【保存版】『ラ・ラ・ランド』全曲完全解説 ─ サントラ収録曲を知り尽くす

映画『ラ・ラ・ランド』(2017)は、ミュージカル映画として数々の名曲が物語を彩る。楽しく、華やかに、そして切なく。この記事では、『ラ・ラ・ランド』サウンドトラックに収録の全曲について、複数の資料を元に余すことなく立体的に解説しよう。
Another Day of Sun

同作の音楽監督であり、サウンドトラックのプロデューサーを務めたマリウス・デヴリーズは、「オープニング曲はいつだって極めて重要だ」と語る。映画の幕開けを飾る同曲は、今作がミュージカル映画であることを宣言する大事な役目を担った。作曲のジャスティン・ハーウィッツは、「まず始めに”この映画はミュージカルです。登場人物は歌うし、踊ります。楽しいことがいっぱいですよ”と告げたかった」と紹介。最終版に至るまで何度も書き直し、吟味に吟味を重ねたという同曲を、マリウスは「ボーカルアレンジと演出、ロジックが最も複雑になった」と言う。
ジャスティンも、同曲の作曲は「大変だった」と振り返っている。幾度となく続いた書き直しは、「コーラスを入れられるようになった頃には、すっかり心が折れていた」と言うほど。ちなみにその印象的なメロディがジャスティンに”降りてきた”のは、ヴェネツィアにてデイミアン・チャゼル監督と同じ部屋で作業をしていた時のこと。デイミアンが脚本を執筆し、ジャスティンが何となくピアノをいじっていた時にメロディが浮かび、デイミアンも気に入ったのだという。
「Another Day of Sun」の歌詞は、夢追い人の理想と現実の過酷なギャップに対し、それでも「また新たな日が始まる」とあくまでも前向きに歌うもの。これから『ラ・ラ・ランド』で描かれる主題を象徴するような内容となっている。「何についての曲にするかを確立するのはすごくトリッキーだったけれど、ベンジー(作詞)とジャスティンがポエトリーとナチュラリズムの間、狭義と広義の間の完璧なバランスを見出してくれた。L.Aのルーティン生活への賛歌です」とマリウスは紹介している。
なお、同曲が高らかに歌い上げられるオープニング・シーンの撮影舞台裏の苦労は以下の記事でご紹介しているので、あわせてご参考頂きたい。
Someone in the Crowd
報われない日々に辟易としていたミアを、ルームメイトの友人がパーティーに連れ出すシークエンスで華やかに歌い上げられるのがこの「Someone in the Crowd」だ。マリウスは「この曲も複雑だった」と振り返る。
アパート内から路地へ、そしてパーティー会場、プール、最後には花火も上がる同曲シークエンスは、「色々なピースが、色々なタイミング、色々な場所で展開されるので、製作には何年も費やした」とジャスティン。別の場でも「この映画の中で一番ヤバい撮影だった」と振り返っているから、相当な労力を要したようだ。映画ではカラフルなジェットコースターのような見事な映像となったが、バラバラに撮影されたショットが上手く繋がった映像を見て、マリウスもホッとしたという。ちなみに撮影に至るまでの楽曲制作にも苦労があり、一度は気に入っていた歌詞を2014年時点ですべて放棄し、ジャスティンはまた新たな歌詞で作曲に打ち込んでいる。
マリウスによればこの曲は「編集段階で変更が生じた、珍しい曲」なのだという。「当初は”2番”があって、もう少し演出と振り付けがあったんです」と言うことは、幻の2番があるということか。なお、カットされた理由は、「ここではもっと物語を進めておくべき」との判断のため。ジャスティンはもう少し詳細を語っていて、「観客がミアの感情の起伏を見失うようだったから。ルームメイトたちを長く追いすぎていたので、カットしたんです」とのこと。
Mia and Sebastian’s Theme
ジャズ・バーの演奏にアーティスト性を込めたいセバスチャンと、ツイてない出来事が連続して気の落ちているミアが出会うシーン。繊細な表情をしながらも、行き場のない感情が絡みつくようなピアノ演奏を聴くことが出来る。
「ここで大事なのはライアン(・ゴズリング)。彼のピアニストとしての旅路の下積み時代です」とマリウス。ライアン・ゴズリングは今作のため実際にピアノをイチから練習しており、映画で観られる演奏シーンは手元のアップまで全て差し替え無しだ。