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リドリー・スコット、学生時代を語る ─ 「補助金で暮らしている貧乏学生だった」【インタビュー】

『ハウス・オブ・グッチ』リドリー・スコット監督
ⓒ 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

でも、例えばジャレッド・レト演じるパオロ・グッチは私らの知る範囲で実際の服装をコピーしました。彼は実際にああいう格好をしていたし、ああいう服を身に着けていたんです。パオロが話しているところはあまり記録として残っていないが、多分心優しい、人の好い人物だったのではないかと思うんです。実際よりも自分に才能があると信じていた彼は、グッチという会社における時限爆弾でした。パオロは自分の服飾ラインにグッチの名前を使おうと望んでいたが、グッチはそれを望んでいなかったからね。それが大きなハードルのひとつになった。

そしてもちろん、マウリツィオの妻として進化したパトリツィア・グッチが、自分にも家業に口出しをする権利があると感じ始めた時に……その権利は彼女にはなかったから、そういう行動を取ったことで、マウリツィオを遠ざけてしまい、そこでジグソーパズルにひびが入り、壊れていったんです。とても興味深く、複雑なストーリーです。まるで組み立てたレゴが崩れていくような感じ。

『ハウス・オブ・グッチ』リドリー・スコット監督
ⓒ 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

──『ゲティ家の身代金』も実在の事件を元にした映画でした。そういう題材を扱いながらも、エンタメ性のある、興行成績的にも成功するような作品にするためにどんなことに留意されましたか? 

フィルムメーカーとして行き過ぎの暴力表現には気をつけなければいけないと思っています。特に伝記ものを作っている時は、敬意の念を持つ努力が必要だし、無分別な暴力表現には気をつけなければいけない。とは言え、夫を殺害し、父親は脱税で服役しているとなれば、権利なんてないんです。申し訳ないですけど。そこまで行ったら、もうパブリック・ドメイン(公有財産)の範囲。そこまでだよね。

グッチ家の人々が文句を言っていることは、このストーリーと何ら関係はない。彼ら自身もグッチ帝国と何の関わり合いもない。それはとっくに彼らの手を離れていたのだから。グッチが買収され、トム・フォードが雇われた時にね。そうでしょう?グッチのビジネスに関わっているグッチ家の人間はもういないんです。

──あなたは“世界”を構築する第一人者です。70年代のイタリアやニューヨークを再現する上でもっとも留意した点は?そこに、あなたが実際に70年代に感じていた要素や記憶は含まれていますか? 含まれているのなら、どこか教えてください。

イタリア映画やフランス映画に何が起こったんだろうね?(あの頃の作品はどれも素晴らしかったのに。)いや、本当に。

当時はフランス映画やイタリア映画を観るためにナショナル・フィルム・シアターやロンドンのアートハウス系の映画館に通っていましたよ。特にフェリーニやアントニオーニらのイタリア映画は傑出した芸術作品だった。映画はアートだったんです。日本映画もまたアートだった。黒澤からはたくさんのことを学びましたよ。そう、60年代、私は学生だった。映画学校には行ったことがない。グラフィック・デザインを学んでいて、腕のいいグラフィック・デザイナーでした。そこから映画を、と思ったが、当時は道がなかったので、弟のトニー・スコットと自腹で100ドル出して…100ミリオン・ドルじゃないよ(笑)、小さな映画を作った。その作品は今でもブリティッシュ・フィルム・インスティテュートで観られます。『Boy and Bicycle』というタイトルで、不思議なことに(映画として)ちゃんと成立しており、これをきっかけに映画を作りたいと思うようになった。そこから始まったんです。

──70年代に感じた空気感みたいなものは反映されているのでしょうか?

みんな、スウィンギング60sとかスウィンギング・ロンドンとか言うけど、私は学生でお金がなかったから、全然スウィンギングしていなかった(笑)。お金がなかったから全然遊べなかったんです。だから覚えているのは、大学に残れるようにずっと勉強/仕事をしていたことだけ。それはいいんです。多くの学生が同じような経験をするし。

でも文字通りいつも勉強と仕事をしていたから、ロイヤル・カレッジ(オブ・アート)から高く評価されて、奨学金を得てそのプログラムの一環としてアメリカに1年行き、レキシントン・アベニューで広告業界に触れ、色々と新しいものを発見した。でも私はまだ補助金で暮らしている貧乏学生だったから、とても豊作だった偉大なファッション・フォトグラファーたちをフェンス越しに見ているような感じでした。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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