映画『デューン 砂の惑星 PART2』が、2024年3月15日（金）より遂に日本に上陸する。「21世紀最大級のSF超大作」と言っても過言ではない『デューン』が、さらにパワーアップして帰還。天然資源が眠る砂漠の惑星アラキス（通称デューン）を舞台に、宇宙の命運をかけた覇権争いのクライマックスが描かれる。

原作は、1960年代に出版されたフランク・ハーバートによる同名小説。宇宙規模の世界観や緻密で独創的な生物学的描写は、『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』をはじめ多くの作品に影響を与え、なおもSF小説の金字塔として君臨する。

それまで映像化不可能とも言われてきたこのSF叙事詩は2021年、『メッセージ』（2016）や『ブレードランナー2049』（2017）のドゥニ・ヴィルヌーヴによって『DUNE/デューン 砂の惑星』として映画化され、映像体験の限界を押し広げた。待望の続編では、ティモシー・シャラメやゼンデイヤをはじめとする前作のキャストに加え、フローレンス・ピューやオースティン・バトラーといった若手スターも参戦し、物語は最高潮を迎える。

『デューン 砂の惑星 PART2』は続編という位置付けにありながら、独立した作品としても圧倒的な輝きを放った1作である。ちょっと難しそうだ、という理由で前作を観ていない方がいるのであれば、安心してほしい。本記事は、前作の振り返りとともに『デューン』を易しく紐解き、『デューン 砂の惑星 PART2』という千載一遇の旅に備えていただくためにある。

5分で追いつく『デューン』

壮大な世界観のSF作品であるゆえか、『デューン』には難解なイメージが持たれているようだが、実はそんなこともない。平たく言うと、ライバルの一族に家族を皆殺しにされた名家の一人息子が新しい仲間の力を借りながら決戦に乗り出していく、という成長物語。以下では、もう少し詳細なあらすじを紹介するが、これだけ頭に入れておけば『PART2』のスタートラインに立ったようなものだ。

1万191年。水の惑星カラダンを治めていた善良なアトレイデス家のレト公爵はある日、宇宙皇帝の命令により、宇宙全体で最重要視される航行手段に欠かせない天然資源のスパイスが産出される唯一の惑星、アラキス（通称“デューン”）の統治を任せられる。スパイスに長年晒されると目が青くなり、選ばれし者であれば意識が拡張して未来や過去を見通せるようにもなる貴重な香料。80年もの間、非道なハルコンネン家によって独占されていた。

アトレイデス家の一人息子、本作の主人公であるポール・アトレイデス（ティモシー・シャラメ）は、将来の当主として一族から大切に育てられ、ティーンエージャーならではのあどけなさを見せながらも着実に大人への階段を一歩ずつ歩んでいた。

アラキス着任後、アトレイデス家はスパイスの採取を軌道に乗せるべく、過酷な砂漠で暮らす先住民族“フレメン”との関係を築こうとする。そんなフレメンたちは、自分たちをいつか楽園へと導いてくれる“救世主”が現れるという預言を信じていた。その救世主こそ、アトレイデス家の後継者、ポール・アトレイデスなのではと期待するのだった。そんな中、ハルコンネン家によるクーデターが発生。一晩にしてアトレイデス家は壊滅させられてしまった。

数少ない生存者であるポールと母のレディ・ジェシカ（レベッカ・ファーガソン）は砂漠に身を隠し、フレメンの長であるスティルガー（ハビエル・バルデム）の庇護を受ける。ポールはハルコンネン家への復讐を決意し、掟を重んじるフレメンの民からは疑いの目を向けられながらも新たな生活に順応していかなければいけなくなる。

『PART2』では、ポールが砂漠での原始的な生活を通してフレメンからの信頼を勝ち取り、救世主として覚醒し、復讐を果たすまでの最終決戦が描かれる。一方、アラキスの統治権を奪還し、スパイスの採取に本腰を入れるハルコンネン家では亀裂が生じて始めており、それは一族最強にして最も残虐な戦士、フェイド＝ラウサ（オースティン・バトラー）の登場によってさらに深まっていくことに……。

『PART2』鍵を握る4人

本作では個性的なキャラクターが大勢いるが、特にあらかじめ知っておくべき4人のキャラクターをご紹介。いずれも、劇中に登場する主要4勢力を代表する存在だ。

ポール・アトレイデス（演：ティモシー・シャラメ）

アトレイデス家の後継者であるポールは母親以外の家族を失い、砂漠の民フレメンとの生活に溶け込むようになる。救世主として期待される状況に苦悶しながらも、フレメンたちからの信頼を勝ち取るために砂漠での任務に果敢に挑んでいく。

