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【解説】Netflixがワーナー買収、映画業界混乱のまとめ ─ 政界も「独占禁止法にとっての悪夢」

Netflixが、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのスタジオ&ストリーミング部門を買収する契約を正式に締結した。2025年12月5日(米国時間)に両社が発表した。

この正式発表は、Netflixがワーナーの事業買収に向けて独占的な交渉に入ったと報じられてから10時間と経たないうちになされたもの。ワーナーは1株あたり27.75ドルで取引を完了しており、企業価値は約827億ドル。取引は2026年第3四半期(7~9月)に完了する見込みで、規制当局の介入により買収が阻止された場合、Netflixは違約金58億ドルを支払うことになる。

ワーナーは2025年6月にスタジオ&ストリーミング部門とグローバル・ネットワーク部門を別企業として分割することを発表しており、ディスカバリーやCNN、TNT、カートゥーン・ネットワークなどは、予定通り新企業ディスカバリー・グローバルとして独立する。Netflixとワーナーの取引が完了する以前に分割は実施される予定で、新企業のCEOには、現最高財務責任者(CFO)のグンナー・ヴィーデンフェルス氏が就任する計画だ。

今回の発表にあたり、Netflixはワーナーの映画・テレビ作品のライブラリを入手し、ユーザーの選択肢をさらに拡大できると強調。長年にわたるワーナーのノウハウから、スタジオとしての機能を強化してアメリカにおける制作能力を強化できるほか、オリジナルコンテンツへのさらなる投資や雇用の創出が可能になるとした。

Netflixというストリーミング企業が、伝統的な映画スタジオを獲得することの最大の懸念は、従来であれば劇場公開されていたであろう長編映画が、その機会を失うことになる可能性だ。この点について、Netflixは「ワーナー・ブラザースの現在の事業を維持し、映画の劇場公開を含む強みをさらに強化していく」と記した(しかしながら、この記述を鵜呑みにすべきでないことは後述する)。

Netflixとワーナー、両CEOのコメント

買収報道ののち、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのデヴィッド・ザスラフCEOは従業員向けにメッセージを発表し、今回の決定は「業界に起きている世代交代の現実を反映した」ものと説明した。「ストーリーがいかに資金調達され、制作され、配給され、そして発見されているか」なのだと。現在では、ワーナーがNetflixの傘下に加わることが「ビジネスとして最も強固かつ長期的な基盤となるという結論に達した」という。

この声明ののち、ザスラフは従業員との対話ミーティングにて、合併後もNetflixが現在の従業員をほぼ引き継ぐであろうこと、そしてHBO MaxはNetflixに吸収されずなんらかの形で存続されるであろうことを示唆した。ただし、現時点で具体的にどのようなプロセスが踏まれるのか、ワーナーがどのように自社事業を存続させていく見通しなのかは発言されていない。

また、Netflixの共同CEOを務めるテッド・サランドス&グレッグ・ピーターズもアナリストとの電話会談を実施。サランドスは、ワーナー買収を「健全かつ成長中の事業が、別の事業をより健全に成長させ、クリエイターの観客に対するリーチをかつてない形で広げられる」ものとして、「アメリカの製作会社やエンターテインメント業界において、過去数年よりもさらにアクティブな機会をもたらす」とした。

しかし米国メディアでも指摘されているように、サランドスは劇場での映画体験を「時代遅れ」だと公言している人物だ。Netflixは、数々のオリジナル作品を劇場公開していることから「劇場公開に反対してはいない」と主張しているが、公開規模は従来の映画スタジオやライバルのストリーミング企業よりも小さい。

今回、サランドスは「ワーナーから劇場公開が予定されている作品は、引き続きワーナーから劇場公開されることになるでしょう。Netflix映画もこれまでと同じく、一部の作品は映画館で短期間の上映を行います」とのみ言及し、具体的な計画までは語らなかった。

しかしながら、買収後はワーナー作品の劇場公開を縮小する可能性も示唆されている。「時の流れとともに、(リリースの)手段はより消費者フレンドリーに進化し、世界中の観客により早く届けられる」とサランドスは述べ、「私たちの最大の目標は新作映画を会員の皆様にお届けすること。それこそが求められていることだからです」と語った。Netflixの声明にある「ワーナーの事業を維持し、映画の劇場公開を含む強みをさらに強化」するという内容といかに両立されるかはまだわからず、業界の反発をおさえることはできていない。

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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