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ロバート・レッドフォード、ジム・キャリー、リチャード・ギア…なぜかアカデミー賞に恵まれないスター俳優たち

[左]Photo by U.S. Embassy photographer JP Evans https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ambassador_Susman_and_Robert_Redford.jpg [中]Photo by Ian Smith https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jim_Carrey_2008.jpg [右]Photo by Zff2012 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Richard_Gere_2012_(cropped).jpg Remixed by THE RIVER

ロバート・レッドフォードが俳優業から引退する意向を発表しました。

レッドフォードは、1960年にテレビ・映画で俳優としてキャリアをスタートさせ、『明日に向って撃て!』(1962)でブレイク。1970年代にはハリウッド屈指の美男俳優として一世を風靡しました。1980年代には監督業にも進出し、『普通の人々』(1980)ではアカデミー賞の最優秀監督賞も受賞しています。引退する意向を示したのは俳優業のみであり、監督・プロデューサーとしての引退は表明していませんが、今後の意向に変化がなければ、実在した強盗フォレスト・タッカーが70歳代で脱獄を成功させたエピソードを描く『The Old Man & the Gun(原題)』(2018)がスクリーンでの彼の見納めとなります。

ロバート・レッドフォード
Photo by U.S. Embassy photographer JP Evans https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ambassador_Susman_and_Robert_Redford.jpg

前述の通り、レッドフォードは1960年代からキャリアを始め、半世紀以上に渡って俳優として第一線の実績を残してきました。しかし、その太く長いキャリアにもかかわらず、俳優としてアカデミー賞の経験はなく、1度候補になったのみです。
非常に寡作(特に2000年代以降の出演作はわずか5本)でありながらアカデミー賞を3度受賞したダニエル・デイ=ルイス、史上最多のノミネート数で受賞3度のメリル・ストリープ、4度受賞のキャサリン・ヘップバーン、3度受賞のジャック・ニコルソンといった、いわゆる“アカデミー会員”に愛された面々と比較すると寂しい結果を言わざるを得ません。

今回はレッドフォードと同じく、アカデミー賞無冠のスター俳優たちを振り返っていきます。

コメディに冷たいアカデミー賞

そもそも、アカデミー賞はどのような作品に出演した、どのような俳優を選出しているのか。
どのような賞にも傾向がありますが、アカデミー賞の特徴に「コメディに冷たい」ことが挙げられます。それは権威ある賞であり、アカデミー賞との一致率も高く、有力な前哨戦と見なされているゴールデングローブ賞と比較するとよくわかります。
ゴールデングローブ賞はアカデミー賞とは異なり、作品賞がテレビ部門と映画部門に分かれており、そのなかでドラマ部門とミュージカル・コメディ部門に分かれています。演技賞の助演部門はドラマとミュージカル・コメディで共通ですが、主演部門はドラマとミュージカル・コメディで分けられているのです。

たとえばジム・キャリーは、これまで最も多く涙をのんだ存在の一人と言えるでしょう。
ピーター・ウィアー監督の『トゥルーマン・ショー』(1998)でゴールデングローブ賞の主演男優賞(ミュージカル・コメディ)部門を受賞。同作は非常に高い評価を受け、アカデミー賞でもウィアーが監督賞、エド・ハリスが助演男優賞候補になりましたがキャリーはまさかの候補漏れ。翌年の『マン・オン・ザ・ムーン』(1999)でもゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞し2年連続受賞の快挙を果たしましたが、やはりアカデミー賞では候補にも入りませんでした。

ジム・キャリー
Photo by Ian Smith https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jim_Carrey_2008.jpg

その後もサシャ・バロン・コーエンが『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006)、ロバート・ダウニー・Jr.が『シャーロック・ホームズ』(2009)でゴールデングローブ賞の主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞していますが両者ともにアカデミー賞では候補漏れとなりました。ベン・スティラー、ウィル・フェレル、ヴィンス・ヴォーン、アダム・サンドラーといったコメディをメインフィールドとする俳優も軒並みアカデミー賞へのノミネート経験がありません。

長年コメディをメインフィールドにしていたコリン・ファースも、アカデミー賞初ノミネートはシリアスな『シングルマン』(2009)、初受賞も『英国王のスピーチ』(2010)でした。同じくコメディのイメージが強いスティーヴ・カレルも、2018年時点でのノミネートは『フォックスキャッチャー』(2014)のみであり、アカデミー賞への近道はシリアスな良作に出ることと言えそうです。

一方でアカデミー賞はコメディには冷たいもののミュージカルには優しく、2000年代以降に限ってもエマ・ストーン、アン・ハサウェイ、ジェニファー・ハドソン、リース・ウィザースプーン、ジェイミー・フォックス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズがミュージカル(正確にいえばゴールデングローブ賞が「ミュージカル」としてカテゴリー分けした映画)でアカデミー賞を受賞しています。

アクションに冷たいアカデミー賞

コメディに冷たいアカデミー賞ですが、アクションはそれ以上に冷遇されているジャンルです。

アクション大作の出演者で受賞までこぎつけたのは『ダークナイト』(2008)のヒース・レジャーくらいで、ノミネートまで広げても『エイリアン2』(1986)のシガニー・ウィーバー、『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003)のジョニー・デップがいる程度です。