演じるのはハリウッドの次世代を担う若手俳優、ティモシー・シャラメ。『君の名前で僕を呼んで』（2017）でのブレイク以来、『ビューティフル・ボーイ』（2018）『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』（2019）『ボーンズ アンド オール』（2022）などに出演した。2023年には『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で来日を果たした。

チャニ（演：ゼンデイヤ）

砂漠の民の若き戦士チャニは、最初こそポールを疑いの目で見ていたが、ともに困難を切り抜けるうちに好意を持つようになる。フレメンとポール、大切な二つの存在に挟まれることになったチャニは自分の心を信じて前へ進んでいくが、思わぬ壁が立ちはだかる。

演じるのは『スパイダーマン』シリーズのMJ役で知られるゼンデイヤ。ほか、代表作には『グレイテスト・ショーマン』（2017）や「ユーフォリア/EUPHORIA」（2019-）がある。モデルとしても活動しており、ファッションアイコンとしてZ世代から絶大な人気を誇る。

フェイド＝ラウサ（演：オースティン・バトラー）

ハルコンネン家の跡取りとして、現統領のハルコンネン男爵から最も期待される戦士のフェイド＝ラウサは、身内から圧倒的な支持を得るが、宇宙全体ではサイコパスな男として悪名高い。兄・ラッバーン（デイヴ・バウスティスタ）が立て続けに任務を失敗すると、男爵はフェイドを後継者に指名。次期男爵として君臨し、ポールの命を狙う。この時はまだ向かう所敵なしの自分にとって最大の脅威が近づきつつあることを知らなかった……。

演じるのは、『エルヴィス』（2022）でエルヴィス・プレスリーを熱演したオースティン・バトラー。「マンハッタンに恋をして 〜キャリーの日記〜」（2013-2014）で注目され、『デッド・ドント・ダイ』（2019）や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』（2019）といった映画で俳優としてのキャリアを積んだ。『エルヴィス』以降も引っ張りだこで、『デューン 砂の惑星 PART2』のほかに、スティーブン・スピルバーグ＆トム・ハンクスが製作を務める戦争ドラマ「マスターズ・オブ・ザ・エアー」（2024-）にも出演している。

皇女イルーラン（演：フローレンス・ピュー）

イルーランは、ハルコンネン家と裏で結託していた宇宙皇帝シャダム4世（クリストファー・ウォーケン）の娘。アラキスからは遠く離れた別の惑星で、独自の目的を持つ女性だけの秘密組織「ベネ・ゲセリット」で学びながら、砂の惑星で起ころうとしている波乱の行方を見守っている。フェイド同様に『PART2』からの登場となる。

演じるのは、上3人と並んでハリウッドで大活躍のフローレンス・ピュー。『ミッドサマー』（2019）で注目されるや、『ブラック・ウィドウ』（2021）や『ドント・ウォーリー・ダーリン』（2022）、『聖なる証』（2022）などの話題作に出演。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』ではシャラメと共演済みだ。次回作は、マーベル映画『サンダーボルツ（原題）』。

世界が熱狂、『PART2』の見どころ

『デューン 砂の惑星 PART2』の日本公開に先がけ、本国アメリカでは3月1日より封切りを迎えた。主要市場ではプレミアイベントも開催され、ティモシー・シャラメやゼンデイヤらメインキャストは各国のファンを熱狂させている。

批評家たちによるレビューは絶賛の嵐。辛口批評サイトRotten Tomatoesではなんと批評家スコア94％（本記事掲載時点）という驚異の記録を叩き出した。英Empireは「真の信者を楽園へと連れていってくれる究極のSF叙事詩」と評し、ファン納得の仕上がりとなっていることを予告。米New York Postは、早くも成功を確信したかのように「大ヒット作の飢饉は解消された」とまで断言している。

原作者の息子であるブライアン・ハーバートも感激のコメント。製作総指揮としても名を連ねるブライアンは「とても大事に描かれた父親の物語を観ることができて満足です」と綴り、「『Part1』と合わせたら、フランク・ハーバートの『デューン』史上最高の映像化作品です」と大満足の賛辞を送った。

ネットも大盛り上がりだ。ロンドンのワールドプレミアで本編を鑑賞した海外のジャーナリストがSNSで感想を投稿すると、「傑作」との声が続出。そのクオリティを不朽の名作ファンタジー『ロード・オブ・ザ・リング』と比較する声も見られ、同シリーズ以来の「画期的な原典の決定版」だと英Total Filmのジョーダン・ファーリーは評した。

