アカデミー賞を予想する前に!忘れずにチェックしたい有力な前哨戦、傾向の違う映画祭

「前年の1月から12月の間にロサンゼルス地区で1週間以上一般公開された(有料。初めての上映であること)、40分以上の長編作品(35ミリ、70ミリ・フィルムを使っていること)」。
これが映画界最大の祭典、アカデミー賞(Academy Awards)の作品規定です。
本稿を執筆しているのが2017年の11月半ば、つまり第90回アカデミー賞の締め切り時期が迫ってきました。
アカデミー賞は公開時期が遅ければ遅いほど投票権を持つ会員の印象に残りやすいため、各映画会社は年末に向けて大々的にキャンペーンを展開し、この時期に公開を合わせる、あるいはすでに上映済みでも批評家に高い評価を得た作品を再上映するという策を講じるのが一般的です。
2017年は大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインとアカデミー賞俳優のケヴィン・スペイシーをはじめとしたセクハラ騒動が発生し、スペイシーが出演した『オール・ザ・マネー・イン・ザ・ワールド(原題:All the Money in the World)』ではクリストファー・プラマーをスペイシーの代役に立てて再撮影するという措置が取られました。ワインスタインのセクハラ問題は彼がプロデュースを担当した多くの作品に影響し、ワインスタイン・カンパニー作品は苦戦が予想されるとの報も出ています。
さて、この時期になると俄然、アカデミー賞の各種予想サイトが賑わってきます。筆者は毎年、こうした予想サイトをそれなりに熱心に見ているのですが、これらの予想を見ていると、どのようにアカデミー賞の予想が行われているかが分かってきます。
そこで注目したいのが、アカデミー賞と傾向が似通っている各種のアウォードです。今回は、アカデミー賞の結果を占う上で、有力な前哨戦となっている映画賞の数々をご紹介したいと思います。
有名、しかし傾向の違う映画祭
アカデミー賞はアメリカの映画芸術科学アカデミーが授与を行う賞です。
映画芸術科学アカデミーは相応しい実績を残した映画関係者(プロデューサー、俳優、監督、脚本家、技術者など)によって構成され、その会員数は6000人に及ぶといわれています。会員は招待制で国籍は関係なく、我が国からも渡辺謙、滝田洋二郎、北野武、是枝裕和、黒沢清、河瀨直美などが会員になっています(宮崎駿は招待されたが辞退しています)。
アカデミー賞の特徴のひとつ、それはこの投票権を持つ人物の数の多さにあります。これほど多くの人物が集まれば当然のことながら好みは千差万別になるもので、そのためアカデミー賞では、「比較的硬派だが中庸的で芸術性と娯楽性が相半ばするような作品」に票が集まりやすい傾向にあります。
例えば3部作すべてが作品賞候補になった『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(2001-2003)は、寓意的な物語であると同時に、アクションやアドベンチャーも満載の芸術性と娯楽性が程よくミックスされた傑作であり、とりわけアカデミー賞の傾向を物語っているといえるでしょう。
これに対して、カンヌ、ベルリン、ヴェネチアの三大有名映画祭は全く毛色の異なるものとなっています。各映画祭のコンペティション部門はごく少数の審査員によって受賞作が決まるのです。
例えば、第70回のカンヌ国際映画祭では9人の審査員がコンペティション部門の審査を行いました。同映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞した過去10年の映画でアカデミー賞の作品賞候補にもなった作品は『ツリー・オブ・ライフ』(2011)のみであり、同作も最終的には作品賞を逃しています。同様のことはベルリン、ヴェネチアにもいえ、これらの映画祭は権威と独自の地位を築いてはいますが、アカデミー賞との相性は良くありません。
しかし、有名映画祭でも賞の傾向が一致するものはあります。それがトロント国際映画祭です。
同映画祭はノン・コンペティションで、観客の投票で決まる観客賞(ピープルズ・チョイス・アウォード)が最高賞となっています。観客の投票で決まるということは、すなわち、多くの人が喜ぶ最大公約数的な作品が好まれるということになります。それ故に、同映画祭の観客賞受賞作はアカデミー賞と相性がよく、過去10年を振り返ると『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)、『英国王のスピーチ』(2010)、『それでも夜は明ける』(2013)の3作品がアカデミー賞の最優秀作品賞を受賞、『ラ・ラ・ランド』(2016)がアカデミー作品賞の候補になり、監督賞や主演女優賞を含む6部門を受賞しています。
2017年の観客賞は『スリー・ビルボード』(2018年2月1日公開)に授与されましたが、この作品も各種予想サイトでアカデミー賞の有力候補と見なされている一本です。