リドリー・スコット、学生時代を語る ─ 「補助金で暮らしている貧乏学生だった」【インタビュー】

当時はファッション・フォトグラファーになりたかった。それに惹かれたんです。スチールは結構上手だったから、スチール写真に興味があった。人生って本当にちょっとしたことで変わるところが面白いけど、NYに行った時に、バート・スターンという人物に電話をかけた。彼は60年代、70年代、そして80年代にも活躍したファッション・フォトグラファーで、もしかしたらまだ存命なんじゃないかな?マリリン・モンローがネガに×印をつけた一連の有名な写真を撮った写真家で、そのことには怒っていたけど、そんな彼と一緒に座って、モンローが前日に印をつけたネガを見せてもらったのを覚えています。今となっては印入りのネガの方が価値があるのかもしれないね。それはともかく、私は当時、彼がやっているような仕事がしたかったんです。それほど惹かれるものを感じた。そうやって、私もまた、スウィンギン60sと70sと言われる時代を少しは目にしたんです。
──その感覚や経験を反映させることは重要でしたか?
うん。彼はすばらしい写真家でしたからね。他にも時代的にはウィリアム・クラインもいた。彼は東京、NY、ローマをテーマにしたすばらしい写真集を出しているけど、今回はクラインをベースにしているところがかなりある。ストリートにファッションを持ち込んだのはクラインだと思いますしね。
──あなたは『エイリアン』のリプリーのときから強い女性を描いてきました。あなたが考える強い女性の条件とは何でしょうか?その条件に今回のパトリツィアは当てはまりますか?
デミ・ムーアを忘れてはいけないよ。『G.I.ジェーン』(1998)は忘れられがちだけど、私が手がけた女性の物語の中でも、デミが一番強いと思っています。まず、女性がネイビー・シールズになろうとするあの世界観。ネイビー・シールズとは、マッチョな男性性の象徴のような場所だけど、彼女はその特殊部隊に貢献する資質を持っており、その一員になりたいと思っている。その上、あの映画の悪役も女性上院議員を演じるアン・バンククロフトだ。バンクロフトは通常ではなかなか女性が入れない軍の分野に女性が投入されることを支持しているように見られたくて、策を打つ。デミが失敗することを目論んでね。もちろんデミは失敗はしないわけですけど。『G.I.ジェーン』はいつも忘れられがちだけど、デミは素晴らしかった。もちろん『テルマ&ルイーズ』や『エイリアン』もそうだけど、私が手掛ける作品にはどれもとても強い女性が出てくる傾向があるんです。
──その女性キャラクターたちの何をもって彼女たちは強いのだと感じますか?また、パトリツィアもその1人だと思いますか?
私に言わせれば、男性と女性とで差はない。私はそうやって育てられたんです。母親は5フィート2インチ(158cm)の強い女性で、3人の男の子を育てた。その一人が『トップ・ガン』や『ビバリーヒルズ・コップ2』を監督したトニー・スコットで、兄も27歳で自分の船を持ち、上海からオーストラリアまで南シナ海を航海していた。母はとてもいい仕事をしましたよ。
──パトリツィアは強い女性として見ていましたか?
とてもとても強いと思います。少しだけでもやり方が違ったら、グッチ帝国のビジネス面の一部になれたかもしれないぐらいね。でも超えてはいけない一線を何度も超えてしまったし、はっきり言うと、無神経だった。彼女がもう少し繊細な人間だったら、いまグッチ帝国を仕切っていたかもしれない。まだ、70代、74とか75歳ぐらいだしね。面白いよね。彼女があんなことをしなければ、間違った形で一線を越えていなければ、グッチ帝国を牛耳っていたかもしれないんですからね。
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