ジョナサン・メジャース、事件を経て語る「夢」と「目標」 ─ 映画『ボディビルダー』インタビュー

『クリード 過去の逆襲』(2023)や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023)などのジョナサン・メジャースによる主演映画『ボディビルダー』が、2025年12月19日(金)より全国順次公開中だ。
一流ボディビルダーを目指す主人公キリアン・マドックス役を演じるため、メジャースは約1年半にわたるハードな肉体改造に挑み、まさにプロのボディビルダーと同等の肉体美を実現。その内面に秘められた脆さと狂気の表現も圧巻だ。もっともメジャース自身の逮捕・起訴によって、本作は劇場公開を延期され、しばらく日の目を見ていなかった。
2023年1月のワールドプレミアから3年近い月日を経ての日本公開を記念し、メジャースがTHE RIVERのインタビューに応じた。「現在の目標は“整合性”、夢は“統合”です」。事件を経た現在の心境や、本作のストイックな役づくりなどをじっくりと語ってくれた。

『ボディビルダー』ジョナサン・メジャース インタビュー
──『ボディビルダー』の脚本をはじめて読んだ感想をお聞かせください。
この映画は、静かな挑発のように僕のもとに届きました。最初に脚本を読んだとき、僕はいわゆる“物語”としてではなく、一種の“告白”のように受け止めたのです。ひとりの男について書かれたものではなく、まだ自分の痛みを言語化できていない男の“内側”から書かれたものだと感じました。
とりわけ印象に残ったのは孤独でした。キリアンは名声や、一般的な意味での承認を求めているのではありません。彼が求めているのは秩序であり、コントロールです。完璧な肉体を作り上げれば、内面の混沌も静まるのではないかという証明──その衝動を知っているような気がしました。僕はアーティストとして、自らの限界に挑み、世界に理解されようともがいている人物に惹かれます。その意味でキリアンは危ういほど正直な存在でした。
──『クリード 過去の逆襲』に続いてアスリートの役柄ですが、自らの肉体に挑戦する役どころのやりがいをお聞かせください。
僕にとって肉体的なチャレンジは、スペクタクルのためではなく、役柄に接近する手段なのです。身体は僕にとって大きな表現手段のひとつであり、それを追い込んでいくと、言葉だけではたどりつけない感情に触れられる。
アスリートのような役どころは、規律や反復、孤独、犠牲が求められます。それらは抽象概念ではなく、精神的実践です。身体が圧迫されるとき、心が隠そうとしている真実があらわになる。僕は、セリフよりも先に肉体が物語る役に興味があるのです。
肉体労働には深い誠実さがあります。そして、トレーニングは見せかけを剥ぎ取る。持久力を偽ることはできないし、痛みを軽んじることもできません。それは僕が大切にしているストーリーテリング──生々しく、努力によって勝ち取られた、無防備なもの──を反映しているのです。

──キリアンの人物像をどのようなプロセスで発見していきましたか。彼の精神面をどのように作り上げたのでしょうか。
キリアンの内面は、深く静かでありながら、同時に激しい騒音にあふれています。規律と怒り、希望と絶望、優しさと恥辱の間で、絶え間ない内的交渉を続けているのです。
僕はキリアンを、壊れた人物としてではなく、感情の言語を学ばなかった人物として捉えました。彼は助けを求める方法も、抱きしめられる方法も知らない。だからこそ、孤独に耐えられる身体を作り上げるのです。
監督や共演者との話し合いには助けられましたが、仕事のほとんどは“聴く”作業でした。キリアンが口にしないこと、避けていること、繰り返すことに耳を澄ます。彼のルーティンは祈りであり、日記は告白であり、沈黙は叫びなのです。
彼を裁きたくも、ロマンティックに表現したいとも思いませんでした。ただ、寄り添いたかったのです。
──キリアン役のために肉体を鍛え上げたことは、ご自身の精神にどのような影響を与えましたか?
極端な規律は集中力を研ぎ澄ます一方、世界を狭めてしまうこともあります。僕は、肉体が厳密に制御されるにつれ、執着があっさりと“目的”のふりをして現れることを強く意識するようになりました。キリアンと同じ視野狭窄に陥った瞬間もありました。目標以外のすべてが単なる雑音に思える感覚です。
その近さには注意が必要でした。どこでジョナサンではなくキリアンになるのかを、常に意識しなければならなかったのです。(この映画の)準備期間で、“成果”や“強さ”、“外見”を価値へと結びつける男性への共感を深めることができました。バランスを取るためのコミュニティや穏やかさ、寛大さがなければ、いかにたやすく自らを追求心のなかに消してしまえるかを思い出したのです。

