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【レビュー】ジャック・ドゥミ監督『ローラ』&DC映画『スーサイド・スクワッド』 ― 時代を超えて愛される彼女たちの「恋心」とは

スーサイド・スクワッド
SUICIDE SQUAD and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics. © 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved

『シェルブールの雨傘』(1964)『ロシュフォールの恋人たち』(1967)をはじめ、その独特の色彩と甘美なおとぎ話のような物語でヌーヴェル・バーグの一時代を築いた監督、ジャック・ドゥミ。彼の妻であり自身も映画監督である“ヌーヴェル・バーグの祖母”、アニエス・ヴァルダ。そんな映画史に残る伝説的なカップルである2人の初期の作品が、2017年7月22日より特集上映されることが決定した!

「ドゥミとヴァルダ、幸福(しあわせ)についての5つの物語」という企画名の通り、集められたのはみずみずしいまるで宝石箱のような作品ばかり。1961年『ローラ』、1961年『5時から7 時までのクレオ』、1963年『天使の入江』、1965年『幸福』、1991年『ジャック・ドゥミの少年期』の全5作品だ。今回ピックアップしたいのはジャック・ドゥミ監督による長編第1作目『ローラ』である。 

『ローラ』あらすじ 

舞台はフランス西部の港町、ナント。そこに住む女性、ローラはキャバレーで踊り子をしながら、7歳になる息子と暮らしている。息子の父親でありローラの初恋の男性、ミシェルは7年前、「一儲けしてくる」と言い残したままどこかへ去ってしまった。ローラはそんなミシェルをずっと待ち続けているのだ…。

そんなローラの幼馴染であり、人生に虚無感を抱いている青年ローランや、彼とひょんなことから出会ったデノワイエ夫人と娘のセシル、アメリカ人水兵のフランキー。複数の人間たちの運命が重なり合って生まれる物語を描いているのが『ローラ』だ。果たして彼女の愛する男、ミシェルは街へ戻ってくるのだろうか。 

美しく苦しい、恋の呪い

『ローラ』は恋にとらわれた女性を描いた物語だ。初めて愛した男性のことが忘れられず、海辺の街を出ることもなく、息子と2人で帰ってくるかも分からない男性を待っている。アメリカ人水兵のフランキーと寝ているのも、彼がミシェルに似ているからだ。

近年の映画で、このように“恋”や“男性”にとらわれた女性を描いている作品は少ないように感じられる。男性社会から抜け出そうとする、新しい時代の女性像が描かれることが多くなっているのだ。
たとえば2017年3月10日に日本でも公開された
ディズニー映画『モアナと伝説の海』(2016)。ディズニープリンセスにはいつもプリンスがいたものだが、同作のプリンセスであるモアナに恋の相手はいなかった。エマ・ワトソンが主演を務めた実写版『美女と野獣』(2017)でも、主人公であるベルが閉鎖的な社会(村)から抜け出し、何にも縛られることなく“自分らしく”生きていく…といった女性像が描かれていた。
しかし、危険な恋愛と悪い男にとらわれているヒロインといえば、やっぱり思い浮かんでしまうのはこの人だろう。DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)作品『スーサイド・スクワッド』(2016)より、ゴッサムシティのプリンセス、ハーレイ・クインだ。
 

ゴッサムのヒロイン、ハーレイ・クイン

Regram from @jaredleto: “hello doctor…” Exclusive never before seen photo courtesy of #SuicideSquad #joker #harleyquinn

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アーカム・アサイラムで働いていた優秀な精神科医、ハーリーン・クインゼル博士。彼女の運命が変わったのは、患者して収容されてきたジョーカーに出会ってからのこと。歪んだ彼に魅了されてしまったクインゼル博士は自身も道化の姿となり、愛するプリンちゃん(ジョーカー)の願望を満たすために犯罪者となった。
劇中でも「おつむが悪い」と言われ、見捨てられて自分が刑務所に入れられてもなおジョーカーを愛し続ける姿は、確かに“近頃描かれる女性キャラクター
”としてはめずらしいかもしれない。『美女と野獣』のベルは熱心に本を読んで教養を身につけていたのに(ハーレイも“ハーレイ・クイン文庫”のロマンス小説を読んでいたが)、ハーレイ・クインは愛する男によって人格を変えられ、頭のネジも少しばかりゆるんでしまったのだから。 

