『IT/イット THE END』監督が日本のファンに本気で語った「真面目な話」

“それ”ことペニーワイズの恐怖と、その恐怖に立ち向かうルーザーズクラブの戦いを描く『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』シリーズ完結作『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019年11月1日公開)を引っさげ、監督のアンディ・ムスキエティと、その姉であり本作プロデューサーのバルバラ・ムスキエティが来日。「公開直前ファンミーティングイベント」として、日本のファンの前に登場した。
5年がかりで完成させた渾身作の世界最後のプレミアの地とあって、バルバラは「今日が終わったら泣きそう」と感慨ぶかげ。会場には、ペニーワイズやジョージーの姿のファンが詰めかけ、「ペニーワイズやジョージーがいっぱいいる」と嬉しそうにあちこちを指差した。
DCコミック『フラッシュ』単独映画や、日本の漫画『進撃の巨人』ハリウッド実写版の監督を手掛けることも決定しているアンディ・ムスキエティは、これが初来日。残念ながら「風邪を引いてしまって、この24時間ホテルにこもりっきりで、まだ東京を見ていないんです」という。バルバラは、「でも空港からホテルまでの道のりに、24時間営業のカラオケがたくさんあったから行かなきゃ。弟はカラオケが大好きで、カラオケの用事となれば絶対に遅刻しないんです」と、滞在プランを語った。
このイベントでは、凄まじい恐怖が味わえる『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』を見事作り上げたアンディ・ムスキエティとバルバラ・ムスキエティに対し、司会から映画に関する質疑応答が行われ、続いて客席から挙手制の質疑応答が行われた。親切で真面目な2人は、思わず胸が熱くなるトークを繰り広げている。

司会者からの質疑応答
── 『IT/イット』2作で、ルーザーズクラブの成長を通じて描きたかったことは何ですか?
アンディ・ムスキエティ監督:1作目はエモーショナルにしたかったんです。子供時代のキャラクターにすることで、ルーザーズの感情の結びつきをすぐに描きたかったんですね。今作では27年後が舞台で、ルーザーズクラブが再び登場します。今では大人になっています。この感情のつながりがどんなものであったか、1作目がどんなだったかを、画を通じて分かりやすく描いています。
それからドラマティックな機能も。1作目は子供時代の友情の物語で、この2作目はトラウマの物語。あまりネタバレをするつもりはありませんが、27年が経ったルーザーズクラブはそれぞれ仕事で成功してプロフェッショナルの道を歩んでいるんですが、壊れた人々なのです。恐ろしいことがあった1989年の夏、まだ描かれていない出来事があったのです。なぜなら、彼らはその出来事を覚えていなかったからです。

── なぜ、今この時代にこの作品を撮ったのですか?この作品を通じて伝えたいことはなんですか?
アンディ:なぜ今、と聞かれると難しい質問ですね。色々な理由があって取り組んだと思います。スティーヴン・キングの原作小説は、もう何年も前に読みました。27年前だったかな?当時僕は14歳だったかな。読み切るのに3年かかったような。スティーヴン・キングの小説と共に育ったので、彼は僕のヒーローです。ストーリーテリングについては、彼から学びました。本を読むと、体の内側から感情が溢れ出てくるんです。
今作については、僕の考える映像化のアイデアをスタジオにピッチできる機会に恵まれました。原作を5日で読み直して。長い本なのですが、ピッチまで時間がなかったので5日で読み切りました。それで、ワーナー・ブラザースのオフィスに行きました。(バルバラ:「ドアを蹴り開けたのよね。」)ドアを蹴り開けた。そこにはテーブルがあって、スタジオの重役が16人くらいいました。
時間がなかったから、アイデアを紙ナプキンに書いてノートに挟んでいたんですが、ノートを開いたときにそれがバラバラっと床に落ちちゃって。拾い集める30秒間、気まずい沈黙が流れて。「やらかした」と思いました。1枚ずつ、1枚ずつ拾って、ようやくピッチ開始となりました。始まりは気まずかったんですけど、上手くヴィジョンを語ることができました。

で、「なぜ今?」ですよね。真面目な話をしますよ。僕たちは今、恐怖が道具として使われている時代に生きています。僕たちのリーダーは、僕たちの政府は、僕たちを分断している。互いの対立を煽っている。”それ”は、僕たちを分断しようとする、現実世界のモンスターの象徴です。だから、僕たちにも関係がある映画です。
『IT/イット』は、今を生きる僕たちにとって重要なテーマがあるんです。「クソ野郎を信じるな」というメッセージです。みんなで団結して、嘘や分断に立ち向かえと。「みんな違う人たちだ」とか言う奴らに立ち向かえと。恐怖に屈してはいけない。恐怖に立ち向かわなくてはならない。恐怖は、僕たちに悪いように利用されているからです。話しすぎてしまったかな。これくらいにしておきます。

会場内 ファンからの質疑応答
── ハロウィンが近づくにつれ、日本でもペニーワイズの姿をするファンが増えると思います。劇中のビル・スカルスガルドのように、よりペニーワイズらしさが出る動きのアドバイスをください。
バルバラ・ムスキエティ プロデューサー:ダンスでしょ(笑)。ダンス。踊ってみて!
(アンディ、準備運動の素振り。会場、拍手。)
アンディ:いや、やらないよ(笑)。ストレッチパンツ履いてるけど。
1作目のダンスのシーンは、2回撮影しています。何ヶ月も振付をやりました。ビルがダンスやタップをやって……
バルバラ:スウェーデン流の。
アンディ:それが酷かった。全然ダメだった。ビルも納得できていなかった。でも、ビルの側に行って「良かったよ、良かった」って慰めたら……、ビルの顔が涙で……、汗かもわからないけど、汗だか涙が垂れていて。ビルは、もう真面目な子だから……。ダンスも激しかったし。よだれやら涙やら汗やら、全部垂れ流し。
それから数日後に姉ともう一回撮影しました。で、ビルに「これやって」って頼んだんです。(アンディ、ペニーワイズダンスを披露。)
アンディ:(太ももをさすって)筋肉つった……。1作目の時は僕も若かったんですけど……。ビルも上手く踊ってくれました。彼も当時は若かったし。27歳だったし。
だから、(ペニーワイズに近づきたいのなら)このダンスをやるといいですよ。それから、離れ目が出来る人は良いですね。あと、唇の形が真似できる人。それから、頭デカい人も似ますよ。ハゲ頭の人も。(ペニーワイズ姿で参加しているファンを指して)それより、あの人たちに聞いた方がいい。よっぽど良いアドバイスが貰えると思います。グッジョブ!

── 映画監督になるためのアドバイスを教えて欲しいです。
アンディ:(日本語で)カントク。カントク。まず、語りたい物語を見つけたら、情熱が灯ったら、やりなさい。他の人なんかに頼ってないで、やりなさい。すぐやりなさい。
バルバラ:今は簡単になったんですから。スマホでも作れるし。
アンディ:昔に比べたら、高いクオリティの映像も安価に撮れるようになりました。昔は、カメラにも色々、フィルムやらフィルムカメラやら……。
バルバラ:昔の話はやめましょう(笑)。
アンディ:とにかく短編を作ることです。とにかくやりなさい。やってみて気に入らなかったら、もう一回やりなさい。それも気に入らなかったら、またもう一回やりなさい。そうすればある日、誇れるものが出来上がっています。そうするうち、どこかから声がかかるでしょう。短編を作ってYouTubeにアップして、スタジオの重役やエージェントやマネージャーが君の作品を目にする。だから、とにかくやりなさい。それが僕からのアドバイスです。
バルバラ:私からもちょっとしたアドバイスを。本当に短い短編を作ってください。長いのを作ってはいけません。なぜなら、残念ながら長いものは見てもらえないからです。5分以内にすることですね。それを、作り続けてください。

映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』は、2019年11月1日(金) 全国ロードショー(IMAXⓇ/4D/吹替版 同時公開)。
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