『スパイダーマン:ホームカミング』をピーターの”二人の父”から考える ─ 分断されたトニーとトゥームスをつなぐもの

マーベル・スタジオの最新作『スパイダーマン;ホームカミング』が2017年8月11日に日本で公開されました。公開第1週目で興行収入はランキング1位。関ジャニ∞とコラボして渋谷をジャックしたプロモーションが話題になったほか、ファンからの支持も厚く、大きな盛り上がりを見せています。
さて、本作は3度目のリブートにしてついにマーベル・シネマティック・ユニバースと合流、アベンジャースとの共演が実現しました。スパイダーマンの映画としても6作品目です。これまでのサム・ライミ版やマーク・ウェブ版とは異なるアプローチで「らしさ」はそのままに、全く新しい面白さを追求した、大変見ごたえのある作品になっています。ORIVERcinemaでも様々な目線から本作の面白さを考察しています。今回の記事では、ピーターの二人の”父”、すなわちトニー・スタークとトゥームス(ヴァルチャー)から、スパイダーマンがマーベル・シネマティック・ユニバースに合流する意味と、今後彼に期待される役割を考察してみましょう。
世界を混乱に陥れたヒーローたち
『スパイダーマン:ホームカミング』は2008年公開の『アイアンマン』から数えてマーベル・シネマティック・ユニバース16作品目になります。『アベンジャーズ』(2012)で描かれたニューヨーク決戦で世界は永遠に変わってしまいました。この件をキッカケに、ヒーローは異世界の脅威に対抗できる唯一のパワーとして期待される一方、制御しきれない危険な存在として警戒され始めます。この矛盾が一気に噴出したのが、トニー・スタークの失敗によって引き起こされたソコヴィア事件〈『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)〉です。アベンジャーズは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)での内部分裂を経て、ソコヴィア協定により国連のコントロール下に置かれることになりました。もはや、彼らは平和を守るヒーローなどではなく、世界を混乱に陥れる厄介者なのです。『スパイダーマン:ホームカミング』がニューヨーク決戦直後の回想シーンで始まり、8年後の現在(あくまで本編通り)まで続く余波を描くのは、その間に起こったアベンジャースを取り巻く環境の変化をわかりやすく示しています。
ピーターの二人の”父”
ヒーローたちが困難な状況に置かれる中、クイーンズに住むピーター・パーカーはスパイダーマンとしてローカルに活動しています。彼はまだ15歳の高校生です。メイおばさんと一緒に暮らす普通の子どもですが、自らの力をつかって何か大きなことを成し遂げたいと考えています。彼は”ヒーローとしての自分”と”高校生としての自分”のギャップに挟まれているのです。そんな彼にとって『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でアベンジャーズのメンバーとして戦ったことはチャンスでした。最新式のスーツを身にまとい、キャプテン・アメリカと互角に(と本人は思い込んでいる)戦ったことは彼にとって大きな自信になったことでしょう。このままアベンジャーズの一員として世界を救おうと張り切るピーターですが、そう簡単に事は運びません。二人の”父”が彼の前に立ちはだかります。トニー・スタークとトゥームスです。
未熟な父親としてのトニー・スターク
まず、ピーターにとってトニーとはどういう人物なのでしょうか。先ほどヒーローは厄介者扱いされるようになったと書きましたが、ピーターにとってアベンジャーズは学校で冴えない自分を救ってくれる憧れの対象です。正体を隠し、マスクを被ってヒーロー活動をする彼は、同級生の女の子が話題にするぐらい有名でクールな存在に自分もなれたらと、夢をみています。そんなピーターがトニー・スタークから直接スーツをもらった時の感動と興奮は、容易に想像できますよね。彼にとってトニーは”目標”であり、もっと自分が輝ける場所、あるべき姿へと導いてくれる存在です。トニーは”ヒーローとしてのピーター”にとって偉大な”父”なのです。リムジンの中でスーツをもらいはしゃぐ姿は、欲しかったオモチャを買い与えられた少年そのものです。
しかし、トニーはピーターの前に立ちはだかり、試練も与えます。トニーからすれば、ピーターはまだまだ未熟な子どもです。そのまっすぐな気持ちや身体的な能力に可能性を見出しながらも、危険な戦いに未来ある少年を巻き込むことはできないと考えています。そういった愛情と親心ゆえに彼はピーターを遠ざけるわけですが、不器用な伝え方も災いして、ピーターには全く伝わりません。むしろピーターは認めて欲しいがために自分の限界を見誤って大きな失敗を犯してしまいます。ピーターとトニーの擬似的な親子関係は、お互い気持ちの行き先が一方通行で、常にすれ違いを起こしています。ピーターは自分の気持ちに経験や能力が追いついていないし、トニーもまた彼の熱意をうまく受け止めきれていません。ピーターはヒーローとして未熟ですが、トニーは父親として未熟なのです。ピーターは本当のヒーローになるため、トニーに認められ、独り立ちするという大きな壁を乗り越えなければならないのです。