Menu
(0)

Search

「『TENET テネット』を絶対にIMAXで観たい」、訓練された海外ファンの遠征計画が相次ぐ

TENET テネット
Tenet c 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

クリストファー・ノーラン監督の最新作TENET テネットは、近年の例に漏れず、ノーランがIMAX 70mmフィルムを使用し、とことんこだわり抜いて撮影した作品だ。したがって理想を言えば、ノーランの意図を完全に再現できるスクリーンで鑑賞することが望ましい。しかしながら、そうした環境は決して世界中どこにでもあるわけではなく、熱心なファンは新作のたびに“遠征”することが必要になっていた。

世界が新型コロナウイルスの影響下にある今でも、なんとかその意志を貫こうとする人たちがいる。米Varietyでは、“コロナ禍からの映画の復活”を象徴する一大イベントを控えた人々の声が掲載されているのだ。

GO TO TENET

ロサンゼルスからオースティンへ

米カリフォルニア州に住むタイラー・トンプキンスさんは、『TENET テネット』のチケットが発売される前から、以前暮らしていたテキサス州オースティンの映画館で本作を観るために航空券を予約していた。9月1日の先行上映を目指し、ロサンゼルスから約3時間のフライト。映画を2回観たら、すぐに帰ってこようという計画だ。「映画を観るのが目的の旅行です」とは本人の談、ちなみに旅費は220ドルだという。

大のノーラン・ファンであるというタイラーさんは、今年(2020年)に入ってから、友人たちと映画で成功するためにオースティンからロサンゼルスへ移ってきたばかり。コロナ禍によって業界の仕事はなくなったが、レストランの接客係として働き始め、『TENET テネット』のための遠征に備えて貯金してきたという。

もちろんタイラーさんは、感染のリスクを最小限に抑えるつもりだ。フェイスカバーを常時着用し、映画館の感染対策もきちんと遵守するという。「自分が病気になるのは自分の問題。だけど人にはうつさないようにしたい。きちんと対策に従います」。

ロサンゼルスからソルトレイクシティへ

カリフォルニア州ロサンゼルスから、ユタ州ソルトレイクシティへの『TENET テネット』旅行を計画している30歳の男性は、これは『スター・ウォーズ』ファンがチケットを買うためにテントを張ったり、Appleユーザーが新型iPhoneのために並ぶようなものだという。「自分でもアホだなと思いますけど、僕の場合はこれなんです」。

この人物は、タイラーさんと同じく航空券を予約し、8月31日の先行上映に向かう計画。週明けの月曜日まで休みを取り、のんびりとした週末を過ごす予定だという。この男性の場合も、タイラーさんの場合も、ニューヨークやカリフォルニアなどの都市圏で映画館の営業が再開されていなかったり、あるいは望ましい環境が得られなかったりすることから、州外への旅行に踏み切ることとなった。

「旅行は感染を広げることにもなりうるので、さすがに躊躇しました」とは男性のコメントだ。「でも周りを見れば、みんなが自分勝手に振る舞っている。酒を飲んだり、賭け事をしたり、カジノではカードやチップを触っている。ほんのわずかな映画オタクよりもずっと恥知らずだと思います」。

パリからロンドンへ

IMAXのために州をまたごうと考える者がアメリカにいれば、ヨーロッパには国境を越えようとする者もいる。フランス・パリに住むフランク・ラニエルさんは、イギリス・ロンドンの映画館「BFI IMAX」で上映されたノーラン作品はすべて観ているという熱心な映画ファンだ。先日、トム・クルーズが『TENET テネット』を観るために足を運んだのが、このBFI IMAXである。

フランクさんは9月5日に映画を鑑賞するため、8月12日の時点で国際列車のチケットを購入していた。しかしその直後から、イギリス政府はフランスからの入国者についての対応を検討し、のちに入国後は2週間の自主隔離が必須だと決定されている。したがってフランクさんは、当初予定していた日帰り旅行を2週間以上の滞在に延ばさないかぎり、現地で『TENET テネット』を観られなくなってしまった。「信じられなかった、落ち込みました」と漏らすフランクさんだが、それでも「また予約し直さなければいけませんね」と前向きだ。「いっそ上映されないのだとしたら、そこまでする必要はないんですけど」。

TENET テネット
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

それでも私たちが遠征する理由

なぜ彼らは、これほどまでに『TENET テネット』に突き動かされるのか。感染リスクがあることを承知の上で、万全の対策を講じてでも、州境や国境をまたごうとするのはなぜか。ノーランの大ファンであるタイラーさんは「友達にもおかしいと思われているけれど、この映画への支持を表明したいし、観るためならなんでもします」と言い切る。「ノーランとワーナー・ブラザースは、2億ドルの大作映画で大きな勝負に出ているわけです。できるかぎりサポートしたいと思っています」。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly