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『ジョーカー』をマイケル・ムーア監督が大絶賛 ─ 「あなたがこの映画を観ないなら、それが社会の危機になるかも」

ジョーカー
TM & © DC. Joker © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)や『華氏911』(2004)、『華氏119』(2018)など、アメリカの社会問題や政治などに切り込む作品を手がけてきたジャーナリスト&ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーアが、DCコミックス原作映画『ジョーカー』に最大級の絶賛を寄せた。

ムーア監督はFacebookにて、「あなたがこの映画を観に行かないとしたら、それが社会にとっての大きな危険になるかもしれない」とまで記している。コミック屈指のヴィランを描いた本作に、なぜムーア監督はそこまで惹きつけられたのか。そこには熱意あふれるメッセージが綴られていた。

華氏119 マイケル・ムーア
『華氏119』ブルーレイ&DVD発売中 ⓒPaul Morigi / gettyimages

マイケル・ムーア、『ジョーカー』を語る

ムーア監督の投稿は、「水曜日の夜、ニューヨーク映画祭で傑作映画を目撃しました。先月、ヴェネツィア国際映画祭の最高賞を獲得した映画、その名も『ジョーカー』です」とのコメントから始まっている。まず監督は、本作がアメリカで“危険な映画”として扱われ、ひとつの社会現象となっていることに言及。『ジョーカー』は現実の暴力を誘発する可能性があるとして、一部から問題視されているのだ。

「アメリカ人はみんな、この映画を恐れるべきだ、近づくべきじゃない、という話を聞いています。暴力的で、病的で、道徳的に間違っていると。殺人を扇動し、称えていると。そして“トラブル”に備え、今週末[編注:公開週末]の上映には毎回警察が立ち会うのだと。わが国は今、深い絶望の中にあります。憲法はズタズタになり、クイーンズ出身の面倒な狂人(※1)は核兵器を発射することができる。なのにどういうわけか、この映画を恐れるべきだというのです。

私は正反対の提案をしたいと思います。もしも、あなたがこの映画を観に行かないとしたら、それが社会にとっての大きな危険になるかもしれません。なぜなら、そこで描かれている物語と、提起されている問題は非常に深く、また非常に必要なものだからです。この芸術作品の精神から目をそらせば、我々を映す鏡の恩恵を受けそびれることになるでしょう。その鏡には精神を病んだピエロが映っていますが、彼は一人ではありません。彼は私たちのすぐそばにいるからです。」

(※1:ドナルド・トランプ米大統領を指している。)

ムーア監督は、あえて『ジョーカー』について「スーパーヒーローでも、スーパーヴィランでも、コミック映画でもありません」と記している。「舞台は70年代、あるいは80年代のゴッサムシティですが、作り手たちはそれが何であるかを隠そうともしていない」のだと。「それはニューヨーク、あらゆる悪の枢軸です。そこで私たちは富める者に支配され、銀行や企業に奉仕し、メディアが考える“熱中すべきニュース”を毎日与えられています」

投稿の中で、ムーア監督はドナルド・トランプ米大統領への激しい批判を展開。しかし、その後には「この映画はトランプを描いたものではありません」と強調している。むしろ「私たちにトランプをもたらしたアメリカを描いています。見捨てられた人々、きわめて貧しい人々を助ける必要はないと考えるアメリカをです。卑劣かつ裕福な人間たちが、より卑劣に、より裕福になるアメリカをです」

「もしもある日、奪い取られた人間が逆襲を決意したらどうなるでしょうか?[中略]人々は、この映画が暴力的すぎるかもしれないと心配しています。そんな、まさか。私たちが生きている現実について考えてみましょうよ。学校が子どもたちに“アクティブ・シューター・ドリル”(※1)を実施することを許しているんですよ。それは子どもたちに、精神的な影響を一生与えてしまうものです。“これがあなたの人生なんだ”と彼らに示してしまうものです。

