なぜ日本はハリウッド映画のロケ撮影が少ない? ─ マーベル作品、韓国での成功事例と日本の現状

映画の話題について、海外との温度差がさらに広がっている。世界中で記録的ヒットを飛ばす『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』興行収入は、日本に比べ人口比およそ40%の韓国が3倍稼いでいるのだ。(※)「他国に負けない国産コンテンツがある」ことはもちろん誇るべきだが、一方で国内の洋画ファンが寂しい思いをしているのも事実である。※2018年5月13日時点、日本23,377,446ドル、韓国70,245,756ドル。Box Office参照。
韓国の成功事例
韓国は、海外映画のロケ地招致を国を挙げて支援している。マーベル映画といえば、全世界の映画興収歴代ランキング上位10作中に、4作もを叩き込む超巨大ビジネス。これに対し韓国は、2015年の14億ドル超え大ヒット作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』よりロケ地招致を行っていた。その後、13億ドル超えヒットの『ブラックパンサー』にも、釜山の街をロケ地として提供。韓国における同作動員に多大な恩恵を与えた。
The Hollywood Reporterは、「なぜ韓国はマーベル御用達の海外撮影ロケ地なのか」とのタイトルの記事を掲載している。この記事は、『ブラックパンサー』ライアン・クーグラー監督の「釜山はパーフェクトなロケ地だった」との声を紹介。同作では、主人公が敵を追いかける激しいカーチェイスのシーンで夜の釜山が登場していた。同地は物語的にも重要な意味を持っていて、映画中盤における重要なハイライト・シーンとなった。
製作陣は釜山で2週間に渡って撮影を敢行。150台の車と、700人以上のエキストラが参加した大々的なものとなった。クーグラー監督は、「釜山は活気に溢れていて、近代建築と古い建造物が美しいビーチを背景にハーモニーを成していた」と評する。

韓国には、「韓国映画振興委員会」と呼ばれる特殊法人が存在する。これは行政機関による映画振興を目的としたもので、彼らはインセンティブ・プログラムとしてマーベル・スタジオ/ディズニーに230万ドル(およそ2億5,000万円)の補助金を提供しているという。加えて、世界5位の規模という極めて高密度で洗練された市場性も映画製作側には魅力に映る。ソウル市街地での16日間に渡るロケ撮影を許可した『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』は韓国で7,829万ドル(日本成績の約3倍)、釜山が登場する『ブラックパンサー』は4,285万ドル(日本成績の約2.9倍)の興行収入という、確かな結果を残している。
日本における海外映画招致の現状
ライアン・クーグラー監督が釜山の「近代建築と古い建造物のハーモニー」に惚れ込んだなら、「スクラップ&ビルドでこの国はのし上がってきた」日本にも同じようなものや、その他魅力的な風景は沢山見つかるはずだろう。
筆者が観光業に詳しい友人に聞いた話になるが、欧米の訪日観光客は新宿のような雑多な街並みを見て、「未来だ」とえらく感動するのだという。その理由は映画『ブレードランナー』。1982年公開のこの映画に登場した混沌としたネオンの街並みは、その後のSF映画やアニメにおける「近未来都市」のイメージを決定づけた。「カラオケ」だとか「激安の殿堂」だとかが出鱈目に並ぶ風景は、その中を歩くだけで訪れる価値を感じるのだという。(厳密には、リドリー・スコット監督は『ブレードランナー』の街並みのモデルは香港であると明かしている。)

しかし、悲しいかな日本では、ハリウッド映画のロケ招致に力を入れてこなかったばかりか、むしろチャンスを見送ってきた事例がある。
マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙 -サイレンス-』(2016)は、浅野忠信や窪塚洋介などの日本人キャストが大勢参加し、長崎を主な舞台とする映画にも関わらず、ロケ地は台湾だった。製作陣はもちろん日本ロケを検討したが、規制が厳しいために断念したという。浅野忠信は今作の記者会見で「日本で撮影し、日本のスタッフで作ったら、もしかしたら違うものもあったのかなと思います」ともこぼしている。
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