DCEU作品とはまったく違うテイストのヌーヴェル・バーグ作品だが、今回『ローラ』を観ていて、どうしてもハーレイちゃんが頭をよぎってしまった。それは決してローラもネジがちょっとばかり抜けているとか、“現代の女性像”らしくないとか、そういうことではない。言葉で定義するのは勿体なく感じられるような、健気で純粋な恋心を、2人のヒロインから同じように感じたからである。 

彼女たちはいかに気持ちを隠すのか

『ローラ』の主人公、ローラ。踊り子をして働き男たちに愛想をふりまき、誰に対しても明るく朗らかにふるまう。1人で息子を育て、帰ってくるかも分からない初恋の男を待ち続けている。悲しみも切ない気持ちも我慢も何もかも、笑顔の下に閉じ込めているのだ。 

笑顔といえばハーレイ・クインもあの、口角を思いっきり吊り上げた表情が印象的だ。しかし快活で無邪気にふるまう姿が印象的だった一方で、ふとした時に寂しげな表情も見せていた。ジョーカーが死んだと思った時や、長く続く階段を見て思い出した、薬品の樽に飛び込んだ時のこと……。
2人のヒロインに共通しているのは、“自分の感情をチャーミングに
隠すこと”である。そして冒頭にも書いたように、“恋にとらわれている”ことだ。 

スーサイド・スクワッド
SUICIDE SQUAD and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics. © 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved

初恋の呪縛にとらわれたローラ。ジョーカーの魅力に支配され、恋に狂わされてしまったハーレイ・クイン。
女性にとって初恋は忘れられないものだ。ハーレイが
ジョーカーの前にどんな恋愛をしていたかは分からないが、人生を捧げるほどの恋は彼が初めてだろう。ジョーカーが死んだと思われた時、ハーレイは“プリンちゃん”のチョーカーを捨て、彼への恋心から少し解放されたかに見えたが、ジョーカーは再び彼女の元へ戻ってきた。いつまでも心を縛り付けて放さない、初恋の呪い。しかしそんな彼女たちはどこまでも健気で、大人になっても少女のように愛らしく、魅力的だ。

明るい表の顔に隠された少し寂しく、壊れてしまいそうな素顔。ハーレイ・クインの人気の秘密は、もちろんあのキュートで小悪魔なキャラクターもそうだが、そんな素顔が見え隠れするところにもあるのではないだろうか。ヌーヴェル・バーグの時代から、そんな女性たちの恋心は私たちを惹きつけてやまないのかもしれない。 

時代によってヒロイン像も変われば、男性と女性の関係の描かれ方も変わる。恋愛の仕方だって変化する。しかし健気で、男性にただ弄ばれているのか、どこまで恋愛にとらわれているのかも分からない、そんな掴みどころのない女性たちはいつも人々を魅了するだろう。フランス映画とハリウッド映画、ヌーヴェル・バーグとDCEU作品、全く違うタイプの作品で曖昧な女性の心を同じように感じ取ることができるのも、映画の面白いところだ。 

海辺の町で幸せや愛について迷い追い求める人々を描いた『ローラ』は、映像の隅々から伝わるみずみずしさや、後のドゥミ監督作品を彷彿とさせる甘さがつまった、複雑で愛おしい、大人のためのおとぎ話である。
「ヌーヴェル・バーグのヒロインとDC作品のヒロインが何だか似てる」なんていうと乱暴にも聞こえるが、きっと観たらあの網タイツの悪カワヒロインを思い浮かべてしまうはずだ。そして女性たちの幻想的な魅力に、もっと惹きつけられてしまうだろう。


特集上映『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』 
2017年7月22日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

Writer

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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