1970~1980年代にはシルヴェスター・スタローン、チャック・ノリス、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、スティーヴン・セガール、アーノルド・シュワルツェネッガーといった肉体派スターたちがスクリーンを彩ってきましたが、この中でアカデミー賞候補経験があるのはスタローンのみで、彼らの映画界での功績を考慮すると「冷遇されている」と言わざるを得ません。ブルース・ウィリス、ジェイソン・ステイサム、ヴィン・ディーゼルといった、アクション専業ではないもののアクションのイメージが強い俳優たちも、やはり2018年時点ではノミネートの経験がありません。

なぜかアカデミー賞無冠のスター俳優たち

このように、アカデミー賞がアクション俳優とコメディ俳優を冷遇する傾向にあります。これは良し悪しではなく、単純に賞の傾向であって、それ自体を批判するものではありません。しかしアカデミー賞はハリウッドをメインフィールドとする映画賞であり、ハリウッドの映画人に対する功労賞的な意味合いのある賞でもあります。
たとえばマーティン・スコセッシが最高傑作とは言いがたい『ディパーテッド』(2006)で監督賞を受賞したことや、同じくベストパフォーマンスとは言いがたい『ハスラー2』(1986)でポール・ニューマンが主演男優賞を受賞したことは、功労賞としてのアカデミー賞の側面を物語っているといえるでしょう(ニューマンは前年にアカデミー名誉賞も受賞)。

しかし、その“功労賞”の機会に恵まれない俳優たちもいます。下記はアカデミー賞好みの映画に多数出演し、大きな功績があるにもかかわらず、アカデミー賞に無縁であるスターたちの例です(※は故人、2018年時点、順不同)。

  • ※ピーター・オトゥール ノミネート8回
  • ※リチャード・バートン ノミネート7回
  • グレン・クローズ ノミネート6回
  • エド・ハリス ノミネート4回
  • アルバート・フィニー ノミネート5回
  • アネット・ベニング ノミネート4回 
  • ハリソン・フォード ノミネート1回
  • ロバート・レッドフォード ノミネート1回
  • サミュエル・L・ジャクソン ノミネート1回
  • クリント・イーストウッド ノミネート2回
  • トム・クルーズ ノミネート3回
  • マット・デイモン ノミネート3回
  • ブラッド・ピット ノミネート3回
  • リチャード・ギア ノミネートなし
  • キアヌ・リーブス ノミネートなし

錚々たるビッグネームが並びますが、彼らのアカデミー賞受賞回数は全員併せても0回です。一番若いデイモンでも40代後半で、20年以上のキャリアがあります。ギアは『シカゴ』(2002)でゴールデングローブ賞主演男優賞 (ミュージカル・コメディ部門)を受賞し、同作はアカデミー賞の有力候補と見なされていましたが実際には候補漏れとなりました。2018年時点で彼の映画界でのキャリアは40年を超えますが、アカデミー賞は候補経験すらありません。これは不可解とすら言えるでしょう。

リチャード・ギア
Photo by Zff2012 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Richard_Gere_2012_(cropped).jpg

ちなみに、何度も涙を呑んできた彼らとは対照的に、デビュー作であっさり受賞してしまった例もあります。映画初出演で受賞したマーリー・マトリン、映画どころか演技経験なしで受賞したハイン・S・ニョールなどその最たる例でしょう。彼らは受賞当時スターではありませんでしたし、受賞後もスターと言える活躍はしていません。初ノミネートで受賞した、ジョン・ローンやミラ・ソルヴィノもスターとしての地位を確立したとは言い難いです、

結局のところ、コンペティションで受賞に至るには運の要素も重要になってくるのでしょう。アカデミー賞は獲っていませんが、ロバート・レッドフォードは紛れもなく一時代を代表するスターでしたし、その功績はたとえアカデミー賞を獲っていなくても賞賛されるべきです。惜しまれつつもスクリーンの向こう側を去る大スターの最後の雄姿を見届けたいと思います。

レッドフォードの引退作『The Old Man & the Gun(原題)』は2018年9月28日に全米公開予定です。

Eyecatch Image: [左]Photo by U.S. Embassy photographer JP Evans  [中]Photo by Ian Smith [右]Photo by Zff2012 Remixed by THE RIVER

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ニコ・トスカーニMasamichi Kamiya

フリーエンジニア兼任のウェイブライター。日曜映画脚本家・製作者。 脚本・制作参加作品『11月19日』が2019年5月11日から一週間限定のレイトショーで公開されます(於・池袋シネマロサ) 予告編 → https://www.youtube.com/watch?v=12zc4pRpkaM 映画ホームページ → https://sorekara.wixsite.com/nov19?fbclid=IwAR3Rphij0tKB1-Mzqyeq8ibNcBm-PBN-lP5Pg9LV2wllIFksVo8Qycasyas  何かあれば(何がかわかりませんが)こちらへどうぞ → scriptum8412■gmail.com  (■を@に変えてください)