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【レビュー】『ゴースト・イン・ザ・シェル』は普通に面白い!実写化で失われた「曖昧な情感」に迫る

(C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
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失われた「曖昧な情感」とは?

日本で制作された『攻殻機動隊』にあって、実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』にないもの、それは「曖昧な情感」です。このあたりは、日本式とハリウッド・スタイル、あるいは東洋・西洋の価値観の違いかもしれません。

敵の抱える「情感」

『攻殻機動隊』に登場する敵は、常に曖昧さを孕んだ存在でした。

劇場版第一作の敵である人形使いも、テレビアニメの『STAND ALONE COMPLEX』に出てくる笑い男や傀儡廻も、動機こそ明らかにされますがその正体は最後まで曖昧なままです。フーダニット・ハウダニット・ホワイダニットという三つの要素のうち、フーダニットだけが灰色の部分を残して終わる。それが『攻殻機動隊』の特徴であり核の一つです。

また『攻殻機動隊』の敵たちは、確かに主人公たちに対立する存在として登場しますが、その動機は必ずしも悪とはいえないもので、善悪の観点においてもやはり曖昧な存在です。『攻殻機動隊』の人形使いは、まともな人間の感覚では理解しがたい価値観に基づいて行動してはいますが、その動機は必ずしも「悪」と断じられるようものではありません。『STAND ALONE COMPLEX』の笑い男とクゼ、傀儡廻は立場上敵ではあるものの、彼らの動機は道義的に間違いと断じられるようなものではありません。その動機を実現する方法が結果的に犯罪になってしまっているだけです。

それに対して『ゴースト・イン・ザ・シェル』では黒幕の正体がはっきりわかっていますし、善と悪があるのであれば間違いなく悪党にカテゴライズされる存在です。原作にあった曖昧さが削ぎ取られたことで、『攻殻機動隊』シリーズにあった曖昧でもどかしい情感が損なわれていました。

映像面の「情感」

『攻殻機動隊』と『イノセンス』を監督した押井守の特徴はとにかく「クドい」ことです。クドくて理屈っぽくて面倒くさい、それをプレースタイルとしている監督なのです。たとえばアクションシーンではダイナミックな立ち回りを見せる一方、ドラマパートではテンポをあえて犠牲にし、ほとんど動きのないロングショットを長々と続け、さらに長ったらしいセリフをかぶせて……という、見てて「キツいなあ」と感じることを敢えて仕掛ける作り手です。

『攻殻機動隊』ではそのクドさがそれほど強く出ていませんが、クライマックスの人形使いと少佐のやり取りでは、理屈っぽくて小難しい会話が主に人形使いと少佐のクローズアップの切り返し中心に続くという、クドさにクドさを重ねた濃厚なクドさで表現されています。しかし、こういうクドさが味や情感に繋がっているとも言えます。それが悪い方向に出ることもありますが、『攻殻機動隊』はそういった作家性が良い方向に働いた例です。

また、テレビシリーズの『STAND ALONE COMPLEX』はもっと中庸を行くような作りになっています。同作は、基本的にアニメ特有の付けパン(被写体を追ってカメラを動かすこと)をあまり使わず、フィックス(カメラを固定して撮影すること)を中心にした実写ライクな演出になっています。フィッシュアイ(魚眼レンズ)で思い切り画面を歪ませたり、めまいショット(被写体の大きさを一定に、背景の奥行きを変える)で意表を突いたりというギミックを時折使ってはいますが、基本的にリアリティを感じさせる映像文法に落ち着いています。それ故に全体がしっとりとして落ち着いた情感を醸し出しており、これが物語自体が持つ曖昧な情感と心地よくマッチしていました。

一方、『ゴースト・イン・ザ・シェル』のルパート・サンダース監督は職人仕事に徹していた感がありました。ハリウッドの大作映画はとにかく画面がよく動きます。空撮やクレーン、ドリーもたっぷり使うし、フィックスに見えるカットでも微妙に動いており、とにかく観客が飽きないように作られています。ダグ・リーマンやアントワーン・フークアD・J・カルーソのような、大作映画御用達の職人色の強い監督にはとりわけそれが顕著です。ルパート・サンダース監督も、そういう意味では立派な仕事をしたと思います。ですが、そのことが重ねて情感を薄めてしまったようにも思います。

(C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
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美術の「情感」

『攻殻機動隊』は一貫して、生活感のある光景の中にSF的なガジェットをちりばめてきました『STAND ALONE COMPLEX』のベストエピソードとして名高い『暴走の証明』は、民間の軍事会社が秘密裏に開発していた多脚戦車が原因不明の暴走を起こすエピソードですが、多脚戦車というSF的ガジェットが普通の住宅街を破壊していく光景はなんとも言えない、敢えて言うならば、まさに『攻殻機動隊』的としか言えない情感を醸し出していたのです。

Writer

ニコ・トスカーニ
ニコ・トスカーニMasamichi Kamiya

フリーエンジニア兼任のウェイブライター。日曜映画脚本家・製作者。 脚本・制作参加作品『11月19日』が2019年5月11日から一週間限定のレイトショーで公開されます(於・池袋シネマロサ) 予告編 → https://www.youtube.com/watch?v=12zc4pRpkaM 映画ホームページ → https://sorekara.wixsite.com/nov19?fbclid=IwAR3Rphij0tKB1-Mzqyeq8ibNcBm-PBN-lP5Pg9LV2wllIFksVo8Qycasyas  何かあれば(何がかわかりませんが)こちらへどうぞ → scriptum8412■gmail.com  (■を@に変えてください)

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