【日本最速レビュー】『スパイダーマン:ホームカミング』ヒーロー映画のフォーマットを逆走する青春傑作

おかえり、スパイダーマン!ようこそマーベル・シネマティック・ユニバースへ!
映画『スパイダーマン:ホームカミング』が、2017年8月11日にいよいよ日本公開となる。
この度、都内で開催された完成披露試写会にて本作をいち早く鑑賞。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)本格参戦後初のスパイダーマン単独映画となる『ホームカミング』の魅力を、ネタバレなしで解説したい。

スーパーヒーロー映画序章のフォーマット
これまでに何度も映画化されているスパイダーマンを、再度新シリーズとして放つにあたって、語り尽くされたそのオリジンを改めてどう描くかは重要なポイントになる。今作『スパイダーマン:ホームカミング』におけるピーター・パーカー / スパイダーマンは、スーパーヒーロー映画の序章におけるフォーマットを大胆にも逆走しているのだ。
このフォーマットとは、[1]能力への目覚め、[2]葛藤、[3]受容、そして[4]活躍の4ステップで表すことができる。サム・ライミ版『スパイダーマン』(2002)もマーク・ウェブ版『アメイジング・スパイダーマン』(2012)年も、蜘蛛に噛まれ([1]能力への目覚め)、叔父を失い([2]葛藤)、運命を受け入れ([3]受容)、そして[4]活躍のフェーズでヴィランと格闘するという流れを共通して描いている。
ところが『ホームカミング』のスパイダーマンは、既に『シビル・ウォー:キャプテン・アメリカ』(2016)にてコスチューム姿でデビュー済み。ジョン・ワッツ監督が「15歳の少年がスーパーヒーローになる理由を、物語で説明する必要がなかった」と語るように、今作のピーターは、このステップのうちいきなり[4]活躍を求めて奮闘するところからスタートするのだ。
15歳の小さな世界と、大人たちの戦い
『スパイダーマン:ホームカミング』は、この”フォーマットの逆走”を、良い意味で狭い世界で描いている点が巧み。しかしながら、ヒーロー作品のクラシックなお作法もなぞっている。それは、「ヒーローであることを周囲に隠し通す」初々しいフェーズだ。
予告編でも明かされているように、ピーターがスパイダーマンであることは親友ネッドにはバレてしまうのだが、2人は、このクールすぎる秘密を同級生にバラしていはいけないと必死。こうした流れは様々なヒーロー作品で何度も見たはずだが、トム・ホランドの弾けるような若さ溢れるフレッシュな演技が既視感を吹き飛ばしている。ホランド演じるピーターは、本当に声変わりしたのかわからないような高い声もあどけなく、とにかくやんちゃ。トビー・マグワイアの地味だけど優しい”のび太くん”的ピーターとも、またアンドリュー・ガーフィールドのシュッとしているけどどこか影があるようなピーターとも似ていない。何も無い所でいきなり走り出して、そして何も無い所で転んでそうな、若さと衝動の塊のような15歳をはつらつと演じている。
高校生ピーターの世界は小さい。大きすぎる存在である世界のアベンジャーズと一度肩を並べたからといって、自分は特別で無敵であるように勘違いしてしまっている。しかし彼は、『シビル・ウォー』空港でのアベンジャーズは、実は本気で殺し合いをしていたわけではないということに気づいていないのだ。キャプテン・アメリカは手加減してくれていただけなのに、「僕はキャプテンと互角に戦ったんだ!」と思い込んでいる。彼は訓練や実戦の経験をほとんど持たないし、思えば衝撃から身を守るアーマーやシールドがあるわけでもない。ヴィランのバルチャーが本気で殺しにかかってきたとき、ピーターは初めて己の無力さや無防備さ、そして大人の怖さを思い知るのである。
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