筆者も本作を「傑作」だと考えるひとりだ。ヴィルヌーヴ監督は、“映画の力”の源が「純然たる映像と音（pure image and sound）」だと語ったが、まさに有言実行、本作は全身全霊ビジュアルとサウンドで語りかけてくる。その技巧は、まるでドキュメンタリーを観ているかのようなフレメンたちの砂漠生活を捉えたシーンや、モノクロ演出を用いたフェイド＝ラウサの本格登場シーン、轟音をとどろかせるサンドワームの大移動シーンなど、劇中の至るところで感じることができる。

本作は全編がIMAXカメラで撮影されており、圧巻の映像体験が最初から最後まで享受できる。前作でのIMAXカメラの使用率は約40%だったから、本作は大幅にパワーアップしていると言えるだろう。

大スクリーンいっぱいに押し広がる、研磨されたアクションシーンにも前のめりに期待してほしい。前作で砂漠に潜む巨大砂虫サンドワームは顔を覗かせるのみにとどまったが、今回はついにその全貌がお披露目。劇中後半に登場する、『風の谷のナウシカ』の王蟲の大突進を彷彿とさせるサンドワームの大突撃の迫力たるや、そのままスクリーンを突き破ってきてしまうのではと身をよじってしまったほどだ。

ファンが待ち望んだ『デューン』屈指の名場面、ポールとフェイドによる決闘シーンも贅沢に再現された。ティモシー・シャラメとオースティン・バトラー、ハリウッドの若手二大スターが兵刃を交える姿にはまさに「競演」という言葉がぴったりだ。アクロバットも駆使した両者の激しいバトルは完全なる静寂の中で行われ、思わず息を殺してしまうほど。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によれば、シャラメとバトラーはZoomで行われた撮影前の本読みの時から役に憑依しており、2人の間には「火花」すら感じたという。劇中でもお互いへの殺気は凄まじく、一瞬たりとも目が離せない死闘を繰り広げている。

濃厚な人間ドラマを堪能することもできる。ヴィルヌーヴは『デューン』製作時にマーティン・スコセッシ監督作『最後の誘惑』（1988）に多大な影響を受けたというが、劇中のポールは、救世主として民を導いたあとに自身の運命を悟り葛藤するイエス・キリストの姿と大きく重なる。一方で、チャニに夢中な年頃のポールにとって救世主という使命はあまりにも残酷だ。ポールとチャニは初々しくも唇を重ねるが、やはり一筋縄ではいかず、重荷を背負ったポールは最後に究極の選択を迫られることになる。

ポールやチャニだけでなく、フェイドやイルーラン、レディ・ジェシカ、スティルガーと、各キャラクターに程よくスポットライトが当てられた本作では ── 意外と思われるかもしれないが ── デイヴ・バウティスタ扮するラッバーンにも期待してほしい。ハルコンネン家といえば謎多き一族で、登場するだけで緊迫した空気感を客席へ瞬時に与えるが、唯一ラッバーンだけは人間臭さが全開。これまでアクション俳優として活躍してきたバウティスタは、結局は愛が欲しかっただけなのかもしれないラッバーンの苦悶する姿を、振る舞いは大胆に、表情は繊細に演じ切っている。

そんな見どころてんこ盛りの『デューン 砂の惑星 PART2』の上映時間は2時間46分。少々長く感じられるかもしれないが、ここで一度思い返してほしいのが、3時間前後の長尺映画には、『ゴッドファーザー』シリーズや『タイタニック』（1997）『アバター』（2009）『アベンジャーズ／エンドゲーム』（2019）『RRR』（2022）……と、語り継がれる（もしくは語り継がれるであろう）傑作が多いということ。上述の『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズだって、各作品3時間というボリュームである。

こうした長尺作品では、ファンタジー、アクション、ロマンス、サスペンスといった様々なジャンルの要素がじっくり堪能できる。それは『デューン』も例外ではなく、中身がぎっしり詰まった極上のスペクタクル超大作に仕上がっている。一度砂の惑星に降り立ってしまえば、長いようであっという間だ。

『デューン 砂の惑星 PART2』は2024年3月15日（金）より日本公開（3月8日、9日、10日には3日間限定先行上映も実施）。

Source:Rotten Tomatoes,Empire,New York Post, Brian Herbert X,Deadline,Los Angeles Times Supported by ワーナー・ブラザース映画