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【解説】『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』過去作につながる5つの重要ポイント ─ シリーズ集大成をもっと楽しめる

ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
©2024 PARAMOUNT PICTURES.

1996年の第1作から約30年。トム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル』シリーズは、時代ごとに進化するアクションの尺度を軽々と飛び越え、観客を未知の興奮へと連れ出してきた。その集大成として登場した『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が、早くもデジタル配信でいつでも鑑賞可能となった。

本作は、単なるシリーズ最新作ではない。初期作で放たれた一言、忘れかけていた表情、そして正体不明のままだった“あの物”まで……長年見守ってきた人ほど「そう来たか!」と唸る、過去作との静かな、しかし確かな呼応が随所に仕掛けられている。

本記事では、その中でも特にファン必見の“過去とのつながり”を解説。最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』のみならず、シリーズ過去作を一気に振り返るきっかけにもなるはずだ。シリーズに刻まれた濃密なドラマを、いつでもどこでも味わってほしい。

脅威のAI“エンティティ”のルーツは『ミッション:インポッシブル 3』にあった

ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

シリーズ集大成の最新作で、過去最大の脅威として立ちはだかるのが、“神”に等しい超知能を持つ人工知能エンティティ(それ)だ。前作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』(2023)では正体不明の存在だったが、『ファイナル・レコニング』ではついにそのオリジンが明らかになる。驚くべきことに、その発端はイーサン・ハント自身の過去の任務にあった。

その任務とは、『ミッション:インポッシブル3』(2006)で描かれた“ラビットフット”の奪取である。同作では、当時の妻ジュリアを人質に取られたイーサンが、闇の商人オーウェン・デイヴィアンの命令で正体不明の“ラビットフット”を追った。命懸けの上海ミッションを経て入手に成功するが、その正体は劇中で一切明かされず、公開からおよそ20年にわたりシリーズ最大の謎とされてきた。

『ファイナル・レコニング』で明かされるのは、この“ラビットフット”こそが、後に人類史上最大の脅威となるエンティティの原型(ソースコード)だったという事実だ。ジュリアを救いたい一心で、その内容も知らぬまま持ち出してしまったイーサン。強制されたとはいえ、その行動は結果的にエンティティ創造に加担してしまったこととなり、彼は過去の責任と向き合うことになる。

ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

約20年越しに回収された伏線は、長寿シリーズならではの見事な円環を描く。命懸けの任務を積み重ねてきたイーサンにとって、ジュリアは人間らしい安らぎの象徴でもあり、その名が再び物語に現れることも感慨深い。キャラクターの入れ替わりが多い本シリーズだが、“集大成”の土台には確かな物語の積み重ねがあるのだ。

ちなみに、『ミッション:インポッシブル3』は今や大人気キャラクターに成長したベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)の初登場作でもある。同作では、当時IMFの一技術員だったベンジーが、正体不明の“ラビットフット”について「テクノロジーが世界を滅ぼす」「それは“神への冒涜”だ」と語る場面がある。公開当時は細菌兵器のようなものと推測されていたが、結果的に彼は、世界を滅ぼしかねないAI・エンティティを予言していたとも考えられるだろう。最新作と合わせて『ミッション:インポッシブル3』を見直せば、この壮大な因果の連鎖をより立体的に味わえるはずだ。

「1996年5月22日」に込められた二重の意味

エンティティが各国の核兵器制御を掌握し始めるなか、米大統領エリカ・スローンは最後の望みとしてイーサン・ハントの要請を受ける。彼が求めたのは、潜水艦セヴァストポリを見つけ出すため、65億ドルの原子力空母ジョージ・H・W・ブッシュを動かすことだった。CIA長官ユージーン・キトリッジは当然猛反対するが、イーサンはこう説く。非論理的な決断こそがエンティティを惑わせる、と。

ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「大統領、3日間だけ待ってほしい。今まで僕が一度でも、ご期待に背いたことがありましたか?」イーサンにそう押され、悩んだ末にスローンはタフな決断を下し、海軍の盟友C・ニーリー司令官へ一通の手紙を託す。イーサンからそれを受け取ったニーリーが封を切ると、そこに記されていたのはただ一行、「1996年5月22日」という日付のみ。

