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『グリーンブック』人種問題をめぐる批判は適切か ─ 「覚悟はしていた」監督が描きたかった希望とは

グリーンブック
© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

第91回(2019年)アカデミー賞作品賞を制した『グリーンブック』に一部で異論が噴出している。イタリア系アメリカ人のがさつな用心棒が、アフリカ系アメリカ人のピアニストの運転主役を務めアメリカ南部を巡る同作に、「典型的な白人目線の映画だ」との批判の声が挙がっているのだ。

「白人が救世主となる物語」との声

たとえば、米Shadow and Actのレビュー記事は、こんな書き出しだった。「ハリウッドはいつになったら黒人の物語を白人中心で描くことをやめるんだろう?ピーター・ファレリー監督による大評判作『グリーンブック』を見る限り、まだ時間がかかるみたい。」


映画は、黒人差別意識の根強いトニー・リップと、俗世から離れ孤高の生活を送る天才黒人ピアニストのドクター・シャーリーが出会い、旅の中で仲を深めていく。差別の厳しいアメリカ南部でシャーリーは様々な苦難に遭うが、その度にトニーが現れて解決する。やがてお互いを隔てていた人種間の壁はなくなり、シャーリーはトニーにとって大親友と呼べる間柄になっていく。

「白人が救世主となる物語」との意見が飛び出すのも無理はない。豪The AU Reviewは「お察しの通り、『グリーンブック』はほぼ全編、白人の目線からレイシズムを語る映画だ」と、米Financial Timesは「観客を侮辱するステレオタイプをドラマチックな演出タップリに」と手厳しい。

人種哲学者であるアフリカ系のローレンス・ウェア氏は本作を「中年の白人で混雑する中で」観た。上映後、「最近観た映画の中でもベスト!」と笑顔の女性の観客を目にし、「理解はできる」と記しているが、マハーシャラ・アリが演じたドクター・シャーリーについては「白人の観客に気に入られる物語の黒人に変えられてしまっている。それは許しがたいこと」と断じた。

グリーンブック
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「覚悟はしていた」

こうした声に対し、ピーター・ファレリー監督の度量は。2018年11月21日付の米Newsweekには、「白人監督と白人脚本家が人種問題を描くとなると、当然ながら厳しい目で見られるが、どうだったか」と尋ねられたとき、「その点はかなり意識していた」と答えている。「たとえば、”白人の救世主が…”といった言われをされることは覚悟していました。(中略)たしかに、トニー・リップはドクター・シャーリーを俗世の災難から救う。けれど、ドクター・シャーリーもトニー・リップをまともな人間にするため、彼の魂を救うんです。

『グリーンブック』ピーター・ファレリー監督
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『グリーンブック』はあくまでも明るい作風に仕上がっているが、黒人差別の描写に「“ダークさが足りない”という批判が起こることは分かっている」とこの時点で予見していた。

映画の序盤、バレロンガ宅を訪れた黒人の作業員2人が使用したグラスを、トニーがゴミ箱に捨てるシーンがある。ファレリー監督の「覚悟」は、このシーンに現れている。Newsweekには「人種差別描写がソフトだなんて言わせないよ!」、英Entertainment Weeklyには「(差別描写が)手抜きということはないでしょう」と主張した。

むしろ、黒人の観客に激怒されるのではないかとの緊張感もあった。本作のテスト試写の際、客席の半数が黒人客だった。同シーンについて黒人客が「ふざけるな、もう帰る、こんなの観てられるか」と腹を立てるのではないかと「非常に不安だった」というファレリー監督だが、蓋を開けてみればいたって平穏。上映後、「あのシーンはどう感じましたか」と黒人客にに聞き込みを行ったところ、「なかなか描かれない現実を、ああやってちゃんと提示してくれて嬉しいですよ」と答えられたという。

希望ある映画に

グリーンブック
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本作には、車内で2人がフライドチキンを食べる象徴的なシーンがある。フライドチキンと言えば、過酷な奴隷仕事を強いられていた黒人が体力をつけるために好んだソウルフードとされ、「黒人の好物」というステレオタイプがある。ドクター・シャーリーは始めこそ拒むが、トニーの勧めに押されて手に取る。やがてシャーリーも気に入って、2人でフライドチキンを頬張る。

こうしたシーンも都合の良い白人目線と言えばそれまでだが、人種は関係ないのではないか。高潔な生活を送ってきたドクター・シャーリーが、「明らかに衛生面に問題がある」油まみれのチキンを手づかみで食すのを嫌がっただけだ。

本質はどこにあるか。「社会問題を解決してくれる映画なんて存在しない。ただ、議論を起こすことはできる」とシャーリー役のマハーシャラ・アリ。「本作はポジティブで希望的なエンディングを迎える」と言うファレリー監督に、トニー役のヴィゴ・モーテンセンは「希望って、悪いモンじゃないでしょ?」と添えている。

『メリーに首ったけ』(1998)などコメディ映画出身のファレリー監督は、本作についてこんな風にも語っている。

説教じみたのは僕のスタイルじゃない。ウィスコンシン、テキサス、マサチューセッツの家族が(※思想や背景の異なる様々な観客が)みんなで観に行けるような映画にしたかったんです。」

合わせて読みたい

『グリーンブック』公式サイト:https://gaga.ne.jp/greenbook/

Source:Shadow and Act,The AU Review,Financial Times,The New York Times,Newsweek,Entertainment Weekly,SlashFilm

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER編集長。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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