゃないわけですよ。声の表現が全てですから。ただ、何が書かれているのか、どういう心情なのか、ということを台本でちゃんと掴むことは我々声優も同じです。

声優の場合は、お手本がある。今作ではウィル・スミスのように、もう演技をしている人がいるわけですから。その人が、どんな表情で、どんな想いで、何を言って、どんな声で喋っているのか、それを汲み取ること自体が役作りですね。『ジェミニマン』での役は、非常に複雑な生い立ちのクローン。自分の父親のようにも見えるオリジナルの人間を殺さなくてはいけないという葛藤もひとつの見所なので、どんな気持ちなんだろうと想像しました。表面の演技だけを合わせても上っ面になってしまうので、ここで泣いているのはどういう気持ちなんだろうと考えるわけです。

吹き替えの醍醐味

── その際、どのように準備されるのですか?アイデアをペンで紙に書き出したりされますか?

山寺:僕は書き出したりしたことはないですね。もう映像を見て合わせるしかないので、実践的な方に僕は(意識を集中させます)。声優の演技は、自分の間(ま)で出来るわけではないですからね。

江原:僕は、(台本に)チェックは入れますよ。ここは強く言ってるな、とか。ただ、ちょっと話は広がっちゃいますが、『ジェミニマン』は例外ですが、僕は、かつてB級作品やC級作品も随分とやってきた方でして、吹き替えの醍醐味というのは、ちょっと過激に言えば、オリジナルを無視する、というか膨らますというか、その瞬間にあるカンジがするんですよ。A級作品の場合はお手本通りに作っていきますけど、B級作品やC級作品の場合には、作品の弱い場合を僕らが補っていくんです。芝居の弱いところを補強していくんですね。

昔、ディレクターにこう言われたことがあります。「江原くん、話が見えなくなってきた。ここで1回復習しよう。さっき撃ったのは誰か、一応言ってくれ」って。で、その場でもって僕は(セリフを)書いて。「ということはアイツが…、そうか、あの車だ!」って。そういうこともよくやりましたよ。遠い昔ね。

とにかく(アドリブが)てんこ盛りで、オリジナル作品が変わっちゃうこともありました。B級作品、C級作品は特にです。オリジナルの画(え)が壊れない限り、僕らは如何様にも作れるんです。ある大先輩とタイマンで芝居を一緒にやらせて頂いた時に、先輩が端のマイクでコチョコチョと芝居をされてまして、声はハッキリ聞こえないし台詞は何だか違うみたいだし、僕は若手だったので、「何だろうな」と思いながら何も言えなかったんですけどね。オンエアを観たら……、もう素晴らしい声で、縦横無尽に!演技にもピッタリ合っていたんです。オリジナルとは違うので、「えっー!?」って思いましたけどね(笑)。でも、すっごく面白かったんですよ。そうか、僕が観ていた吹き替え洋画はコレだったんだ!ってね、それが吹き替えの醍醐味かもしれませんね。ただ、『ジェミニマン』では踏み外すことは出来ません。(笑)

山寺:僕は全然そっちには行かないです。今まで、そういうことは無かったですね。声優が演技を加えるというのは、僕の経験ではほとんど無いです。憧れますけどねぇ。

江原:それは若干、世代の違いかもしれないですね。昔、僕が初めて見たアテレコは、石田太郎さん。現場でディレクターが「太郎ちゃん、あそこに漁師がいるんだよなぁ。ちょっと、2つ3つ、入れといてよ」って言って、その場でパンパーンと、オリジナルにはないアドリブを突っ込むんです。でも、画を観ると、本当に喋っているように見えるんですよ、これが!ビックリしちゃう。それが最初に見たアテレコだったから。自由なんだ、と思いましたね。

※石田太郎…『新刑事コロンボ』など洋画吹き替えで知られる。ジャック・ニコルソン、アンソニー・ホプキンスほか、『ルパン三世カリオストロの城』の悪役カリオストロ伯爵、『くまのプーさん』イーヨー役まで幅広く活躍した。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER編集長。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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