それは、かつてスローンとニーリーがセルビアで共に臨んだ任務の日付だった。上層部がリスクを取らなかったせいで、二人は大切な人を失った。ゆえにこの日付は、「今こそリスクを取って、この男に賭けるべきだ」というスローンからの暗号にも等しいメッセージだったのだ。

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©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

しかし、この「1996年5月22日」には、もうひとつの意味が隠されている。そう、これは記念すべきシリーズ第1作『ミッション:インポッシブル』(1996)がアメリカで公開された日付なのである。シリーズすべての始まりを示す日を選んだことで、スローンは我々観客にもこう語りかけているようだ。彼なら必ずやり遂げる、と。ここに、イーサンの言葉が改めて響くようではないか。「今まで僕が一度でも、ご期待に背いたことがありましたか?」

1作目の“黒金庫の男”と、血塗られたナイフの帰還

シリーズ第1作『ミッション:インポッシブル』は、『ファイナル・レコニング』においてさらに深く結び付く。ベンジー、グレース(ヘイリー・アトウェル)ドガ(グレッグ・ターザン・デイヴィス)、パリス(ポム・クレメンティエフ)がSOSUS監視施設を探し、ベーリング海のセント・マシュー島へ向かったとき、氷雪に覆われたその地で出会ったのはCIA駐在員ウィリアム・ダンロー(ロルフ・サクソン)だった。

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©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ダンローは第1作で“黒金庫のダンロー”と呼ばれた人物。CIAのメインフレームを設計し、その高度なセキュリティを誇る金庫に唯一出入りできる存在として、機密ファイルの管理を任されていた。しかし潜入していたクレア(エマニュエル・ベアール)に薬を盛られ、金庫を離れてしまう。その隙にイーサンがファイルを盗み出し、戻ってきたダンローの目に飛び込んできたのは……、天井から誤って落ちたフランツ・クリーガー(ジャン・レノ)のナイフが机に突き刺さった光景だった。ダンローはナイフを見つめ、ついに何が起こったのかを悟る──。

この大事件を経て、ダンローはアラスカに左遷され、以来約30年近く現地で暮らしてきた。劇中、彼はグレースの訪問理由を深く問うことなく、「エンティティが始まったのだな」と即座に理解する。実は何年も前からその危険性を警告していたが、誰にも耳を傾けられなかったという。

そしてついに、イーサンとダンローの約30年ぶりの対面が実現する。イーサンは、自分の行動が彼を左遷させたと謝罪するが、むしろダンローは人生の安らぎと愛を見つけることができたと感謝の言葉を返す。そして彼は、あの運命のナイフを差し出す……第1作の「ワイヤーぶらさがり」潜入ミッションで、クリーガーが誤って落としたもの。仲間を裏切り、血塗られた過去を象徴するそのナイフが、今や和解と信頼の証としてイーサンの手に戻るのだ。

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一本のナイフに凝縮されたのは、「人生は選択の連続の結果だ」というルーサーの言葉にも通じるテーマだ。裏切りと失墜の記憶が、年月を経て赦しと感謝の象徴へと変わる……シリーズ全作が積み重ねてきた壮大な物語が、この瞬間、一本の刃に宿るのである。

ジャスパー・ブリッグスの因縁

『ファイナル・レコニング』で明らかになる衝撃の事実。それは、イーサンを狙うCIAのジャスパー・ブリッグス(シェー・ウィガム)がジム・フェルプスの息子だったということだ。

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ジム・フェルプスとは、映画の原点であるテレビドラマ「スパイ大作戦」(1966〜1973)および「新スパイ大作戦」(1988〜1990)で、IMFのリーダーとして活躍した主人公的存在。だが映画版第1作『ミッション:インポッシブル』(1996)では、そのキャラクター像が一変。仲間を裏切る黒幕として描かれ、ジョン・ボイトの演技と共にシリーズ史に残る衝撃的な“キャラ変”として物議を醸していたのだ。フェルプスは同作で退場し、その後シリーズに再登場することはなかった。

