『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』脚本ナシで撮影されたシーンがあった ─ 監督「予告編のセリフ、僕も役者も何を言っているのかわかっていなかった」

大作アクション映画には、「なぜそんな無茶な作り方になったのか?」と思ってしまうような映画がいくつも存在する。たとえば『ミッション:インポッシブル』シリーズのトム・クルーズとクリストファー・マッカリー監督が、脚本の執筆と本撮影を同時に行うことはよく知られたエピソードだ。
同じくスパイ映画の金字塔である『007』シリーズの最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』も、第25作にして禁断の領域に足を踏み入れていたことがわかった。Esquire Middle Eastにて、キャリー・ジョージ・フクナガ監督は、脚本がないまま撮影を進めていたことを認めている。ただし本作の場合、やむにやまれぬ事情があって……。
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そもそもフクナガが『007』第25作に就任した時点で、与えられていた準備期間は短かった。しかも、前任のダニー・ボイル監督の降板を受けて後任者として参加した際、フクナガは脚本をイチから作り直している。しかし残されていた期間は、一般的に必要とされる時間のわずか3分の1しかなかった。
もっとも想定外だったのは、撮影前半の2019年5月に、ジェームズ・ボンド役のダニエル・クレイグが負傷して撮影を一時離脱したことだ。スケジュールのシャッフルにより、監督はまだ脚本が書かれていないシーンを先に撮ることになった。
「(当時)準備ができていたセットが、MI6にあるMのオフィスしかなかったんです。自分であらすじを書いていたので、そのシーンのあたりでどんなことをしたいのかは多少わかっていましたが、脚本の中身はまったく書いていなかった。世界最高の俳優たちと一緒だったことが幸いでした。」
すでに執筆された台詞もあったが、それらは意図こそあるものの曖昧な点も多かったそう。「第三幕に活かせると思っていた」とはフクナガ監督自身の談だが、それくらい決まっていないことも多く、「まるでゲームブックを書いている感覚だった」とも述べられている。「ここでこうなるのなら、あそこはああしなきゃ、そうするとこのページは……という感じ。最終的に映画を仕上げていく際、どうにかすべてをまとめ上げました」。

問題のシーンに出演していたのは、M役のレイフ・ファインズ、Q役のベン・ウィショー、ビル・タナー役のロリー・キニア。監督は自分が書いた台詞をひとまず俳優に託し、現場で練り上げていくスタイルを採用するほかなかった。
「“すみません、レイフ。この台詞はまったく隠された意図がないバージョンなんです”と言って。そうすると、レイフが僕のどうしようもない台詞を素晴らしいものに変えてくれる。ロリーも、そのシーンに必要なものをわかっているし、自分自身でそういうものを台詞に加えてくれる。だから僕は、“最高の台詞です!”と。
全員が物語上の役目を理解し、物語のジャンルをわかっていたから、緊急事態の中で素晴らしい作業ができました。どういう雰囲気にすべきか、どんなリズムの音楽が鳴るのかをわかった上で、きちんと演じることができる。みなさんが最高のプロフェッショナルだからこそです。」
フクナガ監督は、ここでひとつの秘密を教えてくれている。「予告編でレイフ・ファインズが言っている台詞は、(撮影当時は)レイフも僕も、いったい何を言っているのかよくわかっていなかった」というのだ。

ともあれ、結果的に監督はこの創作法を気に入ることになる。のちにダニエルが撮影に復帰するや、積極的に意見を求め、あらゆるアイデアを取り入れながら撮影現場で脚本を形にしていくスタイルを選んでいるのだ。「ダニエルは自分のノートにボンドのモノローグを書いているし、ボンド以外の台詞を書いていることもあります。常にアイデアがある人なので、一緒に作り上げていきました」。のちに、サフィン役のラミ・マレックもこのやり取りに参加。フクナガは「ストーリーやキャラクターをできるだけ良いものにするため、全員の頭を使いました。より面白く、重層的で、深みのあるものにしたかった」と語っている。
ちなみにフクナガは、Netflixドラマ「マニアック」(2018)を手がけた際にも撮影と執筆を並行して進めた経験の持ち主。ただし同作を作り終えた後は、あまりの大変さに「二度とやるまい」と決意していたという。もっとも『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では、撮影終了後のポストプロダクションに至ってもなお執筆が続くことになった。「どうにかすべてをまとめ上げた」というコメントは、決して大げさな表現ではないのだろう。
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は全国公開中。
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Source: Esquire Middle East