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【解説】Netflixがワーナー買収、映画業界混乱のまとめ ─ 政界も「独占禁止法にとっての悪夢」

映画業界、Netflixの買収に猛反発

正式発表される以前から、ハリウッドの映画人たちはNetflixのワーナー買収にきわめて批判的な姿勢を見せていた。著名なフィルムメイカーが多数名を連ねるという匿名団体は、アメリカ議会に対して「Netflixがワーナーを買収した場合、ハリウッドに経済的・制度的な崩壊が起こりうる」と警告する公開書簡を送り、映画館市場を破壊する可能性があるとして、独占禁止法に基づく精査を求めている。

今回の正式発表ののちには、各団体が買収に対するコメントを相次いで発表した。

「この合併は阻止されるべき」と最も強い言葉で記したのは全米脚本家組合(WGA)だ。「世界最大のストリーミング企業が最大のライバルを吸収合併する」ことで、雇用の喪失や賃金の低下、エンターテインメント業界における労働条件の悪化、消費者に不利な価格上昇、そしてコンテンツの量と多様性の減少が危惧されている。「すでに、一部の有力企業がテレビやストリーミング、映画館のコンテンツを管理していることで、業界関係者だけでなく一般市民も大きな影響を受けています」と記した。

プロデューサーの業界団体である全米製作者組合(PGA)は、今回の買収に「当然ながら懸念を抱いている」とした。「経済と技術のめまぐるしい変化の中、我々の業界は政策立案者と共に、プロデューサーの生活と真の劇場配給を守り、創造性を育て、労働者とアーティストの機会を促進し、消費者に選択肢を与え、言論の自由を擁護しなければなりません。伝統的なスタジオは単なるコンテンツライブラリではなく、国の個性と文化が詰まっているのです」。

劇場体験を重視する映画監督クリストファー・ノーランが会長に就任したばかりの全米監督協会(DGA)は、Netflixのワーナー買収を「重大な懸念事項」であるとして、「我々の懸念を整理し、企業の将来的なビジョンをより深く理解するため、Netflix側と面談する」とした。「活気のある競争的な業界──すなわち創造性を育み、才能を求める真の競争を奨励する業界こそが、監督とそのチームのキャリアと創造的権利には不可欠だと考えています」。

全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)も「業界の将来、特にクリエイティブな才能たちの生活とキャリアの影響について多くの深刻な疑問」があるとした。明確に買収反対の姿勢を取ってはいないが、あくまでも「SA​​G-AFTRA会員と業界の全労働者の利益となる買収は、より多くの創造と製作を生み出すものであるべき」「才能を尊重する環境で行われるべき」として、買収に関する立場は「会員の利益を基準に、雇用面と制作面に焦点を当てた徹底的な分析の上で決定される」としている。

国際ドキュメンタリー協会(IDA)は、Netflixのワーナー買収が「ドキュメンタリー映画製作の未来に深刻なダメージを与える」と主張。「ドキュメンタリー製作者たちの創造的機会と、語るべき物語を伝える自由を脅かすものであり、世界中のドキュメンタリーの種類と質を劇的に低下させる」とした。「Netflixによる圧倒的な市場支配は、必然的に競争を阻害し、表現の自由を阻害し、視聴者の選択肢を制限するものです」。

映画館の業界団体Cinema United(元・全米劇場所有者協会)も、今回の買収を「世界中の映画館にとって前例のない脅威」とした。「米国および世界中の大手映画館から、小さな町の独立系映画館まで、あらゆる劇場に悪影響が及ぶ」と。「Netflixのビジネスモデルは劇場での映画上映を支持するものではありません。規制当局は、提案された取引の詳細を綿密に検討し、消費者と映画館、そして業界に及ぼす悪影響を理解する必要があります」。

米国の大手映画館チェーン幹部から「買収の頓挫を願っている」という言葉が出しているように、上映期間の短縮は収益性に直接的な影響をもたらす。収益が下がれば映画館の営業が立ち行かなくなり、雇用や経済に悪影響をもたらすのだ。一方、実際にワーナーを傘下に収め、巨大フランチャイズや劇場での収益性が高い作品を手にしたことで、Netflixのビジネスにも変化が起きることを期待する声もある。

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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