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デヴィッド・リンチ、大友克洋『童夢』を映画化しようとしていた

デヴィッド・リンチ
Photo by Sasha Kargaltsev https://commons.wikimedia.org/wiki/File:David_Lynch_by_Kargaltsev.jpg Remixed by THE RIVER

「ツイン・ピークス」シリーズや『マルホランド・ドライブ』(2001)などで知られるカルト映画の帝王、デヴィッド・リンチ監督が、大友克洋の傑作漫画『童夢』の映画化企画にかつて着手していたことがわかった。

『童夢』は巨大団地で起こる不審死事件をめぐり、住人である老人・チョウさんによる超能力の暴走、彼に挑む同じく超能力者の少女・悦子の戦いを描いた物語。1980~1981年に連載され、星雲賞・日本SF大賞に輝いた。大友作品としては、のちに誕生する『AKIRA』の原型としても語られる。

1990年代、『童夢』の映画化に興味を抱いていたキーパーソンが、長年にわたりルーカスフィルムに従事していたニロ・ロディス=ジャメロ氏だった。『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980)『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(1983)などに携わっていたジャメロ氏は、玩具メーカー・バンダイとの企画のため、ルーカスフィルムの代表者として日本に滞在しており、そこで『童夢』と出会ったのだ。

ポッドキャスト「The Filmumentaries Podcast」にジャメロ氏が語ったところによると、当時のバンダイは、もし『童夢』の映画化権を獲得できた場合、製作費・宣伝費などを出資するつもりだったという。話し合いはとんとん拍子に進んだのだろう、大友氏はジャメロ氏に対して脚本原案の制作を認め、その内容を気に入り、脚本作業の開始にも合意した。その後、ジャメロ氏が監督候補に選んだのがデヴィッド・リンチだったのである。

かつてジョージ・ルーカスが『ジェダイの帰還』を監督する方針だった頃、リンチは美術担当として同作に招かれ、ジャメロ氏と出会っていた。米/Filmの取材では、ジャメロ氏とリンチがその後も連絡を取り合っていたことが語られている。

奇跡的に『童夢』をやれることになった時、デヴィッドに企画を持っていきました。これこそデヴィッドの得意分野だと思ったんです。これは私自身の企画じゃなくて、私はただのパイプ役だったんですけどね。」

ジャメロ氏が映画版『童夢』のオープニングをリンチに説明しはじめるや、リンチは説明が終わる前に「やります」と答えたという。その後、ジャメロ氏は日本に戻ると大友氏に脚本を提出し、デヴィッドが監督する方針を告げた。大友氏は脚本にも企画状況にも満足し、バンダイも合意して12ヶ月間の猶予を与えている。それは12ヶ月以内に撮影を実施するか、権利をバンダイに戻すかというリミットだった。

ところが、企画は突如として破綻することになる。ジャメロ氏とリンチが企画を持ち込んだのは、リンチの『ワイルド・アット・ハート』(1990)を製作した米プロパガンダ・フィルムズ。ジャメロ氏は「私はよく知らなかったのだけれど、デヴィッドとプロパガンダ・フィルムズの関係はすでに壊れ始めていた」と証言する。

「プロパガンダが興味を持ったのは(『童夢』の映画化ではなく)バンダイの方でした。つまり、“なぜバンダイがお前にこの企画を?”という感じだったんです。製作費や広報費をすべて出資するという話だったけれども、私は無名だった。彼らはデヴィッドや私と映画を作るより、バンダイと契約したいと考えたんです。そこからダメになり始めて、最後には私の弁護士から“企画を離れなさい”と言われました。金を払うから離脱せよという提案が来たんです。“状況が変わったから、この映画はもう作れないだろう、期限が来てしまう”という話でした。それで企画を離れたし、映画に関わるのはやめようと決意したんです。」

この言葉の通り、ジャメロ氏のフィルモグラフィはほとんどが80~90年代の作品である。ちなみに当時、ジャメロ氏が着手していたルーカスフィルムとバンダイによる企画『Xyber(原題)』も、残念ながら当初計画されていた形では実現しなかった。滅亡後の世界で、7歳の少年が人類史のすべてを知るAIと出会うというストーリーで、ルーカスフィルムが製作を、バンダイが出資を担当する予定だったが、のちにFox Kidsの参加によって企画は激変。アニメシリーズ「Xyber 9: New Dawn(原題)」として1シーズンのみが製作されている。

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Sources: /Film, The Filmumentaries Podcas‪t

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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