『Imaginary』子どもの想像力が持つパワーと闇を映すクマのぬいぐるみ恐怖映画【先取りレビュー】

(カナダ・トロントから現地レポート)『M3GAN/ミーガン』(2023)や『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(2024)など、これまで数々の話題ホラー作を生み出してきたブラムハウスの最新作『Imaginary(原題)』が、北米で3月8日に公開となった。本作は、イマジナリーフレンド(空想上の友だち)が題材になっている。
イマジナリーフレンドとは、子どもが孤独や不安を払拭するために生み出す想像上の存在のこと。幼少期によく見られる心理現象の一つとされている。通常、子どもの成長の過程でプラスの影響を与える存在であり、大人になるにつれて自然消滅する。自分に都合のいいアドバイスをしてくれたり、一緒に遊んでくれたりする“友だち”だが、一方で子どもが不安やストレスを抱えている場合は、攻撃性を持つことも。イマジナリーフレンドの支配下に置かれ、自分自身や家族を傷つけてしまう子どももいるようだ。
そんなイマジナリーフレンドは、人形やぬいぐるみを通して具象化されることがある。本作では「可愛らしいクマのぬいぐるみ」がその象徴となっている。

『M3GAN/ミーガン』ではAI人形、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』ではピザ屋のマスコットで「可愛さと不気味さは紙一重だ」ということを描いたブラムハウス。新作『Imaginary』は、人形そのものに焦点を当てるのではなく、クマぬいぐるみを通して描かれる子どものイマジネーションの脅威に焦点を当てている。イマジナリーフレンドを持っていたという記憶がない人でも、恐怖を体感できる作品に仕上がっている。ちなみに、PG-13指定作品のため、ゴア描写はほぼなし。メガホンをとったのは、『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』や『ファンタジー・アイランド』のジェフ・ワドロウ監督だ。

物語は、絵本作家のジェシカが恐ろしい悪夢にうなされた後、夫、継娘のテイラー、アリスとともに、かつて父が住んでいた一軒家に引っ越すところから始まる。そこで、幼いアリスが地下室で古いクマのぬいぐるみを発見。アリスはChauncey(チャウンシー)と名付け、それが彼女のイマジナリーフレンドとなる。アリスがクマのぬいぐるみと一緒にティーパーティをしたり、ゲームをしたりと、とんでもなく微笑ましいシーンが映し出されていくが、Chaunceyの要求は徐々に度を越し、ゲーム中にアリスを傷つける指示を出すようになる。
幼少期というのは、想像力がかなり豊かである。本作はそんな子どもの想像力のダークサイドを探っていくから面白い。例えば、姉テイラーが男友達を家に呼ぶシーン。アリスはChaunceyとの借り物競走で虫を瓶に詰め込んでいたことから「変なガキ」扱いをされてしまう。そこで腹が立ったアリスは、Chaunceyとともに彼に“仕返し”をするのだ。

また、セラピストとアリスが対話するシーンも印象的。アリスは自分とChaunceyの二役を演じ始める。一見、少女がクマの声を代弁しているなんとも可愛らしいシーンとなっている。しかし、Chaunceyの発言が徐々に度を越し、明らかにアリス自身にストレスがかかっていく。このシーンでは、Chaunceyの脅威を知ったセラピストの焦りや困惑が伝わり、観客の不安を煽ってくる。少女の可愛らしい声を通してChaunceyの攻撃性が描かれ、アリス役のパイパー・ブラウンの演技に圧倒される。
そのほか、ジェシカ自身も長い間忘れていた幼少期の暗い過去を振り返らなければならない。もちろんそこには、彼女のイマジナリーフレンドもいるのだ。さまざまなイマジナリーフレンドがクリーチャーとして具象化され、彼らの恐ろしさを素晴らしいタイミングのジャンプスケア・シーンとともに体感できる。ブラムハウス作品の醍醐味でもある終盤の二転三転するストーリーも見どころだ。

ちなみに『Imaginary』は、Rotten Tomatoesの批評家による評価では32%とやや厳しい結果となっている(現地時間3月11日時点)。一方で、興行収入的には順調のよう。米Deadlineの報道によると、本作の制作費は推定1,000万ドル。オープニング週末の米国内興入は930万ドル相当になるとのこと。すでにほとんど元をとった状態である(編注:15日までの世界興収はおよそ1,790万ドル)。ちなみに本作と同日公開されたのは、大ヒットアニメーション最新作『カンフー・パンダ4(原題)』と『デューン 砂の惑星 PART2』だった。他の大作との競争の中、オープニング週末でチャート初登場3位を記録するということは、本作には人を惹きつけるパワーがたっぷりあるということを証明している。
大人になるにつれ自然と忘れてしまう存在、イマジナリーフレンド。そんな彼らと“間違った関係の断ち方”をしてしまった人を描く本作は、子どもの頃の想像力の複雑さと、それが人生に与える影響について考えさせられる。『Imaginary(原題)』の日本の公開日は未定。
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