アカデミー賞作品賞『グリーンブック』とはどんな映画か ─ あらすじ、レビュー、監督と出演者、受賞スピーチまとめ

混戦となった第91回(2019年)アカデミー賞は、一番の主要賞となる作品賞を『グリーンブック』が制した。日本では2019年3月1日(金)から公開となる本作、オスカー受賞をうけて俄然気になる方も多いだろう。この記事では、今年最も注目を集めるであろう一作『グリーンブック』について紹介しよう。
『グリーンブック』予告編映像
『グリーンブック』ざっくりあらすじ(ネタバレなし)
映画『グリーンブック』は、何もかもが正反対の2人の旅を描く実話モノ。バディ・ムービーやロード・ムービーの要素と魅力も持っている。
舞台は1962年のアメリカ。主人公のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)はナイトクラブの用心棒で、腕っぷしが強くてガサツな性格。クラブで起こるトラブルは拳一発で解決するタイプだ。加えて話術に優れ、どんな大物とも仲良くなってしまう。あまりの社交力に、”リップ”とのあだ名が付いた。
そんなトニーは、「ドクター」と呼ばれる人物の運転手を務めることになる。てっきり医者かと思いきや、劇場の高級マンションに暮らす孤高の黒人ピアニストのことだった。名はドクター・シャーリー。ゴージャスな住まいのドクター・シャーリーは玉座のような椅子に腰掛け、「黒人との仕事に抵抗はあるか」とトニーに問う。トニーは「ないね」と即答してみせるが、そんなことはなかった。当時の多くの白人のように、トニーも黒人に対して差別意識を持っていた。
ドクター・シャーリーの目的は、演奏ツアーに同行する優秀な運転手を見つけることだった。それも、黒人差別のより激しいアメリカ南部を目指すのだという。トニーの”どんなトラブルも解決する腕”が欲しかったドクター・シャーリーは、トニーの希望条件を全面的にのんで彼を雇う。こうして2人は一台の車に乗り込み、2ヶ月の旅に出ることになった。トニーには、黒人が宿泊できる宿が書かれたガイドブック、通称”グリーンブック”が渡される。
当時アメリカ南部には、黒人の行動を制限するジム・クロウ法と呼ばれる法律があった。黒人は、食事や宿泊、買い物をする場所、座ったり歩いたりする場所まで制限されていて、使用できる水飲み場やトイレも決められていた。さらに、南部のいくつかの町では、黒人が日没後に外出することさえ違法とされていた。
劇中では、ドクター・シャーリーが入店を断られたり、何も知らずに黒人お断りのバーに入ってしまい袋叩きに遭うといったトラブルが起こり、その度に腕自慢のトニーが解決していく。旅立つ前は自らも黒人への差別意識があったトニーも、次々と直面する理不尽な現実に「我慢ならない」といった様子を見せる。

トニーはドクター・シャーリーの天才的なピアノ演奏をひと目見るなり魅了され、妻への手紙に「あいつは天才だ」と書いてその才能を認めている。始めはウマが合わず沈黙ばかりだった車内だが、様々な出来事で互いを認め合うようになり、いつしか笑いの耐えない旅になっていく。
果たして、なぜドクター・シャーリーは危険な南部へ向かうのか。そしてトニーは、家族が待つニューヨークの家にクリスマス・イブまでに帰ることができるのか。2人の友情と勇気、美しくもエネルギッシュなピアノの演奏が起こした爽やかな感動とは。

『グリーンブック』の背景
実話作品とあって、トニー・リップとドクター・シャーリーは実在した人物。イタリア系アメリカ人のトニー・リップ(本名:フランク・アントニー・バレロンガ)は俳優としても活躍しており、デビュー作は『ゴッドファーザー』(1972)。HBOの人気シリーズ「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」(2001-2007)にも登場した。7年生(日本の中学1年生)までしか学校に通わなかったが、その話術とカリスマ性でフランク・シナトラなどの著名人や有名マフィアとも友達になった。