──あなたが演じる「弱さ」や「脆さ」の表現に心を打たれます。キリアンの抱える「男性性の弱さ」を、いかに身体表現としてアウトプットしましたか?
キリアンにとって、“男らしさ”はうまく身体に合わない衣装のようなものです。彼が作り上げた鎧は重すぎる──その矛盾を、あらゆる動きに宿らせる必要がありました。強さとためらい、自信と恐怖、という矛盾を。
僕は、彼がどのようにその場にいるのかに細心の注意を払いました。姿勢は硬直しているけれど、視線は探るようにして動いている。動作は正確でも、タイミングがズレている。ジェシーとレストランにいるような場面では、脆さは“抑制”から生まれます。崩れ落ちないように、踏み込みすぎないように、そして自分が最も求めている“つながり”を遠ざけてしまわないようにする努力から。
その脆さは、間(ま)や浅い呼吸、行き場のない手に表れます。「強さがあれば十分だ」という嘘を、身体が裏切ってしまうのです。
──映画の完成から時間が経った今、この作品が日本や世界の劇場で上映されていることをどのように考えていますか。
身の引き締まる思いです。映画は自分たちの手を離れたら観客のものになります。僕が最も心を打たれるのは、これまで自分を“見えない存在”だと感じてきた人──とりわけ、これまでの物語で描かれてきた“男らしさ”に自分自身を見出せなかった男性──が、キリアンを通じて「自分自身を受け止めてもらえた」と感じてくれるかもしれないことです。
僕はこの映画に安らぎを期待してはいません。正直さを願っています。観た人が不穏に感じたとしても良いと思っていますし、対話の扉を開けるとしたらなおさら良い。僕にとって、芸術とは差し出すものであって、解決策ではないから。

──撮影当時と現在では、ご自身の状況や考え方に変化があると思います。改めてこの映画を観たとき、以前との印象の違いはありましたか。
距離は思いやりをもたらします。いまの僕は、キリアンを以前よりも深い優しさをもって見ています。彼が感情的に幼く、限られた道具しか持たないなかで必死に生きようとしていたことがはっきりとわかるのです。
僕自身の演技についても、自分がやったことというより、役柄と一緒に生き抜いたことだと思っています。そうすると関係性が変わります。批評するのではなく敬意を払うのです。
──新たな映画やドラマであなたの演技を観られることを楽しみにしています。現時点で次のプロジェクトや活動計画はありますか?
対話を広げられる仕事に意識を向けています。アイデンティティや権力、癒やし、そしてレガシーについて、難しい問いを投げかける物語です。スピードよりも深さ、流行よりも真実を重んじる協力者と仕事がしたいのです。
小さくて親密なプロジェクトもあれば、スケールの大きな企画もありますが、いずれも“在り方”が問われる仕事です。それが現在の基準です。

──現在の活動方針や、今後の「夢」についてお聞かせください。
目標は“整合性”です。
倫理的に、感情的に、そして精神的にも自分自身を試す物語を語り続けること。同じことを繰り返すのではなく、成長が見える仕事を積み重ねてゆくこと。自分の内面を守ることで、外に出る表現を誠実なものに保つこと。
キャリアを超えたところでいえば、夢は“統合”です。芸術家としての自分、ひとりの男としての自分、パートナーとしての自分、探求者としての自分を、互いに対立させず、ひとつにする生き方。
それができるなら──それを真実にさせ続けられるなら──それ以外のことは、すべて二次的なものです。

映画『ボディビルダー』は2025年12月19日(金)より全国順次公開中。
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