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マーベル世界に入ってしまったニートでオタクな『グウェンプール:こっちの世界にオジャマしま~す』は何故コミックデビューを果たしたか?【邦訳アメコミ推薦図書】

今回ご紹介するのは、ヴィレッジブックスさんの「新世代マーベルヒロイン3ヵ月連続刊行」企画の2作目にして、このシリーズの大本命、『グウェンプール:こっちの世界にオジャマしま~す』です。前回ご紹介した新Ms.マーベルことカマラ・カーンの物語(『Msマーベル:もうフツーじゃないの』)が、アメリカにおけるムスリムを扱った社会性の高い作品であったのとは打って変わって、こちらは難しいことはなんにもない(失礼)、メインアーティストを務める日本人ユニット・グリヒルさんの画風そのまま、ポップさとキュートさを凝縮したような「かわいい」エンターテインメント作品です。

このグウェンプール、アメコミファン以外には耳慣れないキャラかもしれませんが、それもそのはず2015年に産声をあげたばかりのキャラクターでして、その出自も一風変わっています。ちょっと順を追って説明させていただきます。

SNSで人気に火がつき正式キャラクターに

ことのはじまりは2014年、マーベル並行世界のスパイダーマンを集結させたクロスオーバー『スパイダーバース』に、スパイダーグウェンというヒロインが初登場します。このスパイダーグウェンは「もしグウェン・ステイシーが死亡せず、ピーター・パーカーの代わりにスパイダーマンになっていたら」という設定で登場した並行世界のキャラクターですが、このイベントで大人気を博しスパイダーグウェン単独シリーズのスタートが決定します。それを記念して2015年6月発行のマーベルコミック連載各誌に、グウェンが各タイトルの主人公に扮した姿を描いたバリアント・カバーが発売されたのですが、その中の1つ、クリス・バチャロ氏が手がけたデッドプールのミニシリーズ用のバリアント・カバー、そこに描かれた白とピンクのデッドプール風コスチュームに身を包み、プールに浮かべたエアソファでくつろぐグウェンの姿が、アメリカのコスプレイヤー達の目に留まり、彼女を模したコスプレが流行してしまうわけです。インスタやTwitterに、マーベル有名キャラのコスプレ写真に混じって次々と投下されるバリアント・カバー由来のコスプレ。このブームを全く予期していなかったマーベル編集部でしたが、2015年11月、ファンの声に応える形で正式に新キャラクター「グウェンプール」として発表します。バリアント・カバーが発売されてからたった5か月。ソーシャルメディアによって企業と、ファンとの垣根が著しく低くなった現代を象徴するようなキャラクターであるわけです。

グウェンプールはマーベル世界における「ふしぎの国のアリス」

さてこのグウェンプール、ご紹介してきたように驚くべきスピードでデビューしたシンデレラガールですが、変わっているのは出自だけではありません。マーベルコミックのヒロインですから、それなりのスーパーパワーを持っているはずとお思いでしょう?ヴィレッジブックス刊の邦訳コミックスに付属するリーフレットに彼女の能力が面白くまとめてありましたので、抜粋してご紹介します。

グウェンプールのパワーその1「オタ知識」
パワーその2「向こう見ず」
パワーその3「第四の壁」

以上です。「向こう見ず」って能力の種類でしたっけ?リーフレットには彼女のオリジンストーリーも記載されています。「元の世界では平凡なニートだったが、何らかの理由でマーベルユニバースに入り込んできた」…いまだかつてこんなに短くて適当なバックストーリーは聞いたことがありません(笑)

かろうじて「第四の壁」というところはネタ元のデッドプールを彷彿とさせますが、あちらはコミックのキャラクターとして読者に語り掛けてくるのに対して、グウェンプールはただのコミックファンがコミックの世界に入ってしまったという設定です。お話のつくりはヒーロー、ヴィランが跋扈するコミック世界に一人、素人さんが紛れ込んでしまったという構図で、マーベル世界における「不思議の国のアリス」と言えばわかりやすいかも。

ただ、こちらのアリスは本家とは大違い。「どうせコミックの世界だから好き勝手してもいい」というモラルハザードを起こしてしまっており、気軽に銃は打つし、気軽に盗みます。非常に迷惑な存在であるわけですが、如何せん好き勝手したくても能力はニート(それにしては少し強い)なのであんまり上手くいかないのと、何はともあれカワイイので憎めないのと、で、彼女の我田引水、七転八倒ぶりが物語の面白みになっています。前述したようにオンゴーイングシリーズのメインアートを手掛けるグリヒルさん(二人のユニットなので敬称が難しいです)の可愛らしい絵柄とあいまって、今までのヒーローコミックにはない魅力をもつ作品になっています。

筆者の個人的なお気に入りポイントは、以前、拙稿【映画に登場するマニアックな格闘技:サバット編】でチラッとご紹介したキャプテンアメリカのヴィラン、バトロック・ザ・リーパーが主人公のチームメイトとして割とがっつり登場するところです。マーベルのキャラクターとして、グウェンプールの戦闘能力の低さを見かねたバトロック(※彼は仏式キックボクシング:サバットの達人)が先生役を買って出て、グウェンプールに稽古をつけるんです。バトロック史上、稀にみるいい役どころで、雑魚キャラあつかいがすっかり板についていた彼のファンとしては、そういったところでも美味しい作品でした。

ヴィレッジブックス刊『グウェンプール:こっちの世界にオジャマしま~す』は、2017年10月27日発売です。

ライター:クリス・ヘイスティング
アーティスト:グリヒル ほか
発売日:20171027日(金)頃
予価:本体2,400円+税
予定ページ数:152ページ/判型:B5
ISBN978-4-86491-352-2
発行・発売:ヴィレッジブックス

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。

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