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【レビュー】『マトリックス レザレクションズ』で再提起される「運命の選択」 ─ 結末に込められた復活の意味

マトリックス レザレクションズ
©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

シリーズの続編か、それともセルフリメイクか。まさに世紀末、パラダイムシフトを起こした『マトリックス』18年ぶりの新作『マトリックス レザレクションズ』は、このどちらの枠にも当てはめることが難しい。時代の流れにともなって更新された地図のように、従来の『マトリックス』と新しい『マトリックス』が融合されているのが、本作なのである。

至上命題は自己蘇生、極めて私的な1作に

 マトリックス レザレクションズ
©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

その地図の作成者は、監督・脚本・製作を手がけたラナ・ウォシャウスキーだ。『マトリックス』といえば、ラナとリリーのウォシャウスキー姉妹が2人で生み出した作品だが、『レザレクションズ』にはラナのみが帰ってきた。したがって新たな地図には、ラナ・ウォシャウスキーという1人のフィルムメーカーが『マトリックス』以降のキャリアで歩み、その目で見てきた世界が大いに反映されている。

それでは『マトリックス レザレクションズ』は、3部作から何が変わらず、何が新しいのか。おそらく『マトリックス』の新作と聞いたファンの多くは、おなじみのカンフーアクションやバレットタイムを越えてくるような革新性に期待するはずだ。その意味では、本作のアクションや映像技術には、1作目以上の興奮を感じられない方もいるだろう。映画業界の20年間の発達を考慮に入れると、映像テクノロジーの側面において期待以上の卓越性はさほど見いだせない。

マトリックス レザレクションズ
©2021 WARNER BROS. ALL RIGHTS RESERVED

そもそもラナ監督は、『マトリックス』3部作の続編を望んでいなかった。むしろスタジオから毎年のように続編製作をオファーされても、そのたびに断り続けていたのだ。そのラナ監督が復帰を決めたきっかけは、親しい友人、両親の相次ぐ死だった(詳細はこちら)。つまり本作は、ラナ監督が自らを“再生”させるための極めて私的な1作だと言える。

この自己蘇生という至上命題こそ、本作の鍵となっている。作り手にとってパーソナルであるが故に、3部作と比較してストーリーは小規模で、ゴールも明確だ。物語展開は前半のチュートリアル部分を除き、遠回りせずストレートな印象である。しかし、決して自己本位的な作品というわけでなく、『マトリックス』が現代で復活したからにはと、強いメッセージが込められているのだ。

「センス8」の精神的続編、運命の選択

 マトリックス レザレクションズ
©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

1996年の長編デビュー作『バウンド』(1996)から、ラナ監督が妹のリリーと共に一貫して掲げてきた主題は「運命の選択」だ。とはいえ『バウンド』や『マトリックス』3部作、『クラウド アトラス』(2012)『ジュピター』(2015)では運命の選択権を握る登場人物の母数は限られており、観客の目にはある種のファンタジーとして映ったはず。ラナ監督の作家性が真価を発揮したのは、ドラマ「センス8」(2015-2018)でだった。そして『マトリックス レザレクションズ』は、この「センス8」の精神的続編と断言できる

ウォシャウスキー姉妹で始めた「センス8」は、シーズン1をもってリリーが製作から離脱。完結編となるシーズン2はラナが引き継いだ。二人三脚でやってきたウォシャウスキー姉妹が別々の道を歩み始めた分岐点こそ「センス8」でもあるのだ。同シリーズは、異国にいる他者と精神を共有させることができる8人の“感応者”(※)が共通の敵に立ち向かっていく物語(後に感応者が遍在していることがわかる)。2012年にトランスジェンダー女性であることを公表したラナ監督は、『マトリックス レザレクションズ』でも重要になってくる“ノンバイナリーな視座”を通して、人種や性別の垣根を越えた“他者との繋がり”を「センス8」で描いた。

テレパシーに近いが超常現象ではない。ドラマでは、感応者は「ホモセンソリウム」と呼ばれる人類ではない別の存在とされている。

Writer

SAWADA
SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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