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【考察】マーベル映画の「アンカー理論」を考える ─ 『デッドプール&ウルヴァリン』の新設定、どこまで有効?

デッドプール&ウルヴァリン
© 2024 20th Century Studios / © and ™ 2024 MARVEL.

この記事には、『デッドプール&ウルヴァリン』のネタバレが含まれています。

デッドプール&ウルヴァリン
© 2024 20th Century Studios / © and ™ 2024 MARVEL.

『デッドプール&ウルヴァリン』で登場したアンカー理論

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)『デッドプール&ウルヴァリン』では、“アンカー”と呼ばれる新設定が登場。アンカーとはその世界における最重要人物であり、アンカーが死ぬと世界は数千年をかけて内側から消滅するというものだった。

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『デッドプール&ウルヴァリン』で主たる世界となったアース10005におけるアンカーはウルヴァリン/ローガンであり、彼は映画『LOGAN/ローガン』(2017)で死亡していた。映画では、デッドプールが世界消滅を阻止するために別世界のウルヴァリンを探す、という物語が描かれたわけだが、それではマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の神聖時間軸であるアース616 におけるアンカーとは誰なのか?今、海外のファンの間でも盛んに行われている説について、少し考えてみよう。

『アベンジャーズ』の次回作が『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』となり、アイアンマン役のロバート・ダウニー・Jr.が悪役ドクター・ドゥームとしてMCUに復帰するという話題の時、トニー・スタークこそがアンカーだったのではないかという説について検討した。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)でトニーが死亡したことによってアース616は滅亡の危機に瀕し、ヒーローたちが団結するのではないかという考えだ。代替である別世界のトニーを探すうちに、ドクター・ドゥームである世界線のトニーと出会ってしまう……という展開についても触れた。

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ここで、まだ公式には明かされていないアンカー理論そのものについて考えを巡らせてみよう。アンカーとはそのユニバースにおける重要人物であり、なくてはならない存在である。しかし、あらゆるユニバースの長い歴史の中には、そのアンカーが生まれていない時代もあったはずだ。たとえばアース10005におけるアンカーだったローガンの死が描かれた『LOGAN/ローガン』の舞台は2029年で、生まれは1832年。いくら200年近く生きた長寿だからといって、紀元後から数えて1831年の間は、アンカーが不在のままアース10005は存在していたことになる。

ここで考えられる設定はふたつ。「世界はアンカーの誕生を待つことができる」というものと、「アンカーは引き継ぎが行えるもので、どの時代にも存在する」という性質だ。ただしアンカーが突然死や孤独死などを迎えると、その役目を引き継ぐ存在がなくなってしまい、ユニバースは消滅してしまうというもの。『LOGAN』の場合はローラ/X-23が継承しそうなものだったが、実際にはそうならなかった、というわけだ。

後者について考えると、仮にアース616のアンカーがトニー・スタークだったとして、誰か別のものに引き継ぎが生じていたのかもしれない。その有力候補として考えられているのが、スパイダーマン/ピーター・パーカー(トム・ホランド)である。

スパイダーマン/ピーター・パーカーがアンカー説

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
©2021 CTMG. © & ™ 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

トニーとピーターは父子に近しい間柄であり、映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)では、まさにピーターがトニーの意思を継承するような展開もあった。ピーターが新たなアンカーであると考えると、次のような興味深い展開が想像できる。

まず、ピーターがスパイダーマンであるという事実は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)のラストでドクター・ストレンジの魔術によって忘却されているということだ。つまり現在ピーターは、名もない学生の一人。「全員がピーター・パーカーのことを忘れる」というストレンジの魔術がTVAの職員にも効力を発揮しているのだとしたら、今頃TVAは「なぜアース616のアンカーはこんな坊やが務めているのだ?」と困惑しきりだろう。ドラマ「ロキ」や『デッドプール&ウルヴァリン』で紹介されたように、アース616にはアベンジャーズといったスーパーヒーローたちが存在し、世界のために戦っていることを、TVAは知っている。であれば尚のこと、ピーターという謎の学生がアンカーであるというのは、彼らにとって実に理解不能なことだろう。

