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ジェレミー・レナー主演「メイヤー・オブ・キングスタウン」どんなドラマ? ─ 汚職と正義、どんどん引き込まれる緊迫のクライムサスペンス

メイヤー・オブ・キングスタウン
©2021 ViacomCBS International

『アベンジャーズ』シリーズのホークアイ役でお馴染み、ジェレミー・レナー主演のクライムドラマ「メイヤー・オブ・キングスタウン」がついに日本上陸を果たした。『ボーダーライン』(2016)や「イエローストーン」(2018-)などの傑作で知られるテイラー・シェリダンが製作・脚本・監督を務め、レナーと『ウインド・リバー』(2017)以来のタッグを組んだ話題作だ。2023年12月1日よりParamount+ on WOWOWオンデマンドにて日本初配信となる。

本作「メイヤー・オブ・キングスタウン」とマーベルドラマ「ホークアイ」(2021)はアメリカで同時期にリリースされたが、作品のトーンは面白いほど対照的だ。ホリデームード満点な「ホークアイ」とは異なり、本作は殺伐とした雰囲気で、刑務所が集まる町の腐敗を強烈な暴力・性描写とともに描いた物語。そしてレナー扮する主人公は憧れのヒーローではなく、犯罪者も一目置く“アンチヒーロー”だ。レナー本人も「ホークアイ」を「軽快で明るい」とした一方で、「メイヤー・オブ・キングスタウン」は視聴者を「ハンマーで殴るような作品」と表現していたほどである。

舞台は、ミシガン州の架空の町・キングスタウン。半径16km以内に7つの刑務所があり、2万人の犯罪者が収容されている。いわば、刑務所ビジネスを主要産業とするカンパニータウンだ。ここでは警察・看守・囚人・ギャングが微妙なバランス関係を保つことで、治安が守られている。このパワーバランス維持のカギを握るのが、町の権力者であるマクラスキー家だ。

レナーが演じるのは一家の次男、マイク・マクラスキー。“市長(メイヤー)”と呼ばれる長男・ミッチと共に、各方面に便宜を図りながら、市民と囚人の橋渡しを行っている。三男のカイルは刑事だが、法的にグレーな家業を行う兄たちにも協力的。母・マリアムは家業から距離を置きつつ、女子刑務所で教鞭をとっている。マイクはミッチの右腕として活動していたが、あることをきっかけに“市長”の座を引き継ぐことになる。

メイヤー・オブ・キングスタウン
©2021 ViacomCBS International

“市長”とは単なる通称で、その仕事内容はフィクサーだ。町に構えたオフィスには、獄中のロシアン・マフィアの妻や死刑囚の家族など、刑務所とつながりを持つ人々から様々な相談が持ち込まれる。無理な相談でも落としどころを見つけ、「表」と「裏」の世界を行き来しながら事を治めるのが“市長”の役割。おかげで犯罪者たちが大きな戦争を起こすことはないが、その代わり警察はギャングのドラッグ売買を見過ごし、看守はある程度の自由を囚人に許している。町の秩序維持のため横行する汚職を、FBIも看過している状況だ。

さてシェリダンといえば、『ボーダーライン』では国境麻薬戦争、『最後の追跡』(2016)ではテキサス州の田舎町の貧困、『ウィンド・リバー』では先住民・保留地の実態というように、アメリカ社会の闇に光を当ててきた脚本家だ。刑務所ビジネスをテーマとした本作も例に漏れず、作中では構造的な人種差別・不平等が浮かび上がってくる。マイクの母が教える先住民の大量虐殺や奴隷貿易の歴史を聞けば、現代の抑圧システムと言われる産獄複合体のメタファーだと気づくだろう。

しかし他のシェリダン作品と同様、本作は問題を真正面から批判するものではない。刑務所ビジネスの上に成り立つ人々の共存関係と、それがもたらす影響を、マイクのレンズで映し出すことに重きを置いている。

10年の服役経験があり、「表」と「裏」両方の世界で幅広い人脈を持つマイク。警察や看守からの信頼は厚いため、事件現場にはすんなり入れるし、頼みにも快く応じてもらえる。一方、各ギャングのボスからも認められる存在であり、特に黒人系ギャング「クリップス」のバニーとは、ある種の友好関係すら築いている。