ジャスパーは前作『デッドレコニング』から登場し、執拗にイーサン・ハントを追い続ける。本作で彼は、父の復讐のためではないと語るが、その行動の底には、父フェルプスの時代から脈々と続く因縁が流れていた。イーサンはIMFでの初任務において、フェルプスの裏切りを暴き、組織を守った。その事実は、息子ジャスパーにとって避けられぬ宿命の始まりだったのだ。

物語はやがて、父と息子、そしてイーサンを結びつける約30年越しの因縁を正面から描き出す。ジャスパーとイーサンの対峙は、互いの信念と過去の影がぶつかり合う、『トップガン』級の胸熱ドラマ。しかもその展開は、第1作の物語構造を“逆転”させるような巧みなコールバックとなっている。かつてフェルプスが選んだ裏切りの道に対し、息子ジャスパーは何を選ぶのか?シリーズ集大成にふさわしい、人間ドラマの核心を見ることができる。

シリーズ皆勤賞、ルーサーからの静かなるメッセージ

敵、味方、恋人──これまで数えきれないほどの人物が登場してきたが、シリーズはその誰一人として忘れてはいない。そんな人間関係の積み重ねを象徴するのが、最新作でルーサー(ヴィング・レイムス)が最期の瞬間にぽつりとつぶやく言葉だ。

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本作では、病に冒されたルーサーがたった一人でプルトニウム爆弾を解除しながら、“No one is safe from Phineas Phreak.”と呟く。 字幕では「俺を怒らせたのが運の尽きだ」、吹替では「コンピューターの魔術師を甘く見るな」と訳されたこのセリフは、シリーズ第1作でイーサンがルーサーに向けて発した言葉へのオマージュである。

1作目、イーサンはルーサーをミッションにスカウトしようとするが、危険を理由に一度は断られてしまう。そこで彼はこう切り出す。「君はルーサー・スティッケルだろ? “ハッカー・キング”、そして“コンピューターの魔術師(Phineas Phreak)”

この言葉はルーサーの自尊心をくすぐり、彼をチームに引き入れるきっかけとなった。それ以来、ルーサーはイーサンのかけがえのない相棒として、シリーズ全作に登場し続けてきた唯一の存在となる(イーサン以外で皆勤なのは彼だけだ)。

ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
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そのルーサーが、本作のクライマックスで再び“Phineas Phreak”という言葉を口にする……。それはイーサンとの長い絆の原点を呼び覚ます、ファンだけが気づく静かなオマージュだ。約30年の歴史を経て、あの時の自分を誇らしく思うように。シリーズを通して築かれた彼らの友情と信頼が、この一言にさりげなく表現されているのだ。

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『ファイナル・レコニング』は、シリーズを長く追ってきた観客への“総決算”だ。まるで極上の押韻のように、ファンだけが気付くような粋な仕掛けは、シリーズ監督のクリストファー・マッカリーによるこだわりである。「ファンサービスは命取りになりえる」と考えるマッカリーは、絶妙な塩梅で過去作への言及を込めた。あまりにも直接的なファンサービスは、映画と観客とのつながりを断ち切ってしまうと監督は心得ているのだ。「観客は映画の世界に引き込まれ、何が起きているのかを考えなくてもいい。考えてほしくないのではなく、考えるのは映画が終わってからでいいのです」。

今ならデジタル配信で、いつでもイーサン・ハントのすべてのミッションにアクセスできる。最新作『ファイナル・レコニング』でシリーズの頂点を目撃し、その余韻のまま第1作からの歴史を一気にたどるのも素晴らしい鑑賞体験となるだろう。きっと、過去作で張られていた数々の伏線や言葉が、新たな輝きを帯びて浮かび上がるはずだ。あのときの選択、このときの決断……そのすべてが、イーサン・ハントの物語を形作ってきたのである。

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』はAmazon Prime Video、Apple TV、U-NEXT、他各プラットフォームで絶賛配信中。

Supported by パラマウントジャパン合同会社

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者、運営代表。執筆・編集から企画制作・取材・出演まで。数多くのハリウッドスターに直接インタビューを行なっています。お問い合わせは nakataniアットriverch.jp まで。

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