『デッドプール&ウルヴァリン』内でウェイドに対してそうしていたように、TVAはピーターの元にスパイを送り、その正体を掴もうとするかもしれない。やがてヒーローたちもこうした動きを察知し、さまざまな接触がなされるうちに、ピーター・パーカー=スパイダーマンという事実の再発見につながるのかもしれない。

(あるいは、別の概念世界上に存在するTVAには、ストレンジの魔術が及ばなかったとする。この場合TVAは、誰からも忘れ去られ、人知れずヒーロー活動に勤しむアンカーのピーターを、密かに見守り続けることになるだろう。『デッドプール&ウルヴァリン』でミスター・パラドックスたちはローガンの死亡場面を繰り返し見て感傷に浸っていたようなので、彼らは監視対象の世界における出来事や人物に情をかけることがあるらしい。ピーターがアンカーだとすれば、世界中の誰からも狙われず長く生きてくれた方が、アース616にとっては好都合なはず。もしかするとTVAは、“世界の孫”トム・ホランドによるピーターの生活と活動を心から応援するようになり、彼が平穏に暮らせるように裏側から手を加えるかもしれない?)

次に、多くのファンが期待するように、今後のMCUはピーター・パーカーが中心人物になる、という確信がますます持てるようになることだ。いつの間にか、世界の最重要人物になってしまったピーター。本人がその事実を知るかどうかはわからないが、我々はTVAの監視を通じて、ピーターの物語をより深く知ることになるだろう。

自然、『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』でも、ピーターは主役級キャラクターの一人となるはず。そこでピーターは、かつての師であるトニー・スタークと瓜二つの風貌をしたドクター・ドゥームと対峙することになるのだ。世界最高の知能を持つドゥームは、何らかの方法でTVAにアクセスし、ピーターがアンカーであることを知るかもしれない。やもすれば、その命を狙うことになるかもしれない。ピーターは狼狽えるだろう。スタークさん、どうして……?これ以上ドラマチックな展開はあるだろうか?

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & TM 2019 MARVEL.

また、スパイダーマンはソニー・ピクチャーズが管理するキャラクターであることを考えると、今後マーベル・スタジオは、スパイダーマンを通じてソニー作品との関係をよりスムーズに行う可能性もあると見ることができる。これからのアベンジャーズ作品では、スパイダーマンが『ヴェノム』などソニーの他作品のキャラクターたちを引き連れて登場するかもしれない。

アンカーの候補者としては、ピーター・パーカーの他にも検討したい“説”がある。ドクター・ストレンジだ。

ドクター・ストレンジがアンカー説

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
© 2022 MARVEL

実はマーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギは、2022年の映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)公開のタイミングでストレンジ役のベネディクト・カンバーバッチがハリウッド殿堂入りを果たした際、記念祝典のスピーチでこんな言葉を発しているのだ。「あなたはどこかで、この役がどんなものになり得るかをわかっていて、いつもこのキャラクターのとてつもない可能性を見出していましたね。そのおかげで、あなたはマーベル・シネマティック・ユニバースの“アンカー”となり、マルチバースの狂気の中で、我々を導くことができる唯一の俳優となったのです」。

彼は『デッドプール&ウルヴァリン』に登場したMCU専門用語としての“アンカー”ではなく、“頼みの綱”といった一般用法の範疇で使ったに過ぎないだろう。ところが一説では、「ケヴィン・ファイギはストレンジがアンカーであることを知っていたのでは?」と囁かれているのである。

ストレンジは『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のラストで、多元宇宙間の衝突“インカージョン”を止める冒険に繰り出していた。確かにストレンジはマルチバースを股にかける活躍のできる強力なソーサラー・スプリームではあるが、果たして彼がアンカーであるという説はどれほど有力だろうか?

最後に、ここまで考えてきた全てを覆すようではあるが、こんな考え方も残しておきたい。アンカーとはせいぜい『デッドプール&ウルヴァリン』で、『LOGAN/ローガン』とは別のウルヴァリンを登場させてヒュー・ジャックマンに復帰してもらいたかったがためだけの本作限りの設定で、実際には取るに足らないものではないか?というものだ。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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