メイヤー・オブ・キングスタウン
©2021 ViacomCBS International

ゆえにマイクは囚人たちの心理を理解でき、何事も多面的に見ることができる。優秀で大胆なタフガイという点では、レナーが『ハート・ロッカー』(2008)で演じたキャラクターに近いかもしれない。こんな町から出たいと願うマイクだが、“市長”は天職だろう。彼はあくまで「中立」の立場から町の平穏を保つことを重視しているが、そのためなら法を曲げ、手荒な手段をとることもいとわない。家業をよく知る母親のセリフを借りれば、「配達人で、調整役で、時にはギャング」にもなる存在だ。

しかしその根底には、正義の心がある。マイクは死刑囚の家族に寄り添い、黒人少年を差別から守り、身も心もズタボロになった売春婦・アイリスのため危険な相手と戦うような男だ。また時に、夜空を見上げて星座について語るなど、詩的な一面も覗かせることもある。強さと残酷さ、優しさが同居したマイクのキャラクターは複雑で、それゆえの魅力に誰もが痺れるはずだ。

メイヤー・オブ・キングスタウン
©2021 ViacomCBS International

そんなマイクの視点で進むストーリーの見どころは、警察・看守・犯罪者から成る生態系の行方だ。シーズンの序盤でマイクは“市長”を継ぐことになるが、彼の人脈や能力をもってしても容易な仕事ではない。視聴者は早い段階で、この不穏な生態系に入った亀裂が、修復不可能になるまで広がるリスクを目にすることになる。

第3話ではある非道な事件が発生し、キングスタウン全体に衝撃が走る。警察は犯人への対処に囚人を巻き込もうとするが、それが“悪魔との取引”になることをマイクは強く懸念する。しかし彼の警告をよそに火種が巻かれ、刻一刻と爆発へと向かっていく。終盤にかけてヒートアップする緊迫感や怒涛のラストを、覚悟して堪能いただきたい。

キャストはレナーのほか、マイクの兄・ミッチ役で『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)などのカイル・チャンドラー、弟・カイル役で『テキサス・チェーンソー ビギニング』(2006)のテイラー・ハンドリー、母・マリアム役で『ブロードウェイと銃弾』(1994)などのオスカー俳優ダイアン・ウィーストが出演。また、「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011-2019)のエイダン・ギレンがロシアン・マフィアのマイロ役、『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』(2023)のエマ・レアードがアイリス役、「ウィッチャー」シーズン1のトビー・バムテファがバニー役として脇を固めている。

シェリダンとともに製作を手がけるのは、刑事のイアン役として出演も兼ねるヒュー・ディロン。ちなみに舞台のキングスタウンは、ディロンの故郷であるカナダ・オンタリオ州キングストンが着想元となっている。さらに、『イコライザー』シリーズ監督でも知られる現代ハードボイルドの達人、アントワーン・フークアも参加している。

なお、本作がシーズン2の米配信を目前に控えた2023年1月、レナーは除雪車の下敷きになり瀕死の重傷を負った。その状況下でもレナーはSNSで前向きなメッセージを発信し、シーズン2の宣伝も熱心にこなしていた。そんな彼の回復を見守りながら、本作の日本上陸を待ち望んでいたファンは多いだろう。以後レナーは驚異的な回復を続けており、2024年初頭のシーズン3の撮影で仕事復帰することが決定。レナーの正式なカムバックを待つ間に、ぜひ「メイヤー・オブ・キングスタウン」の世界観に足を踏み入れていただきたい。

メイヤー・オブ・キングスタウン
©2021 ViacomCBS International

「メイヤー・オブ・キングスタウン」シーズン1は、2023年12月1日よりParamount+ on WOWOWオンデマンドとして配信中。本作の他にも、「スター・トレック:ストレンジ・ニュー・ワールド」シーズン1や「タルサ・キング」といった日本初上陸作品も楽しめる。また、『トップガン』や『トランスフォーマー』シリーズなど大人気のハリウッド映画から、「サウスパーク」「ミュータント・タートルズ」などお馴染みのアニメ作品まで多数ラインナップ。洋画・海外ドラマ・海外アニメ好きは注目だ。

Supported by WOWOW
参照:The New York Times

Writer

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KyokoKyoko Okajima

アメリカ留学、大手動画配信サービスの社員を経て、ライターに転身。海外ドラマが大好きで、永遠のNo.1は『ブレイキング・バッド』と『ベター・コール・ソウル』。

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