『ジョーカー』(の問題)は、我々がこの問題の真相を解明したがっていないこと、なぜ純粋な人々が、自分を抑えきれずにジョーカーに変貌するのかを理解しようとしていないことをハッキリさせました。賢い2人の少年が、なぜ12人の生徒と教師を殺害するためにコロンバイン高校の4時間目の授業をサボったのか(※2)なんて、誰も知りたくないんです。ゼネラル・エレクトリック社の副主任の息子が、なぜサンディフック小学校に入り込んで1年生を20人も吹き飛ばしたのか(※3)なんて、誰もわざわざ聞かない。それから、なぜ白人女性の53%が、性的搾取者だと分かっている大統領候補に投票したのかということも。」

(※2:アクティブ・シューター・ドリル……銃を持った人間が突如乱入してきた時、どうやって行動するかを抜き打ちでシミュレーションする防犯訓練のこと)
(※3:1999年に発生したコロンバイン高校銃乱射事件のこと。)
(※4:2012年に発生したサンディフック小学校銃乱射事件のこと。)

ここでムーア監督は、「『ジョーカー』への恐怖や抗議は策略であり、人々を引き裂く本物の暴力から目をそらさせようとする目くらましだ」と記している。「健康保険に入っていないアメリカ人が3,000万人いることこそ暴力、虐待を受けた大勢の女性や子どもたちが恐怖の中にあることこそ暴力、デトロイトで59人の学生が、価値のないサーディンのごとく教室に詰め込まれていることこそ暴力です」

「ニュースメディアが次の乱射事件を待つ間、私たちや隣人、同僚たちは何度も撃たれ、心も、希望も、夢も、すべてが撃ち抜かれてしまいました。年金はとっくになくなり、私たちは教育を望むという犯罪のために30年ぶんの借金を抱えています。生まれて20年で気候変動による死が待つような、死にかけの惑星に子どもをもたらす気持ちになれないために、子供を持たないことを現実に考えたでしょう。『ジョーカー』の暴力? やめてくれ。映画に登場する暴力のほとんどは、助けを求め、欲深い社会でぎりぎり生き残ろうとしている、そんなジョーカー自身の手で犯されるのです。彼の犯罪は、もはや助けを得られないことによるもの。裕福な有名人から笑い者にされ、感情を逆なでされたことによるものです。

ジョーカーがもう受け止めきれないと決意する時、きっと最悪な気分になるでしょう。スクリーンに映る(ほんのわずかな)血のせいではなく、心の底から彼を応援していることに。その時に自分が正直であれば、あなたは新たな欲望と自分を出会わせたこの映画に感謝すると思います。自分を救うために一番近い非常口へと走るのではなく、立ち上がり、戦い、毎日自分が手にしている非暴力的なパワーに集中するのだという欲望です。

ホアキン・フェニックス、トッド・フィリップス、ワーナー・ブラザース、この大切な映画を、この大切な時に作ってくださったみなさんに感謝します。『タクシードライバー』(1976)や『ネットワーク』(1976)、『フレンチ・コネクション』(1971)、『狼たちの午後』(1975)へのいくつものオマージュも大好きでした。スタンリー・キューブリックのレベルを目指した映画を最後に観てから、いったいどれくらい経つでしょうか。この映画を観てください。ティーンエイジャーの子どもたちを連れて。心を決めるのです。」

むろん、ムーア監督の激しいメッセージは――これだけ激しい言葉であるがゆえに――映画を観た者の間でも賛否を分けうるだろう。なおこの投稿は監督のInstagramにも掲載されており、『ジョーカー』の脚本・監督を務めたトッド・フィリップスは「ワオ、ありがとうございます」との反応を残している。

映画『ジョーカー』は2019年10月4日(金)より全国公開中

『ジョーカー』大ヒット、マイケル・ムーア監督も喜ぶはず

Source: Michael Moore

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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