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「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」有色人種の起用、イライジャ・ウッドら映画版出演者が歓迎 ─ ドラマ版の製作陣も声明発表

https://twitter.com/elijahwood/status/1567538865203970048

J・R・R・トールキン著『指輪物語』に基づくドラマシリーズ「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」をめぐっては、早くから人種をめぐる議論が持ち上がっていた。人間やエルフ、ドワーフなどさまざまな種族のキャラクターに有色人種の俳優をキャスティングしたことに対し、「原作や映画版の世界観に忠実と言えるのか」「中つ国の種族をどう解釈したのか」という声が上がる一方、見るに堪えない誹謗中傷の嵐が吹き荒れたのだ。

第1話・第2話の配信後、ますます過熱する議論と誹謗中傷に対し、このたび、ピーター・ジャクソン監督による映画版『ロード・オブ・ザ・リング』の出演者たちが意見を表明した。フロド役のイライジャ・ウッド、ピピン役のビリー・ボイド、メリー役のドミニク・モナハンが、さまざまな肌の色をした中つ国の種族の“耳”が描かれたTシャツを着用し、「みなさんを歓迎します(You are all welcome here)とのメッセージを発したのである。サム役のショーン・アスティンも同一デザインのキャップを被り、同じ意志であることを示した。

このTシャツとキャップは、『ロード・オブ・ザ・リング』ファンのドン・マーシャル氏がデザインし、販売しているもので、売上の50%は有色人種の人々をサポートするチャリティに寄付されるとのこと。「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」でエルフの戦士・アロンディル役を演じるプエルトリコ人俳優のイスマエル・クルス・コルドバは、Twitterを通じて4人への感謝の意を表明した。

またこの直後、「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」の製作チームも、「有色人種の出演者が日常的に受けている差別や脅迫、ハラスメント、中傷に対して、私たちは断固として連帯し、無視も容認もしません」との声明を発表。原作者J・R・R・トールキンの創り出した世界は「定義によると多文化的なもの」「さまざまな人種や文化から人々を解放する世界」であり、ドラマはこれを反映するものだと強調した。「我々の世界が白人だけだったことはなく、ファンタジーが白人だったこともありません。中つ国も白人だけではなく、BIPOC(黒人・原住民・有色人種)は中つ国のあちこちにいるのです」。

「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」の有色人種をめぐる批判は、特にアメリカ本国で大きな問題となっており、Amazonは荒らしへの対抗策としてカスタマーレビューの全検閲を実施。もっとも事態は非常に複雑で、米The Hollywood Reporterなど大手メディアさえ、差別的思想に基づく誹謗中傷を認めない姿勢を示しながら、同時に今回のキャスティングに対する批判の声を紹介。「有色人種が映画やテレビに登場することは誰も問題視していない」「中つ国に現在の価値観や多様性を反映することが目的になるのは奇妙だ。マーケティングとしては適切かもしれないが、優れたテレビシリーズを作ることよりもそちらが重要視されている」との意見を“的を射たもの”として挙げている。

さらに話を厄介なものとしているのは、Amazon Studiosがトールキン財団から購入した映像化権は原作の一部であり、ドラマと同じく第二紀を扱った『シルマリルの物語』『終わらざりし物語』の映像化権を取得していないこと。“原作通り”を根拠にするかたわら、そもそも「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」は原作の中つ国を完全に描ききれる状況になく、そのことが新たな解釈に対する原作ファンの拒否反応を招いた部分もある。もっと言えば、Amazon Studiosは権利問題のためにドラマ版と映画版を独立させるほかなく、ピーター・ジャクソン監督の関与も断念していた。このたび映画版のキャストが声を上げたのは、こうしたビジネス的な背景を横においた、あくまでも個人的な取り組みであることを忘れてはならない。

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Sources: Variety, Deadline, The Hollywood Reporter

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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