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【考察】狂気だけじゃない!『ナイトクローラー』が鋭く切り取る現代社会とは?

『ミッション:8ミニッツ』『プリズナーズ』『サウスポー』など話題作に数多く出演し、2017年2月公開の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』でも主演するなど、今ノリに乗っている俳優ジェイク・ギレンホール

彼が主演を務めた2014年公開の映画『ナイトクローラー』は、報道番組に映像を売って稼ぐパパラッチ“ナイトクローラー”になった男の姿を描いたスリラー作品です。頬はやせこけ、大きくぎょろっとした目を光らせて、猟奇的な微笑みを顔に浮かべる……。ギレンホールの怪演は公開当時から大きな注目を集めました。

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常軌を逸した主人公がなにかと印象的な映画ですが、この『ナイトクローラー』は、今の社会を鮮烈に風刺した作品になっていると思います。今回は、この作品から読み取れる“現代社会”、そして“働くこと”に迫っていきます。

SNS時代への警告?

ジェイク・ギレンホール演じる主人公ルー。彼の撮影した事故映像は、大怪我した人も映っているかなり過激なもの。その映像には高く値がつけられ、彼はもっと刺激的な映像を求めるようになります。どこの局よりも早く撮影するために夜の道を爆走したり、死体を動かしてまで“いい画” を撮ろうとしたり……。事故や事件の映像に執着する姿は、まさに病的で狂気的です。

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しかしこの行動をしているのはルーだけでしょうか? パパラッチだけでしょうか? “見せること”に固執している人は、身近にあふれているはずです。

若い世代にとって今や生活になくてはならない“SNS”。Instagram、Facebook、Twitter、さらに近頃ではSnapchatなど。毎日欠かさずチェックして、自分の日常をアップする。私も暇な時間があれば、ついついTwitterなどを無意識のうちに開いてしまっています。

たとえばSNSに載せる写真のために、わざわざフォトジェニックな場所に行く。カフェで物の配置を何度も変えて写真を撮る。おしゃれな所に行ったら、強迫観念のようにまずは写真を撮る。載せた写真についた「イイネ」やコメントの数や、フォロワーの数がステータスになる。海外のセレブたちには、Instagramのためだけに服を揃えたり、家具を買い替えたりする人もいます。

ルーが自分の映像の視聴率をすかさずチェックしていたように、事故や事件の情報をラジオに張り付いて聞いていたように、現代の若者たちの多くが“見せること”に振り回されていると思うのです。

ネット上に載せる写真や映像、その数字に執着する姿。ルーは極端すぎますけれども、このちょっとした狂気は、今を生きる人間みんなが心の奥底に秘めているものなのかも。

他人のことは結局“他人のこと”

事故現場を改ざんしたり、スクープのためなら殺人現場を平気でウロウロ歩き回るルーも常人ではありませんが、視聴率のため、死体や凄惨な事故現場の映像を流してしまう報道番組もどうかしています。そこにはもう道徳や倫理なんて言葉は存在しません。あろうことか、刺激的な映像を流せば流すほど視聴率も上がっていくのです。家庭のテレビの前で、事故や事件の衝撃的な画を眺めている大勢の人たち……不気味だと思いませんか?

世間では様々な事柄が報道されます。お堅い政治の話やお金の話、物流の話。それでも大きく取り上げられ、長く報道されて、誰もが話題にするニュースは“他人の身に起こった、幸福とはいえない出来事”だったりします。画面の向こうだからといって、刺激的な映像も“他人のこと”として冷静に捉え、どこか背徳感をともなう好奇心がむくりと起き上がってしまう。現代の人間みんなが、このような内面をどこか抱えているのではないでしょうか。

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映画『アメリカン・サイコ』でも、サイコパスな主人公を取り巻く人間たちはみんな“他人のことには無関心”でした。『トゥルーマン・ショー』も、トゥルーマンの番組が終わった瞬間、視聴者たちがすぐにチャンネルを変えている場面が印象的です。

社会に流れる空虚感、他人は所詮他人でしかないという世の中。もっとも『ナイトクローラー』は、そんな空虚感なんて感じさせないほどにルーのイカれっぷりがすごいんですけれどね。

ひょっとして、こういう人が一番成功する?

ルーはパパラッチを始めてから狂ったわけではない、と私は思います。彼は最初からどこかネジがずれているのです。学歴もなければ職もない。そして“ナイトクローラー”という職業に出会い、刺激的な映像と高額の報酬、視聴率を求めて道徳の一線を越えていく。それでも彼は劇中でのし上がっちゃっているんです。

雇ったアルバイトには無茶な要求をし、低賃金で働かせる。自分だって経験が浅いくせに、「これはこういう仕事なんだから!」とやたら語る。獲物(事故や事件)を見つけたら血眼で爆走し、自分の映像の視聴率は全て覚えている。なぜだか彼には、「や、俺なら大丈夫っしょ」と言わんばかりの、どこから沸いているのか分からない自信に満ち溢れています。自信というよりは、むしろ“俺が一番優れている”という考え方でしょう。

確かに、彼のやり方は合理的です。いい画が撮れないなら作ってしまえばいい。また彼は、一緒に働く人たちへの接し方も使い分けていますよね。報道番組の熟女プロデューサーにはとことん強気、アルバイトにも思いっきり強気、キャスターたちには普通にふるまう。自分にどんな利益があるか、どんな役割を果たしてくれるのか、決して判断を誤っていないのです。

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きっと、周りにひとりはいますよね。決して正しくはないのにうまく結果を出してしまう人、いい人と見せかけて裏で人を操っている人、男の前だと声色が変わる女の子、などなど。でもそういう人に限って成功したり、昇進したり、モテたりする。なんだか不公平にも感じられる、「正しい」がいつも「うまくいく」とは限らない世の中を垣間見られるのも、『ナイトクローラー』を観たあとの“なんとも言えないつらさ”の要因かもしれません。

鮮烈に現代を風刺しながら、ひとりの男の狂気が走り抜ける映画『ナイトクローラー』。あなたはこの作品を観て、果たして社会に何を思いますか?

Writer

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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