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実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』に足りなかった哲学─『攻殻機動隊』『イノセンス』では描かれていたアイデンティティ論を考える

スカーレット・ヨハンソン主演、日本からはビートたけしも脇を固めたルパード・サンダース監督作ゴースト・イン・ザ・シェルは、もうご覧になっただろうか。

1991年に士郎正宗によって提示された『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の世界が初めて映像化されたのは、1995年の押井守監督アニメ作品。以来、2004年公開の続編『イノセンス(海外では”THE GHOST IN THE SHELL2”のタイトル)』、2002年のTVアニメシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』など、様々なメディアミックスが展開され、世界中でカルト的人気を博している。それだけに、今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』はあらゆる角度から期待をかけられていた、重大なプレッシャーの中で作り上げられた一作だ。

筆者は、2017年3月16日に都内某所で開催された今作の記者会見に参加し、スカーレット・ヨハンソンはじめとする出演者や、ルパード・サンダース監督らの今作にかける熱い想いを直接見聞きしていた。監督は押井版アニメ原作について「日本独自の環境と魅力的なSFの表現が融合したという点で現代映画史における金字塔」と評しており、本人の口からも原作やその熱狂的ファンに対する多大なリスペクトを充分に感じることが出来た。

この記事は、映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』のレビュー的内容もほどほどに、原作の一部となった押井守監督による劇場アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』(1995)と『イノセンス』(2004)で語られていた哲学的テーマについて考察してみたい。

【注意】

この記事には、1995年の映画『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』と、2004年の映画『イノセンス』に関するネタバレ内容が含まれています。

2017年の『ゴースト・イン・ザ・シェル』についてのネタバレはございません。

また、少々長文となっております。

実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』が優れていたと思う点

ゴースト・イン・ザ・シェル
(C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.

結論から言ってしまえば、筆者は実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』の出来にはやや懐疑的である。なぜなら、今回の実写版には『ゴースト・イン・ザ・シェル』の本質的テーマといえる哲学…『アイデンティティ論』の描写が抜け落ちているように感じたからだ。

本質を描ききれていないという意味で、今作は「表層的」な実写化であったとは思う。しかし、今作を全否定したいわけではない。たしかに、科学や技術、神道などあらゆる要素が徹底的に考証され、その上で異常なほどに緻密な世界観を構築した士郎正宗の原作漫画と、その世界観を極めて哲学的、詩的に、かつ芸術的に映像化してみせた押井版の劇場アニメ二部作が宿していた本質には残念ながら至っていない。ところが、攻殻機動隊の物語を実写で視覚的に再現したという点では優れていただろう。…そう、良くも悪くも”再現”だったのである。

キャスティング

そもそも、アニメやコミックが先行して存在するものを実写化するに際しては、誰がこのキャラクターを演じるのか、という点は常に論争の対象となる。今回は、草薙素子という日本人設定のキャラクターを白人のスカーレット・ヨハンソンが演じることについて否定的な意見も目立った。

「なぜ草薙素子をアジア人ではないスカヨハが演じなくてはいけないのか」…この反対意見は納得できるものだが、少なくとも押井守監督に言わせれば「考えられる最良のキャスティング」だという。

「少佐はサイボーグであり、彼女の身体は完全に仮想のものなのです。『草薙素子』という名前や今の身体は、生まれつきの名前や身体ではありません。なので、アジア人の女性が演じなければいけないという主張に根拠はないんです。例え彼女のオリジナルの身体(そんなものがあったとして)が日本人のものだったとしても、それは変わりません」

また、「僕が想像した以上に(スカーレットは素子という)役になっていると思う」とも述べている。

スカーレットは、押井版での草薙素子が持っていた神秘性と、芯の強さを充分に表現できていたと思う。また、『アベンジャーズ』シリーズや『LUCY』で知られるように、激しいアクションもしっかり魅せてくれた。(ただし、少々ムチムチすぎたことについては…。)

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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