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フランス開催のアヌシー最高賞受賞!海外絶賛、リバイバル上映も決定『夜明け告げるルーのうた』のススメ

6月17日、日本のアニメーション業界にとって非常に喜ばしいニュースが飛び込んできました!

フランスで開催された世界最大のアニメーション映画祭のひとつ、アヌシー国際アニメーション映画祭で日本の湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』が長編部門の最高賞にあたるクリスタル賞を受賞しました。日本の作品が最高賞を受賞したのは1994年の高畑勲監督作『平成狸合戦ぽんぽこ』以来で、大変な快挙です。

さらに、この報を受けて日本全国の映画館で『夜明け告げるルーのうた』の凱旋上映が決定しました。
世界でも賞賛された傑作を見られるせっかくのチャンスです。是非みなさんにも『夜明け告げるルーのうた』を見ていただきたい!

というわけで『夜明け告げるルーのうた』がなぜ素晴らしいのか、3つの視点からご紹介したいと思います。ぜひこの記事をきっかけに映画館に足を運んでください。

『夜明け告げるルーのうた』とは

舞台は東北を連想させる寂れた漁港・日無町。主人公は父と東京から日無町にやってきた、心を閉ざしている中学生・カイ。彼が得意の音楽を通して、歌が大好きな人魚の少女・ルーと出会い、まわりの大人たちと対立しながら成長していく様を描きます。

監督は湯浅政明。2017年には本作に先立ち『夜は短し歩けよ乙女』も公開されています。『夜明け告げるルーのうた』は湯浅監督にとって初めての長編オリジナル作品。独特の色彩感覚が創り出す世界観は「湯浅ワールド」とも呼ばれ、すでに多くのファンがいます。本作の高評価を受けて細田守監督や新海誠監督と並び、「ポスト宮崎駿」と称される日も近いかもしれません。

そんな湯浅監督の描く『夜明け告げるルーのうた』の魅力は次にあげる3つの点にあると思っています。

  1. 「抽象的でダイナミックなアニメーション」
  2. 「バランス感覚に優れた田舎描写」
  3. 「重層的な意味を持つストーリー」

では、ひとつずつその魅力について説明していきましょう。

抽象的でダイナミックなアニメーション

「湯浅ワールド」いちばんの魅力は、なんといってもそのアニメーション表現でしょう。

抽象的にデフォルメされたアニメーションには、言葉で説明しがたい面白さが詰まっています。特にその「動き」には注目です。めまぐるしくダイナミックな動きは非常に楽しく、全編を通して驚きの連続です。中でも、このルーがブランコを漕ぐシーンは何度見ても素晴らしい!

ご覧になってみて、いかがだったでしょうか?現実とも幻とも取れる不思議な世界観が画面に広がります。

音楽をテーマにする本作では、さらにこの映像にポップミュージックが加わります。特に本作のテーマソングにもなっている斉藤和義の「歌うたいのバラッド」が非常に良い味わいを出しています。どういった使われ方をするかは、ぜひ映画館で確かめてみてください。

バランス感覚に優れた田舎描写

私が『夜明け告げるルーのうた』に心動かされたふたつめのポイントは田舎描写にあります。

細田守監督や新海誠監督といった新進気鋭のアニメクリエイターに限らず、スタジオジブリの宮崎駿監督や高畑勲監督にいたるまで、日本の長編アニメーションでは「田舎」の描写を好むクリエイターが多い印象を受けます。しかし、残念ながらその描写の一部はバランス感覚を欠いていました。過度に田舎を美化して「都会にないもの」を田舎に見出してみたり、逆に田舎を徹底的に狭い空間として描き、「逃げ出すべき場所」であるかのように扱ってみたり。とにかく描き方が極端な作品が目につきました。

しかし、『夜明け告げるルーのうた』はそのバランス感覚が絶妙です。日無町は寂れた漁港で、産業らしいものはほとんど残っていない悲惨な状況です。東京生まれのカイは心を閉ざしてしまうし、彼の同級生の遊歩は田舎の息苦しさから抜け出して都会で歌手をやりたいと考えています。中学生の彼らにとって、日無町の環境は、自分たちの未来を閉ざす牢獄です。

またその一方で、東京に馴染めず日無町に帰ってきたカイの父親や、都会で失敗した後、地元の日無町で事業を成功させた漁師など、「地元だから」こそ日無町に帰ってきたUターン組の大人たちも登場します。彼らにとって日無町は牢獄などではなく、自分が生まれ育ち、たくさんの思い出を育んできた「故郷」なのです。

『夜明け告げるルーのうた』は主人公が中学生ということもあり、「人生の選択」という青春期の問題が非常に色濃く出ている作品でもあります。そういった中でこの都会と田舎の対比は重要な要素になってくるのです。本作はあくまで都会と田舎の良いところと悪いところを満遍なく描きます。カイの見る世界には都会が輝いて映りますが、それでも日無町が「好きだから」「地元だから」帰ってきて幸せに暮らす大人たちも現実にはいるのです。こうやって、どちらの立場も否定せず、自分の「好き」をどうやり通すかに焦点を当てることで、絶妙なバランスを保っていると言えるでしょう。

重層的な意味を持つストーリー

最後に本作最大の魅力であるストーリーについて考察してみたいと思います。内容に触れますので、事前情報をシャッタアウトしたい方は、ぜひ鑑賞後にご覧になってください。

まず、人魚のルーを切り口に物語を考えてみたいと思います。日無町では大昔から人魚が人間に災いをもたらすという言い伝えがありました。この人魚にまつわる恐ろしい災害の伝承と、東北を想わせる日無町の風景は、否が応でも先の大震災の記憶に連なる「死」のイメージを呼び起こします。ここで描かれる「死」のイメージは、いったいどういう意味を持つのでしょうか?

もちろん、あくまで本記事は作品の紹介ですから、深い部分には踏み込みません。しかし、この作品には非常に考察しがいのある重層的な意味が込められているのではないかと思います。いろいろな解釈を許すほど、大変細かいところまでこだわって作り込まれた作品であることは確かでしょう。『夜明け告げるルーのうた』はアニメーション表現だけでなく、考察の面からも興味深く楽しめる作品なのです。

『夜明け告げるルーのうた』は2017年6月24日から全国20の映画館で順次追加上映開始予定です。
公式サイトをご確認の上、ぜひ極上の「湯浅ワールド」を体感してみてください!

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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